軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還 ㉑

あの魚、どこから来たんだろうね?

地下水脈だと確信してるけど、私も予想外だったんだよ。

一方のポドックさんは、ニッコニコだ。

「そうなのだ! なかなか立派な池になりそうでな!」

「・・・怒らないんですか?」

相変わらず、話が噛み合っていない気がする。

ちょっと心配になって聞いてみても、逆に不思議そうな顔をされた。

飲用水用っぽく見える出水口からピッチピチの活きが良い生魚が出てきたんだけど、本当に分かってくれているんだろうか?

「なぜ怒る必要が? 水場にも水源にもなって、魚も獲れるともなれば、一大産業を興せる芽が出たと言うことで有ろう?」

「・・・い、一大産業ですか」

何か、急に話が大きくなったような。

「我が領のような小領は通行税が主な収入なのだ。街道の通行量は領の財政に直結するし、人を呼ぶ可能性が有るものは大歓迎だ」

ポドックさんは、ニッと笑って済ませてしまった。

本当に人の好いオジサンなんだな。

「・・・そっか。なら、良かった」

じゃあ、もう一つ、ポドックさんはフレンドリーだからサービスしてあげよう。

「・・・参考までに、川魚の泥臭さは、井戸水や湧き水なんかの綺麗な水で飼って1週間ほど泥抜きをすれば、泥臭さがマシになりますから、泥臭かったら試してみてください」

「ほう。そうなのか?」

ポドックさんが目を丸くする。

やっぱり知らなかったか。

王都の魚は臭くて食べられないってハロルド様が言ってたものね。

「・・・上手く臭みを取ることができれば、王都で魚は高値で売れると思います」

「それは良い! 是非とも試してみるとしよう!」

現金に直結しそうな情報だけに、ポドックさんは現金に手を打って喜んだ。

ホクホク顔なポドックさんは、随伴の騎士様から手綱を渡された馬の背に、意外なほどの身軽さでヒラリと跨がった。

上手く身体強化魔法を使える人は、見た目と身体能力が比例しないから、見ていて脳がバグるね。

馬上のポドックさんへと腕を伸ばしてハロルド様が握手を交わす。

「ではな。ポドック卿」

「うむ。通り掛かったら、また我が領へ寄ってくれ。歓迎するぞ」

「ああ。そのときは、よろしく頼む」

挨拶を交わしているナイスミドルな二人を眺めていたら、お母様が手招きしていることに気付いた。

「フィオレ。ちょっと来い」

「・・・? はい」

ご機嫌なポドックさんに小さく手を振ってお別れの挨拶をしてから、お母様のところへと駆け寄る。

お母様は私の頭にポンと手を乗せた。

「お前。王都に居る間に、また魔力保有量が増えたか?」

「・・・どうだろう? 王都で魔獣の血は飲めないし、レティアの採掘場で治癒魔法の練習をしていた頃には、もう、血を飲んでも胸がポカポカすることは無くなってたから」

ポカポカが魔力量の増加を示すものだとすれば、変わっていないのだろうし、魔力量が増えそうな原因に思い当たるものが無い。

「野営地で大穴を空けたときも、力加減を間違えたと言っていただろう?」

「・・・うん。いつもの力加減でやったら、ああなった」

私の返事にお母様が首を傾げる。

「さっきの娘たちに治癒術式を使ったときは、どうだった?」

「・・・さっき? 意識して無かったなあ。でも、治癒魔法の威力が上がることは良いことなのでは?」

私の問いに頷いて返しつつも、お母様には何か気になるところが有るようだ。

「それ自体はな。状況を聞く限り、術式の属性を問わず威力が上がっているように思う。何か異変は有るか?」

「・・・異変・・・。ああ、そう言えば、魔法を使おうとするときに、胸の中で魔力がざわつくと言うか、そんな感じは有るかも」

体感的なものを訊かれてるんだろうね。

思い付くものと言えば、そのぐらい?

私の答えに、お母様は再び首を傾げる。

「お前の心理的に、ではなく、体内魔力がざわつくのか?」

「・・・うん。そう、そんな感じだと思う」

「聞いたことの無い症状―――、いや、”現象”だな」

現象・・・か。確かに、そんな感じだ。

体調は悪くない、というか、とても良いと思う。

症状という感じは受けないな。

体に悪い、なんて感覚はない。

「いつからだ?」

「・・・うーん。いつからだろう? 宝物庫に入ったときだった・・・かも?」

覚えているのは、あれが最初だよね。

「宝物庫だと? 王城のか」

「・・・うん。足を踏み入れたときが最初で、次は隠し扉を見つけたときで、最後はレティア卿の剣を探してるとき・・・じゃなかったかな」

「待て。隠し扉とは何だ」

おや。初耳っぽい?

王城内部に詳しいお母様が目を丸くしている。

「・・・書架の間を通り抜けた突き当たりの壁が宝石や宝飾品の棚になってるよね? お母様に聞こうと思ってたんだよ。今の今まで忘れてたけど」

「あの棚か」

室内の配置を思い浮かべたらしく、お母様の目線が一瞬だけ焦点を無くした。

「・・・多分だけど、あの棚の一部が隠し扉になってると思う」

「聞いたことが無いな」

お母様が思案顔になる。

やっぱり初耳なのか。ちょっと、それは拙いかも。

「・・・テレサが興味を持っちゃったから、王様の許しを得てからじゃないと開けちゃダメとはテレサに言っておいたんけど、拙そうだよね」

「万一が無いように、その件は極秘に陛下へ知らせておくとしよう」

「・・・お願い。興味本位でイタズラする子じゃないと思うけど、それでも心配だし」

お母様は大きく頷いてくれた。

本当に大丈夫だよね? 頼むよ、テレサ。

「宝物庫では、それだけか?」

「・・・あの部屋に居る間は、その3回だったと思う」

お母様の確認に頷いて返す。

「その様子だと、他の場所でも有ったのか?」

「・・・ちゃんと覚えてはいないけど、ちょくちょく有るかも」

ディディエさんたちに治癒魔法を掛けようとしたときにも有った気がする?

「ちょくちょく、とは、どんなときにだ?」

「・・・うーん・・・? 魔法を使うとき、なのかな。宝物庫の後で最初にざわざわしたのは、野営で大穴を空けたとき? ああ、でも。さっき、人質を取った盗賊が森から出て来る前には、胸の中がざわざわして、“森の中にまだ何か居る”って思ったんだっけ」

がんばって思い出そうとするけど、あんまり覚えていないな。

基本的には、魔法を使おうとするとき、じゃないのかな。

あれ? そうなると、森のときの説明が付かない?

よく考えると、宝物庫に足を踏み入れたときも、隠し扉の存在に気付いた時も、剣を探していたときも、「魔法を使うとき」ではないな。

数え上げてみると、「魔法を使うとき」の方が少ない?

何だコレ? 他に「ざわざわしたとき」って、いつだっけ?

混乱しているのか、思い出そうとすればするほど、思い出せなくなってきた。

私ってば自分のことなのに、どうして、こうも覚えていないのか。