作品タイトル不明
ファーストインパクト ⑨
お母様たちの威光を借りてでも、統治者として、主導権は私が握り続けなければいけないのだ。
だから選択肢は与えない。
混乱が収まらないうちに、私のペースに巻き込んでおく必要が有る。
「・・・先ず、あなたたち領民に、この領地の現状を教えておきます!」
領民たちから上がる響めきに負けないように、胸を張って叫ぶ。
さらなる衝撃を与えるために、ブチかます。
「・・・知っている者も居るかもしれませんが、あなたたちの前領主、コーニッツ家、並びに、隣領の前領主のムーア家は、過日、他国と結んで王国を禁輸品密売経路に組み込み、奴隷売買に手を染めた咎により捕縛されました! そして、王都にて国王陛下の裁きを受け、叛逆罪により廃爵! すでに家族ともども処刑されました!」
集められた人々の間に大きな動揺が走る。
そりゃそうだろうね。
新しい支配者から「お前たちは叛逆者の手下だ」って宣告されたんだから。
不安に満ちた視線が私へと集中する。
先制攻撃で心理的に相手を萎縮させて抵抗を奪うのは、ケンカの王道だよ。
このことには、前世の母親が引っ掛けてきた粗暴な男がなぜ大声で怒鳴るのか、動物の生態を調べてみて気付いた。
野生の熊が二足立ちで威嚇して自分を大きく見せるのだって、同じ原理だからね。
粗暴な男というものは、動物の本能のままに行動していただけなのだ。
ただし、人間が相手をコントロールするのに大声で怒鳴りつけるような真似は必要ない。
心に衝撃を与えて、相手の正統性を奪って、畳み掛けられれば、手段は何だって良いのだ。
「叛逆罪!?」
「奴隷売買!?」
「聞いたことが有るぞ! 領内の村からも若い娘や子供を攫って、他国へ売ろうとしてたんだ!」
自領の領主が叛逆罪で処刑されたとなれば、領民は叛逆領地の住民として、謂われの無い非難を浴びて不利益を被る可能性が有るのだから、無関心では居られないのが普通だろう。
受けた衝撃もそのままに、人々の互いに伝え合う声が大きくなる。
「去年のアレか! ムーアとの領境で奴隷商人が特務様に成敗されたヤツか!」
「俺は、ウォーレス家の次期当主を暗殺したとも聞いたぞ!」
「秋にハインズ前騎士団長閣下が攻め込んできたのが、その暗殺の件だってな!」
マークスさんの件も情報が広まってるんだな。
お母様もハインズ様も王国有数の有名人だから、領民も関心を持っていたのだろう。
少し待てば静まるかと期待したけど、静まりそうに無いので、頑張って声を張り上げなくてはならなくなった。
「・・・そして! 先日、旧コーニッツ領、並びに、旧ムーア領は、王命によりピーシス伯爵家の領地として下賜されました! 正確には、8日前より、この領地は、私、ピーシス伯爵が治めることとなっています!」
人々がドッと沸く。
「おおっ! 本当に領主様が代わったのか!」
「重税から解放されるのか!?」
あ、あれ? 肯定的っぽい反応だね。
一斉に喋っているから人々が何を言っているのかは正確に聞き取れないけど、表情から察するに、概ね好意的に思える。
どれだけ領民から嫌われてたんだよ、コーニッツ元子爵も、ムーア元男爵も。
怯えて貰わないと困るんだけど、軌道修正できるか?
私の想定と反応が違うけど、このまま突き進むしか無い。
「・・・そこで、ここに捕縛している罪人について、今、この場で、あなたたち領民の目の前で裁きを行います! ―――、罪状の読み上げを!」
「はっ!」
喉が痛くなりそうな大声で言い切って、ステージ上の端っこでスタンバっていたマリッドさんにバトンタッチする。
私と立ち位置を入れ替わったマリッドさんが、ステージのセンターポジションまで押し出してきて声を張り上げる。
「この者たちは、昨日、西の関所において、“コーニッツ領軍”を偽称し、隣領、サボット領から荷を運んできた農民から、通常の10倍もの通行税を脅し取ろうとした!」
マリッドさんは守備兵たちを指す。
戦場で指示を出し慣れているせいか、マリッドさんの声って、騒ぎの中でも通るんだね。
いや、もしかして、身体強化魔法で声を大きくしてるんだろうか。
「10倍だって!?」
「何だ、それは!」
「誰も関所を通れなくなるぞ!」
人々から非難するような声が上がっている、はず。
ワーワーとみんなが騒いでいるから、相変わらず、何を言ってるかハッキリと聞き取れないんだよ。
それでも、人々の表情や声の雰囲気から、怒っているのであろう心情は伝わってくる。
「さらには、犯罪の現場を見咎めたピーシス伯爵閣下を侮辱し、伯爵閣下を害しようと企てた!」
人々の響めきに負けない大声でマリッドさんが続け、人々の声が大きくなる。
こちらに正統性が有って、理に適っていれば、世論は形成できる。
「それは拙いだろう・・・!」
「おい! アイツらの防具、コーニッツ領軍の守備兵じゃないか!?」
非難する多くの目差しが集中して、守備兵たちが顔色を悪くしている。
「犯罪に加担した守備兵を取り押さえてみれば、ここに捕縛しているコーニー騎士爵家の郎党が“コーニッツ子爵”を偽称して、不法な徴税を行わせていたことが発覚した!」
マリッドさんの致命的な一言に、人々がピタリと静まり返った。
効いたのは「偽称」の一言かな?
しばらくして、ヒソヒソと囁き遭う声が上がり始める。
「おいおい。コーニッツ子爵とムーア男爵が重罪を犯して、領地は暫定的に王家直轄領の扱いになったことは、王女殿下からのお触れが有っただろうが」
「叛逆領地になった上に、爵位偽称かよ」
「爵位の偽称って、問答無用で死罪じゃなかったか?」
大罪に大罪を重ねたことが示されて、不安が上書きされた。
囁き合いは徐々に大きなざわめきとなり、波紋のように伝播していく。
「なんて奴らだ」
「俺たち、どうなるんだ?」
「コーニッツ家の道連れで俺たち領民まで裁かれたりしないよな?」
人々から上がる不安の声はさらに大きくなりはじめ、旧勢力への嫌悪感と敵意が混じり始める。
ヨシヨシ。マリッドさんが上手く軌道修正してくれた。
「隣のウォーレス領は好景気で沸いてるってのに、今だって、俺たちは、お零れに預かれていないんだぞ」
「増税、増税って、自分たちだけブクブクと太りやがってよぉ」
「クソッ! ふざけんなよ!」
人々が抱いた不安は、示された「敵」を捌け口として集束していく。
人々が吐き出す怒りの声は、一つの怒号を切っ掛けに叫びの渦へと変わる。
「アイツら、それまでだって威張り散らしやがって、俺たち領民には重税を課してたんだぞ!」
「そうだ! アイツらの屋敷を見ろ! 税を取っても、俺たち領民には何もしないくせに、自分たちだけは贅沢をしてやがったんだ!」
「国王様に叛逆だなんて、私たちまで王国から追い出されたら、どうしてくれるのよ!」
良い感じに場が暖まって来ましたね?
当事者感を認識させて、不都合な立場を自覚させて、示された逃げ道に自分の利が伴えば、人は従うものだ。
そうだ! 燃えろ! 旧勢力を排斥しろ!
あなたたちが生き残る道はピーシス家に迎合して従うことだけだ!
ほくそ笑む心中を表に出さないように気を付けつつ、神妙な顔でマリッドさんに頷いて見せる。
私からの合図を受け取ったマリッドさんが、それまでを上回る大音声で一喝する。