作品タイトル不明
拡大家族会議 ⑥
魔獣の群れの南下は、もっと北側に脅威が出現した可能性をも示唆しているとは考えられないだろうか。
心配しすぎなのかも知れないけど、詳細な情報が必要だな。
生態系の異変は治癒魔法術師量産計画にも影響するかも知れない。
「それ故、部隊指揮官が果たすべき役割は大きいのだ」
「・・・精進します」
お爺様から向けられた目差しに深く頷いて返す。
指揮官の役割か・・・。
統率力に判断力、かな?
部下からの信頼も必要だろうし、信頼を得るには知識も必要だろう。
必要なのは理解できるけど、やることが多すぎて溜息が漏れそうになる。
ルナリアと私とノーア以外、この部屋に居る人たちは、みんな、それを持っている凄い人たちばかりで、私たちの周りは、お手本となる人たちで囲まれている。
それが、どれほど幸運なことなのかが、個人の能力を要求される立場になってみれば、よく分かる。
知識を借りられて、経験からのアドバイスを貰えるだけでも、自分が直面する事態を乗り越えるためのヒントになる。
そんなことを考えている私の思考を断ち切ったのはハインズ様だ。
「そう言えば、採掘場の奥でバンダースナッチの痕跡が見つかったと報告が上がってきておったな」
「群れか?」
グハァ! 早速、来た!
ハインズ様にハロルド様が情報を確認する。
「まだ正確には分かっておらんが、比較的、小規模ではあるようだ」
「小規模と言うと、10頭程度か」
目を厳しくしたお母様が首を傾げる。
「そのようだ。採掘場から1キロメテルほど奥らしいのでな。南下してきているバイコーンを追ってきた可能性が有る」
「この忙しくなりそうなときに、面倒な」
1キロメートルなんて、目と鼻の先じゃん!
渋面を作るお母様をチラリと見たハロルド様が、ハインズ様へと視線を移す。
「討伐隊を編成すべきか?」
「まだ少し様子見だな。カリークの動きも少々きな臭い」
「またか」
首を振って返したハインズ様の答えに、ハロルド様の呟きに同調して、室内の全員が溜息を吐いた。
「確定情報では無いが、代替わりの情報で欲をかいたのかも知れん」
「・・・私たちが舐められていると?」
「気に入らないわね」
カチンと来たのはルナリアも同じだったようだ。
ルナリアに目線を移すと、ルナリアも不機嫌そうな顔をしている。
ルナリアの不満表明で、血が上り掛けた私の頭が少し冷える。
「・・・時期が重なると、今度は魔獣討伐との二正面作戦になりますから、バンダースナッチを先に片付けておきたいですね」
「どうするつもりだ?」
私に全員の視線が集まる。
ハインズ様の、この問いは、具体策を問うものだろう。
西部国境と南部国境の二正面作戦で精神も食糧備蓄も削られた記憶が新しいウォーレス家の面々に、先制攻勢に出る意見への否定的な空気は無い。
「・・・取りあえず、ワナを仕掛けてみたいです」
魔獣って言っても四つ足の動物型だよね?
四つ足で有る以上、滅茶苦茶にパワーがあるとかでもない限りは、シカと大して変わらないと思うよ?
お爺様が難しい顔で唸る。
「それしか無いか」
「しかし、お前たちだけでは負担が大きかろう?」
心配そうに見るハインズ様と視線を合わせる。
「・・・猟師を動員できませんか? 大抵の動物なら、シカやイノシシに使っているククリ罠で対応できると思うのですが」
「わたしも手伝うわよ!」
「・・・うん。お願い」
私の正面に座っているルナリアと笑い合う。
「ふむ・・・。やってみるか? 鉱山の安全上、採掘場に近付けたくない」
「余裕が有る内に対処できるものなら、その方が良いが・・・」
お爺様は前向きだけど、ハインズ様は、まだ心配顔だね。
「・・・シカを追ってくるということは、バンダースナッチという魔獣は肉食獣なのですよね? どのような魔獣なのでしょうか」
「別名は“森オオカミ”だ。基本的に群れで行動するが、強い個体だと単独行動を取ることも有る。厄介なのは、群れる性質だけでなく、牙に火術式の発現器官を持っておってな。噛み付かれると火傷では済まぬ」
「・・・ふむふむ」
野生動物なんて、みんなそうだけど、「近付くと危険」と。
噛み付く牙から火魔法ってことは、傷口の中から焼かれるのか。
傷口を焼いて出血を止める応急止血方法があったはずだけど、止血してくれるのかな?
群れと戦った経験は私も無いけど、私はワナで動きを封じるスタイルだから、ワナに掛かってくれさえすれば、あんまり関係ないかな。
そんなことより、「牙に火術式の発現器官を持っている」という部分に、私はトキメキを感じている。
もしかして、火属性の魔石を持ってたりする?
私、まだ火属性の魔石って見たことも触れたことも無いんだよ。
いつだったか、魔法道具の話か何かを教わったときに、火属性の魔石は西方諸国で需要が有って、高く売れると聞いたような?
需要が有るってことは、利用方法が有るんだよね?
その利用方法に、めっちゃ興味が有るし、何らかの兵器利用が行われている可能性だって否定できない。
万が一にも兵器利用されている可能性が有るのなら、その兵器による脅威はリテルダニア王国へ向けられる可能性が高い。
だったら、その原材料なんて絶対に輸出させちゃいけない。
安全保障上の戦略物資として禁輸措置を執るのは当たり前だし、それ以前に、利用方法が有るなら王国で地産地消したい。
どんな形で使えるんだろう?
鍛冶技術と組み合わせて内燃機関を作れたりしないかな?
内燃機関を作れれば、念願の自動車が手に入る。
うおおお! ワクワクしてきた!
もう、期待でテッカテカだよ!
おっと。深刻な危機感を感じていない私の様子に気付いたらしいハインズ様が目を向けてくる。
「何か手が有るのか?」
「・・・寄せ餌を使ってみようかと。餌なら採掘場に居ますし、追ってくるぐらいですから好物なのでしょう。寄せ餌を仕掛ける場所と採掘場の間はワナで埋め尽くします」
ククリ罠での接近阻止線の構築だ。
地雷原的な? それとも、マジノ線的な?
ワナ猟に慣れてきた猟師さんたちを動員しての物量戦なら、やれるはず。
戦いは数だよ、ハインズ様!