軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ファーストインパクト ①

ポドック子爵領内の別の野営地で一夜を明かしたウォーレス領軍は、空が白んだ3の鐘で出発し、街道を左に折れて東進する。

ポドック領から領境を越えてグラス侯爵領に入る。

このグラス領は、ウォーレス領ほどではないけど東西に長くて、1日では横断しきれない。

行軍計画では、今日1日で次の領境の手前まで進んで一泊し、明日、グラス領のさらに東のサボット伯爵領を通り抜ける。

サボット領を横断して東の領境を越えると旧コーニッツ領だ。

この移動経路って、今までには採れなかったルート設定なんだよね。

いつものルートなら、“融和派”領地で有るコーニッツ領を避けて、サボット領内で南下してウォーレス領の西端に入るのだそうだけど、今回はピーシス領となった旧コーニッツ領の領民に、ウォーレス領軍の威容を見せつけるべく、わざわざ旧コーニッツ領の南端で一泊する。

ウォーレス領産の強い馬を使うことが前提の、かなりの強行軍では有るけど、トラブル無く順調に道程が進めば、ギリギリ、王都から3泊4日の夜にはレティアへ帰り着けてしまう。

今回のルート設定が可能になったことで、一番、喜んだのは輜重部隊の人たちだ。

なぜ、輜重部隊が喜ぶのか。

そして、なぜ、こんなに短時間で帰り着けてしまうのかというと、旧コーニッツ領を避けなくて良くなったことで、“平地の直線的な”ルート設定ができるようになったのが大きいそうだ。

いつものルートで通るウォーレス領西端には、領内唯一の鉄鉱山を擁する山地が有って、山際の細く畝ったルートになるので行軍速度が落ちるらしい。

また、後はレティアへ帰るだけだから、道程が進めば進むほど輜重部隊の積み荷が減って、身軽になるから移動速度が上がるのだそうだ。

私としては、鉄鉱山を見られなかったのは少し残念だけど、急がなきゃいけない仕事が山積みだから、次の機会に期待するしか無い。

私たちがテレサと一緒に王都へ向かったときは、さらに南のルートへ遠回りしていたから、今後は王都との行き来が丸4日間で計算できるようになるのは嬉しいよね。

ウォーレス領にとって旧コーニッツ領はどれだけ邪魔な存在だったのか。

なお、旧コーニッツ領での一泊を主張したのは意外なことにルナリアで、どういうことなのかと理由を訊いてみれば、隣領のサボット伯爵領には私たちと同じ年の娘さんが居るらしくて、面倒くさいから会いたくないんだってさ。

真面目で努力を怠らないルナリアがその子を嫌うのは、実に貴族家の御令嬢らしいお花畑さが我慢できないのが原因らしい。

ルナリアの主観なのは分かっているけど、ロクに学ぶこともせず、剣術の訓練に打ち込むルナリアを馬鹿にして、ジャラジャラと宝石を身につけることを好む、などと聞いてしまうと私も仲良くできる自信がない。

そんなわけで、新領地を見ておきたかった私の要望も有って、旧コーニッツ領内での野営となった。

ルナリアによると、もう一人、ルナリアの嫌っている御令嬢が、サボット領の南西に有るマンメルソン伯爵領にも居るらしいんだよね。

そっちの子は、ふわふわとした危機感の無い子だそうで、面倒くさそうだし、今は面倒くさそうな人は間に合っているので、私も出来るだけ近付かないようにしようと心に決めた。

グラス領もサボット領も、通過するウォーレス領軍に対する人々の目は好意的なものだった。

敵地(アウェイ) 感が無いって気楽で良いよね。

周囲への警戒を疎かにするわけでは無いけど、心理的負担がぜんぜん違う。

ぽっくぽっくと響く蹄の音が象徴するように、のんびりとした空気のままサボット領を西から東へ横断して、小休止を取る。

これから旧コーニッツ領へ入るので、隊列を組み替える。

領民の反発を抑え、トラブルの発生を抑制するために、新領主となったピーシス家を先に立てるのだ。

先頭で1万騎の馬列を率いるのは私とお母様だよ。

旧コーニッツ領との領境の関所が見えてきたところで、私たちは異変を察知した。

「何だ? アレは」

「関所の通行で揉めているように見えますが」

目を眇めるお母様に、弓が上手くて遠目が利くイディアさんが答える。

大きく片手を挙げたお母様の合図で馬列が停止する。

領境を示す木柵が両脇に続いていて、その真ん中、街道の真上に開け放たれた木製の門扉が見えているのに、数台の荷馬車が足止めされているのか列を作っている。

馬車列の先頭だろう辺りに金属鎧の反射光を煌めかせる騎士様らしき人たちが人垣を作っていて、人垣の後ろに領民なのか商人なのか、生成り色の衣服を着た人たちが馬車から降りて遠巻きにしている?

「さて。早速、新領主殿の仕事が出来たようだぞ」

「・・・うん」

お手並み拝見って感じで、お母様が面白そうに目を向けてくる。

何も注意事項や指示を口にしないってことは、好きにやって良いってことかな?

お母様から前方の人垣へと目線を戻す。

「・・・ふむ?」

何だろうね? アレ。

甲冑姿の騎士たちが、こちらに背中を見せているってことは、関所の向こうに有る旧コーニッツ領側で関所の通行に問題が起きているのだろうけど、門扉が開け放たれたままってことは、戦闘状態には至っていないのだろう。

予想される状況って何が有る?

奴隷のような国法に触れる禁輸品が関所で引っ掛かったのなら、荷主を捕縛して荷馬車を脇に退けるだろうし、荷馬車が壊れて立ち往生しているだけなら、あれだけの数の騎士様が詰め掛けることは無い気がする。

つまり、旧コーニッツ領側の関所の、 業務に問題(・・・・・) がある可能性が高いんじゃないかな。

王様や王宮官吏からも代官を置いたって話は聞いていないけど、もしかして、徴税が行われている?

領主が国法に背いた重罪人として処刑された今の旧コーニッツ領は、旧領主一族の身分と統治権が凍結された後、廃爵されて、暫定的に王家直轄領の扱いになっていたはず。

農閑期に入りきらない秋に領主一家が捕縛されて、まだ、今年の徴税が行われていないはずなんだよね。

よって、早期の領内掌握と徴税は新領主の急務となっている。

領内で徴税を行って現金化し、”王国”へ納税するのは領主の義務で、その税によって王家の統治と王宮の行政機構が運営されるのだから、当然と言えば当然のお仕事。

いわば、領主は徴税と治安維持を代行するわけで、手数料と必要経費として上前を刎ねるのだ。

王宮で官吏の人から聞いた話とお母様たちから教わった話を総合すると、地球の歴史上で近い税制としては中世期に近いかな。

各領地の財政状況によって違うけど、税率は地主である領主と小作人である領民が収益を折半する五公五民”前後”が基本で、領主は総収益の1割を王国へ納めなくてはならない。

新領主になったばかりのピーシス家は今年の納税を免除して貰えるそうだけど、来年の収穫期まで領主一族と家臣の食い扶持を確保しなきゃいけないし、領地の防衛や領内の整備も税収で賄う必要が有るから、徴税は領主として最優先のメッチャ大事なお仕事なんだよ。

関所での通行税などの徴税も、税率を含めて領主の権限では有るけど、王宮が代官を置かない限り、今は徴税する者が居ない状態のはずだよね。

何者かが勝手に徴税行為を行っているとすれば、それは国家統治の根幹を揺るがす重罪となる。

早速、やらかしてくれたか、と、頭痛を感じる。