軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還 ㉒

「どうした?」

「・・・魔法を使うときよりも、それ以外の場所でのことが多かったのかなと」

私って、細かいことは気にしないところが有るからなあ。

そんなものを気にする性格なら、今まで生き残って来られなかっただろうし。

優先度が低いと思ったことは気にならなくなっちゃうんだよね。

うーん。他にも何度か有ったはずなのに思い出せん。

上を向いたり下を向いたり首を捻ったりしている私の様子に、よく覚えていなさそうだと判断したのか、お母様が片眉を上げた。

「どうやら、法則性のようなものは無さそうか」

「・・・そうだよね。法則性は無さそう、かも」

「ふむ・・・」

腕組みの思案顔で私の顔をじっと見つめたまま、お母様も首を傾げる。

正直、私はもう、思い出すことを放棄しつつ有る。

「宝物庫に野営地に、ここか。関連性は無さそうだが、そうすると、場所の問題では無いのだろうな」

「・・・あと、時期は良く覚えていないけど、最近で変わった感じが有ると言えば、魔力の質を似せるのが楽に出来るようになったことかな」

これは間違い無いと思う。

「慣れ」だと思うけど、明らかに早くなっているはず。

「ほう。楽に?」

お母様が興味深そうな―――、というか、玩具を見つけたような目を向けてくる。

これって、何か推論を思い付いたんだろうか。

「それは、似せるコツを掴んだという意味か? それとも、質の違いを感じ取りやすくなったという意味か?」

「・・・どうだろう? うーん・・・」

コツ? 質の違い?

技量の問題なのか、感覚の問題なのか、の、違いだろうけど、難しいことを訊くなあ。

「ふむ? ちょっと目を瞑れ」

「・・・えっ? あ、はい」

言われるままに瞼を閉じたら、お母様がゴソゴソと何かしているような気配がして、私の手を取って何かを握らされた。

冷たくて固くて小さいもの。

石? この形状は魔石かな?

すっかり握り慣れた感が有って、手に馴染む。

「これが何の魔石か分かるか?」

「・・・む? 土、じゃないかな」

問われて魔石に意識を向けると、直感的に思った。

手の中の魔石を取り上げられて、私の体温が馴染んで暖かくなった魔石とは違う、別の冷たい魔石を握らされる。

「こっちは?」

「・・・あ。これは風」

すごく馴染みの有る魔力。

増殖するシカのお陰で在庫的にもよく使うから、すぐに気付いた。

「これは?」

「・・・闇、かな?」

また手の中の魔石を取り替えられた。

この魔力の感じは、最近も触れた覚えが有る。

「もう、目を開けても良いぞ」

「・・・はい」

手の中の魔石を取り上げられて、私の手からお母様の手が離れる。

指示に従って瞼を開くと、お母様は腰の小物入れに魔石を仕舞っているところだ。

「結論から言うと、属性―――、いや、質の違いに対する感度が上がっているようだな」

「・・・質? 感度?」

お母様は確信が有る様子だね。

技術的なものでは無く、感覚の方か。

「ああ。今、お前に渡した魔石の属性を、お前は全て言い当てた。これが全ての属性に当て嵌まるとすれば、そこから推測されるのは、お前は魔力そのものに対する感度が鋭くなったのだろう」

「・・・感度が上がると、威力が上がる?」

初めて聞く論理だよね?

ていうか、お母様、聞こえてない?

立てた指先を顎先に添えたお母様は、機嫌が良さそうに思索のパラダイスへとダイブしているのだけど、私はお母様の背後が気になっている。

「フレイア」

「感度という言い方は正確では無いのかも知れん。魔力との親和性? いや・・・。何と言い表すのが正しい・・・?」

「・・・お母様」

気になって仕方がないから、お母様に呼び掛けてみる。

・・・聞いてないな。

「んん・・・。魔力の知覚? 体内魔力がざわめくという現象の説明はどうなる? それとも―――」

「・・・お母様!」

仕方がないから、大きめの声で呼び掛けてみると、お。帰ってきたね。お母様がパチパチと瞬く。

「ん? どうした?」

「・・・ハロルド様が」

さっきから、思索に没頭し始めたお母様の後ろで声を掛けた後、ハロルド様が何か言いたそうに待ってたんだよ。

背後を示すと、ようやく気付いてくれたお母様がナチュラルに応対する。

「おう。ハロルド、どうした?」

「そろそろ野営地へ移動したいんだが、君のそういう姿は久しぶりに見たな」

「私が、何だ?」

「いや。楽しそうで何よりだが、移動しよう。その調子だと、次の野営地へ着く前に日が暮れてしまいそうだ」

フッと表情を柔らかくしたハロルド様の提案に、お母様はスッパリと思考を切り上げたようだ。

「そうだな。この話は、またにするとしよう」

「・・・ええ? 気になるよ」

私の頭にポンとタッチして、お母様が私の前を通り過ぎて行く。

「面白いことになっている、というぐらいだ。あまり気にしなくて良い」

「・・・むー」

途中で推考を止められると、気になるんだけど! トコトコとお母様を追い掛けて隣に並び掛ける。ハロルド様もお母様の反対側に並び掛けている。

「お袋殿とも議論したい。お前は威力の調整にだけ注意を払っておけ」

「・・・むむ。分かったー」

ぐりぐりされて、仕方ないので理不尽さを飲み込んだ。お母様でも推論しか出せないぐらい分からないことだらけなのに、答えを急いでも仕方ないか。気になる、って言っても、お母様に訊かれるまで私自身は忘れてたぐらいだし。

「何か有ったのか?」

隣を歩くお母様にハロルド様が目を向ける。

お母様は、といえば、軽く肩を竦めて見せる。

「大したことじゃない。フィオレの術式の威力が上がっているだけだ」

「それは・・・、大したこと、では無いのか?」

絶句したように足が止まったハロルド様は第1城門のアレを思い出したのかな?

うん、まあ、思い出すよね。私も思い出したもの。

でも、振り返ったお母様は何のことも無いように言い放つ。

「威力が高いことは良いことだ。気にするな」

「ふむ。そういうものか」

納得しちゃった! ハロルド様って、やっぱりお母様には甘いよね? 前にも、こんな光景を見た気がする。

全幅の信頼を置いているから、って感じでは有るけど、それで良いの?

「行くぞ? 日が暮れる」

それって、呼びに来てくれたハロルド様が言ったことだよね?

言うだけ言って、さっさと背中を向けるお母様のフリーダムさに、思わず感想が口に出る。

「・・・お母様が、それを言う?」

「全くな」

同じ感想を持ったらしいハロルド様と二人で、顔を見合わせて笑い合った。

なお、ポドックさんに「生水厳禁」と伝えることは、綺麗さっぱり忘れていた模様。

そのことに私が気付いたのは、帰路に復帰した馬上でのことだった。

まあ、魚のことは伝えたんだし、ポドックさんが自分で対応してくれることだろう。