軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

拡大家族会議 ⑤

モチベーションの下がった私の疑問に答えてくれたのはハロルド様だ。

「“深い”というのは場所のことだ。一番近い領地はファーレンガルド領だったか」

「・・・ははぁ。ウォーレス領よりも黒龍山脈に近いから、魔獣が強い、という意味でしょうか」

私の解釈で間違っていなかったようで、ハロルド様が頷く。

「そういうことだ。あの辺りだと、バジリスクとバイコーンと、バンダースナッチに、ベヒモスぐらいは出るか?」

「イェーティも、だな。最近はショージョーの目撃情報が有るらしい」

ハロルド様の情報確認にお爺様が答える。

ベヒモスにイエティ? いや、イーエティ? イェーティだったか。

イエティって雪山に出る”雪男”だっけ。

いや、熊だったかな?

熊か・・・。殲滅対象だな。

熊は絶対に絶滅させなきゃ。

魔獣としては聞き覚えがある名前だけど、地球のファンタジー生物と、こっちの世界の魔獣って微妙に生物が一致しないからなあ。

そもそもの元となる伝承が、あやふやで、そこに想像やこじつけがミックスされたものだし、存在や詳細が明らかになっているのなら、それはもうファンタジー生物ではなく、ただの珍しい生物だ。

こっちの世界の魔獣だと魔力を持っているからファンタジー生物で確定なんだけど。

ちなみに、ベヒモスは”カバ”じゃなかったかな。

牛だっけ? いや、伝承の元はカバだったはず。

私はカバに恨みは無いから、正直、それほど殺意は湧かない。

イェーティ、ねぇ・・・。

フヒッ・・・。フヒヒヒヒ。

森に“蒼焔”を落としまくれば滅ぼせるかな?

熊なら私の殺る気もマシマシなんだけど、ファーレンガルド家から支援要請は来る?

どうやって殺そうかと私が暗い妄想にトリップしそうになっている間にも、ハロルド様とお母様の表情が険しいものになっている。

いけない。会話に集中しなきゃ。

「バンダースナッチだけでも厄介なのに、ショージョーまで南下してきているのか?」

「うむ。先ほど、セリーナが、“珍しい魔獣が出ている”と言ったであろう? ファーレンガルド家でも手を焼いているそうでな」

ははぁん・・・?

フリーダムなアスクレーくんは、その「珍しい魔獣」が見たくて実家へ帰ったと。

子供のアスクレーくんが帰ってきても大して実家の役には立たないんじゃない?

陰の者の気配を嫌って逃亡したんじゃ無いかと心配したけど、アスクレーくんが知的好奇心に突き動かされた結果の帰宅だと考えれば、「だろうね」と安心できてしまう。

「ショージョーが下がってくるということは、グリフォンかエントが南下してきている可能性が有るな。バルトロイに確認しよう」

今度は 猩猩(しょうじょう) にグリフォンにエントね。

エントって、木の魔物で合ってるのかな?

地球のファンタジー生物と一致するなら、グリフォンは| 鵺(ぬえ) みたいなキメラ生物?

猩猩って、確か、猿の化け物だよね。

アスクレーくんが見に帰った「珍しい魔獣」って、猿かな?

なんだ。熊じゃ無かったのか。

でも、情報が多いな。

バンダースナッチも合わせれば、まだ見たことがない魔獣や魔物の名前が6つも出たことになる。

ダンジョンの死霊系は何となく戦い方をイメージできたけど、被害を出さずに獲ろうと思えば、それぞれの生態や特徴や注意点を把握しておく必要が有るし、情報が全く足りていない。

お母様たちまで警戒を顕わにするってことは、かなり拙い徴候が出ているのかも。

「国内が揺らいでいる時期に異変など、勘弁して欲しいものだが」

「・・・異変、ですか?」

知らない単語が出てきて質問が口を突いて出る。

いや、私だって「異変」の意味ぐらいは知ってるよ?

でも、単語が示す状況が、どんなものなのかが分からない。

「“魔の森”の生態系の変化だ。強い魔獣が現れたり餌が無くなったりと原因は様々だが、居るはずの無い場所から、居るはずの無い魔獣や魔物が這い出てくることがある」

「・・・それって、大変なことなのでは?」

素直な感想を口にすると、説明をくれたお爺様も頷き返した。

アスクレーくんだけじゃなく、ファーレンガルド領では王都から帰ったアレースくんが武者修行しているはずだし、そうで無くてもミリア叔母様の嫁ぎ先だ。

私にとっても、ぜんぜん他人事じゃない。

今度は、お爺様の後をお母様が引き取る。

「グリフォン1頭が這い出して来るだけでも、災難に見舞われた領地は大打撃を受ける」

「・・・そんなに強いの?」

「グリフォンだと1個大隊ぐらいは必要か?」

お母様から視線を投げられて、ハインズ様が記憶を探る。

「上手い囮役と攻城部隊が居れば2個小隊でも狩れぬことは無かったぞ」

「・・・攻城部隊?」

私の問いに、ハインズ様が渋い表情を返してきた。

「あ奴等は空を飛びおるからな。囮役が釣り出して、投石機で投網を撃ち出すのだ」

「絡め落としてしまえば、後は槍で突き殺すだけだ」

ハインズ様の説明に、お爺様が補足を入れる。

「・・・ああ、なるほど。それで投網」

投石機ってことはカタパルトのことか。

テコの原理と振り子の原理を利用したもので、家1軒ほども大きさが有る木組みに、メトロノームの針みたいなスイングアームが付いたものだ。

アームのお尻には数トンもの重量が有る重石が付いていて、ぐるぐると回転軸を巻き上げた重石の落下エネルギーをスイングアームに伝える。

このスイングアームは人間の腕が 投石具(スリング) を振る動きを模していて、100キログラムを超える岩を数百メートルも投射できたらしい。

短弓の矢が届かない距離から城壁の中へ、岩から削り出した弾だけでなく、火を点けた油壺や、糞尿を詰めた瓶、敵兵の死体まで投げ込んだというのだから、人間という生き物は、やることがエグい。

糞尿や死体なんて、心理的ダメージだけでなく、籠城している城内での疫病の発生を狙ったものだからね。

そんな攻城兵器を対空兵器として使うってことだろう。

「単体なら2個小隊で足りても、群れでは手が足るまいよ」

「そうだな」

「・・・群れるの?」

グリフォンって単体で襲って来るイメージだったけど、そうじゃないのか。

「魔獣は群れる奴の方が多いんだぞ」

「・・・そうなの!?」

お母様の口から出た衝撃的情報にビックリした。

オオカミや猿は、そうだろうなと想像が付くけど、木の魔物まで群れるんだろうか。

お母様の指摘で思い返してみれば、単独行動を取る魔獣で私が見たことの有るものは、触角ヘビだけだな。

シカもイノシシも足跡から群れで行動している痕跡が有った。

私はククリ罠を多用するから気に留めていなかっただけで、箱ワナや囲いワナを使っていれば群れで行動する生態に、指摘されるまでもなく気付けていたはずだ。

「だから魔獣は厄介なんだ」

「うむ。全体を牽制して足止めしつつ、1頭ずつ倒すしか手が無いのでな」

「・・・うはぁ。面倒そう・・・」

野生動物が群れるのは、捕食行為の成功率を引き上げることと脅威から身を守るためだ。

魔獣も群れるということは、さらに強い魔獣が存在することを意味している。