作品タイトル不明
拡大家族会議 ③
「国力と同時に王家への忠誠心を高めようとする試み、ということか?」
「・・・そうなります。ついでにウォーレス家に対する風当たりも少しはマシにならないかなぁ、と」
思案顔で私の企みを吟味していたお爺様の問いに頷いて返す。
「それは構わぬ。だが、なぜ“融和派”にまで情報を与えるのだ?」
「・・・平等に情報を与えることで、“融和派”も取り込みを図ろうかと」
「待て待て。“融和派”に力を付けさせては国内が荒れるぞ」
この辺りはハインズ様も宰相さんと同じ認識か。
やっぱり、“融和派”に対する抵抗感は根強いよねぇ。
ウォーレス家は、直接的な因縁が有って実害を被ってきた当事者だけに、王都の人たちよりも目が厳しくなるのは仕方ない。
心情的な部分を思えば、私だって”融和派”に良い印象は無い。
だからこそ、この言葉が効く。
「・・・いえ。逆に“融和派”の生命線を握ることになると思いますよ」
「むう。奴らの生命線をか?」
ハインズ様は追撃を躊躇い、お爺様は目を伏せて言葉の意味を吟味する。
「魔石―――、そうか。“魔の森”という恩恵の供給元を押さえてしまえば、“融和派”は“保守派”に抵抗できなくなると言いたいのだな?」
「・・・そう考えます」
さすが、お爺様。
真意へと辿り着いたお爺様の様子に、お母様が補足を入れる。
「“魔の森”に面した領地を“保守派”で押さえる動きは、既に王都で始まっている。エゼリアとアンリカの縁談も、その一環と言えなくも無いな」
「治癒魔法術師の件もスライム避けの件も、その計画の中核を担うのがウォーレス家である以上、エゼリアとアンリカの立場も保証されるわけか」
おお。さすが、お爺様。
そういう受け取り方もできるのか。
間違ってはいないけど、趣旨は私の意図するものと微妙に違うね。
これは物事を観察するときの切り口の違いかな。
「・・・情報のキモの部分を握っているのはウォーレス家ですから、優位は揺らぎません」
「低価値の魔石を使う、というと、小鬼の魔石か?」
次の段階へと思考が移ったお爺様の問う視線が私の方へと向いて、私は首を振って否定する。
小鬼ってゴブリンのことだったよね?
実物のゴブリンがどんなのか知らないし、ゴブリンの棲息域ってナーガ川を超えたカリーク公王国側の森じゃなかったっけ?
敵国に供給元を押さえられては意味がない。
「・・・死霊系の安い魔石が使えないかな、と」
「死霊系の魔石を埋めた畑の作物を食うのか?」
ハインズ様たちが一斉に嫌そうな表情になる。
やっぱり、そういう反応かあ。
死霊系の魔石は呪詛系の魔法道具にしか使い道が無いって聞いていたから、私も最初は農作物が呪われたりしないかと心配したし、それが普通の反応なんだろうね。
だからこそ、ここで異を唱えておく必要が有る。
「・・・気分的な問題だけでは? 王都で死霊系の魔石に触れる機会が有ったのですが、闇属性の魔力そのものが悪い影響を及ぼすものだとは感じませんでした」
「そうなのか?」
私の意見にハインズ様の目がお爺様とお婆様の二人へと向く。
「実際には、そうなのかも知れんな。例えば、火属性の魔石だからといって、魔石から火が出るわけでは無い」
「そうですね。気分的な問題は残りますけれど」
難しい顔のお爺様と困惑顔のお婆様が頷く。
そんなお二人に、お母様が補足説明を入れてくれる。
「私もフィオレの感覚に同意だな。私も死霊系の魔力にも、それを使う魔法道具に触れたが、何ら、体に悪影響を及ぼすものでは無かったぞ」
「ううむ。複製品の生産を研究するという、例の魔法道具か」
ハインズ様が唸る。
結論として、ウォーレス家系の誇る魔法技術の大家が、3人揃って私の意見に同意したわけだ。
大体の中身を把握しているハロルド様が、次の段階へと話を進めてくれる。
「冒険者ギルドから魔石を買い上げるのか?」
「・・・どの程度の量が買い取れそうなものなのでしょう?」
ギルドと言うことは、冒険者が幽霊を狩ってくるのだろうけど、私は幽霊の倒し方を知らないし、冒険者の力量も知らない。
安定的に調達できそうかどうかも未知数なんだよね。
「そんなに多くは買い上げられないのでは無いか? 儲けにならない魔石を冒険者も狩りには行かんだろう」
「・・・そうなのですか」
そっか。需要が増えて単価が上がらないと、楽して狩猟成果だけ買い上げることは難しそうだなあ。
「西方諸国でも死霊系の魔石は需要が少ないからな」
「・・・うーん。どれだけの量が必要か試してみないと分からないので、出来るだけ原価を低く抑えたいのですよね」
死霊系以外の魔石も検討してみるべき?
ナーガ川を渡った向こう側の森には弱い魔獣や魔物が多く居るって聞いたけど、ナーガ川そのものも魔獣の棲み家だとお婆様の授業で教わったことがある。
川の流れの中にも獰猛な魔獣が棲んでいて、天然の防壁の一つになってるんだっけ。
そんな危険な川を渡りたいとは思わないし、川の向こう側はカリーク公王国の領土だからね。
”魔の森”は無主地だから川を渡っても侵略行為には当たらないけど、新たな火種には、なりかねない。
それでも、最悪の場合は渡河を検討する必要が有りそう、かな。
「農地にバラ撒く魔石となれば、消費者は農家だ。安価でないと手が出ぬだろうしな」
「・・・ああ、確かに。投資に対する資金回収の問題も有りますよね」
くっ・・・! 指摘された通りだ。
魔石の単価が上がると原価が上がるのだから、資金回収にも時間が掛かる。
資金が回収できるまでの間、苦しい生活が続くことになる。
目先のご飯の有無は文字通りの死活問題だ。
生活の苦しさに耐えられなければ手は出せない。
単価が上がらないと魔石が集まらないし、あちらが立てばこちらが立たず。
これが”現実の壁”ってわけだ。
効果が分かっているのにスライム畑が広まらない一因が、これなのだろう。
新しい仕組み作り? それとも、新しい技術?
前へ進めるには何らかのブレイクスルーを起こす必要がある。