軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ファーストインパクト ⑧

「ご当主様。捕縛、完了しました」

「・・・お疲れさまでした。じゃあ、野営地に戻って休みましょうか」

「承知しました」

あれ? 一仕事を終えてくれたマリッドさんを労ったものの、そこで気付いた。

「・・・あ。あの人たち、野営地までの運搬は、どうするの?」

「近くの領民に荷馬車と荷馬を借りました」

ニコリと笑みを見せたマリッドさんに、「今、気付いたか?」と言われた気がした。

経験不足でスミマセン。

「・・・分かった。十分なお礼を渡してあげて貰えるかな」

「はい。農閑期の臨時収入になって喜ぶでしょう」

なるほどなあ。現場で手配する手も有るのか。

領民には、借用した旨の一筆を渡してあるから、喜んで貸し出してくれたそうだ。

冬場の農家は仕事も無いし、臨時社員的に歩兵として農閑期の戦争に参加する兵士は農家の働き手が多く、領軍の基幹戦力の一つだ。

領軍から支払われる給金は、安いとは言え、農家にとっては作物を育てられない冬場の貴重な現金収入となる。

その臨時収入が命懸けの戦争に行かずとも得られるのなら、そりゃあ喜ぶよね。

「明朝までの罪人の処置はどうしますか?」

「・・・どうすべき?」

捕虜の扱いと言えば、お母様と一緒に数々の敵を打ち破ってきたアンリカさんに聞くべきだろう。

私の目線を受け止めたアンリカさんは、何のことも無いように宣った。

「吊しておけば良いですよ。一晩も吊せば体が痺れて逃亡の防止にもなります」

「・・・じゃあ、それで」

縛り上げられた縄が自重で体に食い込んで血流が止まるのかな?

死刑になるのが確定している犯罪者の健康にまで気を使うつもりは無いし、それで良いや。

面白そうに目を細めているマリッドさんが確認してくる。

「食事は摂らせますか?」

「・・・戒めを解いて逃げられても困るから、無しで。あれだけ贅肉が付いていれば、一晩、ご飯を抜かれたぐらいで死なないよね?」

「承知しました」

最後の晩餐? ハハッ。

ご飯は、これからも生きていかなきゃいけない人たちが食べるべきもので、食料は勝手に増えるものじゃないんだよ。

誰が何と言おうと、私はご飯を無駄にする気は無い。

レティアの町の人に肥満体型の人は居ないし、他領や王都の平民層でも見なかった。

よく食べる人は多いけど、太っていないってことは、それだけ運動量が多くて働いているってことだ。

そんな世界で、あれだけ太れるのだから、自分の脂肪でも食べれば良いんだよ。

一通りの確認を終えたマリッドさんが命令を諾了したことで作戦会議は終わり、野営地に戻って一夜を明かした私たちは、翌朝、城壁が壊れたままで城門が無い旧コーニッツ領の領都へ入った。

4の鐘が鳴る、けっこう前に着いたから、朝8時ぐらいかな。

ミセラさんたちの宣伝工作は遺憾なく効果を発揮したようで、老若男女を問わず領民たちが詰め掛けている。

「ピーシス卿! これは一体、どういうことか!」

「誰だ、お前らは?」

全体的にブヨブヨしたオジサンたちに詰め寄られたお母様が、ゴミ虫でも見るような目で不機嫌そうにオジサンたちを見ている。

お母様の周りを固めているエゼリアさんたちが剣呑な目で睨み据えていて近付けないので、お母様たちを中心としてドーナツ状のオジサン・サークルが形成されている。

ストーン・サークルだと神秘的な雰囲気も出るのに、石柱が太ったオジサンたちに置き換わるだけで、どうして、ああも暑苦しくなるのか。

ともあれ、あの人たちが“釣るべき魚”だろう。

「コーニッツ子爵家の傍系、麾下の男爵家と騎士爵家です!」

「ふむ? では、ただの平民だな」

周囲に人々が息を潜めるようにしているから、私のところまでお母様たちの声が届いてくる。

片眉を上げたお母様にバッサリと斬り捨てられて、頭に血を上らせたオジサンたちが顔を真っ赤にする。

「へ、平民だと!?」

「我らを愚弄されるのか!」

「アホウ。私は事実を言ったまでだ。あと、私は隠居の身だから、私に訴えても無駄だ」

お母様が怠そうに肩を竦める。

認識の甘さなのか、情報の遅さなのか、お母様に食って掛かってどうするのか。

面倒くさそうだし、不機嫌さを隠そうともしていないけど、お母様は親切丁寧に教えてあげているだけなんだよね。

あの様子を見る限り、お母様は私の判断に任せて見守るつもりなのが確実で、私は試されているのだと気持ちを引き締める。

「なっ! 事実だと!?」

「どういうことですか!」

「ピーシス卿が隠居!?」

やっぱり、オジサンたちの耳に負うとの情報は届いていなかったっぽい、かな。

自分たちの親玉が捕縛されたというのに事態を軽く見ていたのか、危機感の無さというか、関心の低さに呆れる。

「ほら。新領主閣下のお言葉が始まるぞ。しっかり聞いておけ」

まともに相手をするつもりがないのであろうお母様に顎先で示されて、オジサンたちの目が、梯子を伝って壇上へと上る私へと向く。

そうそう。こっちを見ておくんだよ。

領都の目抜き通りのド真ん中に大きな木箱を積み上げて作られた即席ステージの上には、コ・・・、何とか騎士爵家一家と、関所で捕縛された守備兵たちが並べられていて、ステージの周りを多くの老若男女が取り巻いている。

この人たちが私の領民だ。

出来るだけ遠くまで聞こえるように、私は大きな声を張り上げる。

「・・・私は、この領地の新領主、ピーシス伯爵家、現当主、フィオレ・ピーシスです!」

名乗っただけなのに、ざわめきが大きくなる。

嫌悪感や反発心のようなものは目に付かず、私に向けられる視線は、ただただ困惑に染まったものだ。

「新領主だって?」

「あんな子供が?」

「どうなってるんだ?」

「あの子供、異国人じゃないのか?」

この程度の反応は織り込み済みだから、完全に無視だ。

いちいち相手をすると問題点のすり替えに持ち込まれる恐れが有る。

一方的に情報を与えて、反応には取り合わない。