作品タイトル不明
ファーストインパクト ③
2、4、6人か。
私たち3人だけでも制圧するには十分だな。
「・・・じっとしてなさい。動いたら潰すよ?」
「これは・・・、風術式、なのか・・・?」
呪文も唱えず、風が吹いたわけでも無く仲間が吹き飛んで、理解できずに混乱を来している守備兵たちを、私は馬上から見下ろしている。
リーダー格らしき無精ヒゲの守備兵が睨み付けてきた。
「ガキ。お前、何者だ?」
「・・・ピーシス伯爵家の現当主だよ。そして、この領地の新領主でもある」
問われるままに答えてあげると、守備兵たちが顔色を変えた。
「ピーシス家!?」
「新領主だと!?」
つい先日、領都を蹂躙したばかりだからね。
自分たちの親玉を捕縛して連れ去った相手が新領主だと聞いて、数人が顔色を変えた。
「・・・あなたたち。誰の指示で徴税してるの?」
「ここはコーニッツ子爵領だ! コーニッツ子爵様のご指示に決まっているだろうが!」
顔色は悪くしているけどリーダー格らしき守備兵は退かない。
私の首が傾ぐ。
これ、本気で言ってるんだろうか?
使えそう(・・・・) だから、助かるけど。
「・・・コーニッツ子爵ねえ? 廃爵されて王都で処刑されたけど。コーニッツ子爵って誰のことを言ってるの?」
「は、廃爵だと!?」
そんなに驚くことだろうか?
重罪人として捕まって、テレサが布告書を出して、お母様たちに親玉がドナドナされて行ったことぐらいは知ってるだろうに。
廃爵や処刑されたことまでは知らなくても、そのまま親玉が無罪放免になると考える方がおかしくない?
「・・・そうだよ? コーニッツ子爵家は王命で取り潰されたんだけど、今の子爵って誰のこと? 子爵が捕縛された時点で子爵家の権限は凍結されて、私が領地を拝領するまでは王家直轄領になってたんだけど、誰が王命に逆らって爵位を騙り、不当な徴税をしていたのか教えてくれないかな?」
「ば、バカな!」
現実を指摘してあげるとリーダー格が絶句する。
おや? 本気で分かってなかったっぽい?
もう良っか。いつまでも関所が詰まっちゃってるのは拙いだろうし、さっさと退けてしまおう。
こんなに美味しいネタを利用しない手は無いし。
良いネタを仕入れさせてくれた、この人たちには、感謝しなきゃ。
「・・・メーリスさん、ネイアさん。この人たちに、色々と聞かなくちゃいけなくなったから、捕まえちゃって」
「「はっ」」
柄に手までは掛けていなかったけど、いつでも剣を抜ける状態で「待て」の態勢だった二人が剣を引き抜いて、喜々として踊り掛かる。
地図上だと、この関所がある辺りを真南へ下るとピーシス家の委任統治領なんだっけ。
前々から重税による逃亡民が流入してたと聞いているし、ピーシス家の傍系としては、すぐ隣の迷惑な住人だったんだろうなあ。
長年、色々とストレスを溜めさせられていたんだろうし、殺さない程度になら発散させてあげよう。
一番後ろに居た守備兵が弓を番えて、私を狙って矢を射ってくる。
「クソッ!」
「フィオレ様!?」
ネイアさんが焦った声を上げた。
瞬く間に矢が到達する至近距離と言って良いけど、魔力の手をギュッと固めれば矢は弾けるって実証済みなんだよ。
到達した矢が魔力の手の表面でピンッと弾かれて跳ねる。
でもまあ、狙いを外した流れ矢が誰かに中ると危ないから寝ていて貰おう。
「なっ!? ―――、ギャッ!」
顔面を爪弾かれた弓の守備兵が、鼻血を噴きながら真後ろへ吹き飛んで大の字に伸びた。
「・・・私は大丈夫だよ。こっちは気にしなくて良いから、気兼ねなく、やっちゃって」
「はいっ!」
余裕を持った態度で応えると、踵を返したネイアさんが守備兵の一人を目指して素っ飛んで行く。
槍を弾き上げて顔面をブン殴ってノックアウトして、次の標的をロックオンして突進する。
「ち、畜生め・・・!」
圧倒的劣勢と判断したのか、リーダー格の守備兵が身を翻した。
総統閣下かな?
「・・・逃がすわけ無いじゃん」
「グアッ!」
逃げ出した守備兵の体を魔力の手を伸ばして横薙ぎにビンタする。
「フィオレ様。捕縛、完了しました」
「・・・ありがと。お疲れさま」
吹き飛ばされて足元へと転がってきたリーダー格の守備兵を、背中を足蹴にして止めたメリーナさんが、馬上の私を見上げてニッコリと笑った。
「があっ・・・!」
ご機嫌っぽいメリーナさんが踏ん付けている守備兵の腕を取って力任せに背中側へと捻り上げる。
ほんわかと笑みを浮かべているけど、その行為に容赦は無い。
「・・・さて。さっきの質問に、まだ答えてないよ?」
「くっ・・・!」
重ねて訊いた私の問いに、悔しげにヒゲ面を歪ませる。
「・・・子爵を騙っているのは誰?」
「お、お前こそ爵位を騙っているのだろう! ピーシスごときが昇爵して堪るか!」
いい歳して子供のケンカみたいな悪態を吐くんだな。
「・・・ふむ? ネイアさん。この人の罪状を控えておいてくれるかな」
「はっ」
短く切れの良い返事を返したものの、乗馬へ戻らないとネイアさんの手元に筆記用具は無い。
ネイアさんが、しまった、という表情をしたところへ助けが入る。
「こちらをお使いください」
「ありがとうございます」
空気から沸き出すようにササッと現れたミセラさんがネイアさんに紙とペンを手渡して、ネイアさんがニコリと笑ってお礼を言った。
「爵位偽称に、通行税の不当徴収に、伯爵閣下に対する侮辱に、伯爵閣下に対する暗殺未遂。今のところ、こんな感じでしょうか。まあ、爵位は自分が偽称したわけでは無いみたいですけど。ここまでやらかすと、一族郎党、処刑されても文句は言えませんね」
ネイアさんが楽しそうに罪状を諳んじながらサラサラとメモる。
蓋を開けたインクの小瓶を手にネイアさんのお手伝いしているミセラさんもニッコニコだ。
挙げられた罪状に、守備兵たちの顔からサーッと血の気が引いていく。
あ~あ、やっちゃったね。
私はホクホクだけど表情には出さない。