軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ファーストインパクト ②

「・・・メリーナさん、ネイアさん。付いて来て。他のみんなは、そのまま待機」

「「はっ」」

「「「「「はっ」」」」」

顔を振り向けて指示を出したら、メリーナさんたち2人と、オーリアちゃんたちをはじめとしたピーシス隊から、それぞれに返事が返ってきた。

念のため、腰の小物入れから魔石を取り出して手の中に握っておく。

鐙で軽く馬の腹を蹴って前へ進めると、メリーナさんたちが追随して、私を心配したのか、お母様とエゼリアさんたちも付いてくる。

蹄の音に気付いたサボット領の騎士様たちが、こちらへと振り返った。

歩み出してきた騎士様2人が手を挙げて私たちを制止する。

お母様の姿に気付いた騎士様が目を瞠った。

「おお、ピーシス卿?」

「私は随伴に過ぎん。代表者は、そっちだ」

「こちらの方ですか?」

お母様に示されて、騎士様たちの丸くなった目が私へと向く。

現代日本人的には下馬して挨拶するべきだろうけど、権威主義では上位の爵位を持つ者は馬上から見下ろして名乗ることが許される。

私の背丈だと鞍に跨がっていても大して上から目線になっていないんだけどね。

「・・・ピーシス伯爵家、現当主のフィオレです」

「こ、これは。私はサボット伯爵領軍所属のコックスと申します。―――伯爵家、ですか?」

爵位が変わっていることに気付いた騎士様たちが驚いた顔をする。

「・・・爵位を承継して、昇爵しました」

「それは、おめでとうございます」

「・・・ありがとうございます。―――それで、これは?」

頭を下げて祝辞を述べた騎士様に応えて目線を先へと移す。

「コーニッツ子爵家配下の守備兵が、通行税を引き上げたと。それも、驚くほどの高額で、荷を運ぶ農民や商人が通れないのです」

「・・・ははぁ。旧コーニッツ家の配下が徴税行為ですか」

推測通りか。

最後の最後まで始末の悪い連中だな。

「旧、ですか?」

「・・・コーニッツ家とムーア家は廃爵されて、叛逆罪で処刑されましたよ。ピーシス家が旧コーニッツ領と旧ムーア領を下賜されましたので、今後はお隣さんですね」

首を傾げる騎士様たちに状況の変化を教えてあげる。

サボット領にも、まだ情報が届いていないのか。

こっちの世界は、本当に情報伝達速度が遅いなあ。

目を剥いた騎士様たちが、バッと関所へと目を向けた。

「そうなのですか!? すると、奴らは―――」

「・・・私たちが対処します。通していただけますか?」

「はっ。よろしくお願いします」

私の要請に騎士様たちが道を空けてくれる。

お母様の予想通り、早速、新領主のお仕事になっちゃったな。

立ち往生している馬車列の脇を、ぽっくぽっくと馬を進めれば、蹄の音に気付いた農夫さんや商人さんが慌てて退いてくれた。

関所っていうのは、横向きに90度倒した「=」が領境を越えられる通路部分で、関所以外を通れないよう、領境線に沿って設置されている柵が「=」の横っ面に引っ付いてる構造なんだよね。

日中は開け放たれている関所の門扉は二重になっていて、「=」の二本線の間を通り抜ける通路の出入口に、出る領地と入る領地、双方の門扉が据えられている。

今回はサボット領から旧コーニッツ領へ抜けるから、入口側の門がサボット領の関所で、出口側が旧コーニッツ領の関所。

荷馬車が擦れ違える程度の通路には通関待ちの馬車や人が詰まっていて、「まだ進まないのか」と困惑も顕わに列を成している。

何か問題でも起こらない限り、通行量の少ない「田舎」の関所が「詰まる」なんてことは滅多に起こらないんだから、そりゃあ困惑もするよね。

問題が起こった、ってことなんだから。

積み荷のチェックは入口と出口の両方で行われるけど、通行税の徴収は各領へ入るときに、関所の出口側でだけ行われるんだよ。

これは自領の生産物を他領へ売る際に、自領の生産者の負担を軽くして優遇するための施策。

その出口側の関所で野菜を積んだ荷馬車が止められていて、取り囲む守備兵たちに年配の男性が取り縋っている。

ああ、これは本当に良くない状況だな。

私の新領地がサボット領の輸出を妨げているわけだから、こちら側に非があるってことになる。

手の中の魔石を握り直す。

メリーナさんとネイアさんに目配せすると、状況を察しているらしい二人も頷いて返してきた。

「通行税を払え! 払えなければ引き返せ!」

「ご、ご無体な! 通行税が10倍だなんて、到底、支払えません!」

荷馬車の御者台から自分で降りたのか、それとも脅されて降ろされたのか、白髪頭のお爺さんが自分よりも遙かに若い守備兵に縋り付く。

「何度も言わせるな、ジジイ! 払えなければ引き返せ!」

「ヒッ・・・!」

苛立ちを露わにした守備兵が手にした槍の石突でお爺さんを突き放そうとして、お爺さんが身を竦めた。

それはダメだよ。

敬老モラル以前の問題で、犯罪者でも無い他領の領民を傷付けるのは領地間の争いの火種になる。

「ん? 何だ? や、槍が動かん!」

宙に浮いたままガッチリと魔力の手に掴み取られた守備兵の槍は、押しても引いても固定されて動かない。

驚いた守備兵が顔は真っ赤にして槍を動かそうとしている。

諍いの真っただ中へと馬を進めて、止める。

「・・・王国民を守るべき兵士が罪の無い王国民に槍を向けるなど、何のつもりですか?」

「何だ? このガキは」

反抗的だな。

怪訝な顔で馬上の私を見上げてくる守備兵を無視して、邪魔になるだろうお爺さんに声を掛ける。

「・・・今日は迷惑を掛けたから、そのまま通って良いよ。行って」

「へっ? は、はい」

私に気付いたお爺さんが慌てて御者台へと上がり、私に向かって頭を下げながら荷馬に鞭を入れる。

走り出した荷馬車を止めようとする守備兵を、もう一つ伸ばした魔力の手でパチンと爪弾きする。

「キサマ! 待―――ギャッ!!」

「何だ!? 何が起こった!」

横合いから無防備に打撃を受けた守備兵が地面を転がって、荷馬車の車輪に轢かれそうになっている。

うーん。便利。

物理攻撃に目覚めた不可視の魔力の手は、回避不能の謎攻撃へと進化している。

転がった仲間と馬上の私を見比べて、他の守備兵たちが焦りを顕わにする。