作品タイトル不明
ファーストインパクト ⑪
しかしまあ、この人たち、目の前で“見せしめ”が捕縛されてるのに、そこからさらに釣られるなんて、バカなんだろうか?
釣り残した僅かな残党は、過去の容疑か何かで吊し上げて潰すかなあ。
パーフェクトな釣果には及ばなかったけど、欲を掻いて思わぬ反撃を食らうようなことは避けておきたい。
この場は釣果を確定して、次の手を考えよう。
この人たちだって弛んだ体型から見て、何の不正も働いていない、ってことは無いだろうし。
自分に甘くて、甘い汁に群がっていた連中のことだし、どうせ、みんな財産没収で生きながらえる道を選ぶと予想する。
他領へ逃れたところで、爵位を失って平民に落ちた不摂生なオッサンたちを雇う領主もいないだろうし、王国内に逃げ場は無い。
この連中から回収した領内の富を元手に、見所の有る若い領民に雇い替えた方が領地のためになる。
人を雇うにはおカネが要るんだから、今まで吸い取っていた領内の富は領地に返して貰うよ。
「・・・死罪か財産没収か、決まったら言いなさい。3日間経って答えを出さなければ、領主の判断で死罪とします」
釣り上げた魚の人たちに向けて言い残し、背中を向ける。
まだまだ仕事が有るんだよ。再利用の目処が立たない人たちに、いつまでも関わっていられない。
マリッドさんが後の処置について確認してくる。
「あの者たちの身柄について、領軍の駐屯地と領主館の両方に地下牢が有ったはずですが、どちらへ入れますか?」
「・・・駐屯地へ。もう、旧領主からの給金は出ませんから、旧領軍は解散させて駐屯地を接収してください」
予算を削りまくられて機能不全を起こしていただろう旧領軍の施設を、そのまま使うわけには行かないけど、整備し直すにしても短期的には再利用できるものは再利用して、今後、積み上がるはずの予算は出来るだけ小さく抑えておきたい。
旧領主館も、もちろん接収するけど、回収した食料や資産の集積場として使うことになるだろうから、不特定多数の人の出入りが増えると思うんだよ。
慎重に掛かるなら、捕らえた犯罪者たちを奪還しようと抵抗勢力が蜂起する可能性を考慮しておくべきだ。
武装蜂起ともなればウォーレス領軍が喜々として出張ってくるだろうし、ピーシス家の独自戦力だけでも負けることは無いだろう。
でも、無用な被害を出さないために、危険のあるものは別の場所に隔離しておきたい。
「関所はどうしますか? 今は開放させていますが、いつまでもそのままは拙いでしょう」
「・・・平民の守備兵は生活が掛かっているでしょう。暫定的に雇用継続の上で、近く、個別に見極めた上で再雇用、で、どうですか?」
「よろしいかと」
私の提案にマリッドさんも頷く。
「・・・じゃあ、それで手配してください。再雇用した領軍の給金を用立てる必要が有るので、後で旧領主館と犯罪者の没収家財を把握して接収したいんですよ」
「あ、それ、ワールター様が来られるそうです」
「・・・来てくれるの? それは助かるなあ」
うわ、マジ? ミセラさんからの情報に肩の荷が軽くなる。
何をどうすれば良いか、至らないところの方が多いだろうから、めっちゃ助かるよ。
「領地内の仕置きを決めるが必要でしょう。先ずは、一旦、レティアへ戻られては?」
「・・・そうしたいんだけど、このまま領地を放って行けないよね」
マリッドさんの言う「仕置き」とは、委任統治の件だ。
自信に満ちた笑みをマリッドさんが浮かべる。
「私が残りますので、こちらの領地のことは、ご心配なく」
「・・・良いの?」
「レティアには父上が居ますので、大丈夫です」
“敵地”と言うほどでは無いにしても、今の新領地の現状は”占領地”に近い。
駐留部隊にのし掛かる、心理的、あるいは肉体的負担を、マリッドさんが引き受けてくれると言うのだ。
この新領地が下賜された思惑には、エゼリアさんとアンリカさんの実家に対する補償というか、ご褒美というか、そんな意味があることは私も理解している。
だからこそ、ヴァンス男爵家とタイアー騎士爵家の現当主であるお父さんたちと、昇爵も含めて話し合う必要が有る。
お父さんの爵位を継ぐマリッドさんとしても一番の関心事だろうに。
その辺りを先回りしてくれるマリッドさんの気遣いが嬉しい。
「・・・そっか。じゃあ、お願いします」
「はっ」
さっさと新体制を決めて負担を減らしてあげなきゃ。
マリッドさんに引き継いで、一つの決着が付いたと思えば、次のお仕事がやってくる。
「あ、あの、ご領主様」
「・・・何かな?」
遠慮がちに声を掛けてきたのは、怒ったり青くなったりと忙しかった平民層の領民たちだ。
不安そうな面持ちでステージの際まで詰め掛けて来ている。
「俺たちは、どうなるんでしょうか・・・」
「・・・当面は、今まで通り、暮らしてて良いよ」
「当面、と、仰いますと?」
細かい部分は、現状の把握をしないと決められない。
その把握のためにワールターさんが来てくれるのだから待っていて貰うしか無い。
「・・・税の見直しとか、色々と変わると思うから、追って通達を出します」
「「「「「は、はい!」」」」」
重税に不満を募らせていたらしい領民が、「税の見直し」と聞いてワッと沸く。
お気楽だなあ、と思うけど、一般領民なんてものは、そんなものか。
変わることは変わるけど、財政状況とか中身を精査してみないことには、減税か、据え置きか、どっちの方向へ行くか分からないんだから、今の時点で喜ぶのは早いと思うよ?
良くするつもりでは有るけど、短期的には負担が掛かるかも知れない。
まあ、いちいち、そんなことは説明しないんだけど。
ガタガタの“融和派”領地の財政状況になんて、私は全く期待していない。
春の植え付けが始まるまでの間に色々と、やらなきゃいけないことが積み上がってるんだよ。
ピーシーズ増員が最優先だけど、治癒魔法術師量産計画とスライム畑も急ぐ。
いつ来るか分からない王妃様たちの受け入れ体制も、私たちは整えておかなきゃいけない。