軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還 ⑲

ポドックさんが再び女性たちへ目を向ける。

「そなたら、盗賊について分かることは有るか?」

「夜中に村の中が騒がしくなったと思ったら、剣を持った知らない男たちが家へ押し入ってきたのです・・・」

「私の村もです。初めて見る男たちで・・・。あ、でも、男たちが話している会話に西部の訛りが有るようには思いました」

女性たちは洟を啜り上げながらも、先ほどよりも、しっかりとした口調で答える。

先に答えた明るい栗毛の人はディディエさん、だったかな?

後に答えた赤毛に近い栗毛の人はダーナさん、だっけ。

ダーナさんの証言にクロムハウトさんが目を眇める。

「西部訛りか。他国の工作員の可能性は有ると思うか?」

「無かろうよ。腕が悪いし撤退の見極めも遅い。組織的に指揮官を逃がそうとする素振りも無かった。このお粗末さでは、数人に徴兵経験が有るぐらいのものだろう」

クロムハウトさんは通商破壊作戦を疑っていたのかな?

懸念をバッサリと切り捨てたお母様の所感に、ドーンさんが難しい顔になる。

「だとすると、西部地域で食い詰めた逃亡民かも知れませんな」

「あの酷い徴発だ。逃げ出した領民は居ただろうからな」

その言い方だと、ハロルド様も西部地域からの逃亡民だと見ているのかな。

ハロルド様の意見にクロムハウトさんが表情を険しくする。

「西部地域は、そんなに酷かったのか?」

「重税どころでは無く、民が冬を越せないほど食料を徴発していてな。抵抗する領民を見せしめに殺していた」

溜息雑じりに言うお母様の証言に、ポドックさんたちは揃って目を剥いた。

「自領の民をか? 常軌を逸しているぞ」

「迷惑な話だが、それでは盗賊に身を 窶(やつ) すのも無理は無いですな」

クロムハウトさんが顔を顰め、痛ましそうな顔でドーンさんが首を振る。

私も聞いていて胸くそが悪くなる。

領民が1年掛けて収穫した食べ物を領主が根こそぎ奪うなんて、盗賊と何も変わらない。

だからといって、盗賊に身を落とした連中に同情する余地なんて無いけどね。

ポドックさんたちの反応に、お母様が肩を竦めた。

「生かして捕らえた賊も居るのだろう? 賊が何者なのかは、そいつらに吐かせれば良い」

「そうだな。罪人の裏を探るのも重要だが、生きていかねばならん者たちのことも重要だ」

小さく溜息を吐いてお母様に同意を示したポドックさんが、被害者たちへと向き直る。

「そなたら、村には生存者が見当たらなかったが、身を寄せる場所は有るのか?」

「いいえ・・・。家族は目の前で殺されましたし、親戚も、皆・・・」

「私もです・・・」

ディディエさんだけでなく、ダーナさんも首を振った。

被害者たちの生活の安全を担保すべき立場だったポドックさんとクロムハウトさんが、渋い表情になる。

「どうしたものか。働き口を探してやるぐらいしか出来んが・・・。身寄りも無く、人となりを保証する者が無くては、私たちからの紹介状だけでは難しいかも知れん」

痛ましそうな表情でポドックさんが顎先を摩る。

クロムハウトさんも渋い表情のまま同意するように頷いている。

ん? どういうこと?

身元が定かじゃない平民だから、ポドックさんたちのところでは受け入れてあげられないと?

自分たちの領民なのに、それ、どうなのよ。

元はといえば、盗賊の侵入を許した領主の責任じゃないの?

いや、待て待て。こっちの世界は戸籍制度が無かったんだっけか。

そう考えると、ポドックさんたちを一方的に責めることは出来ないのか?

防諜面や安全面を考えると理解できる部分が無いとは言えないけど、モヤッとするなあ。

そこで俯くのではなく、グッと顔を上げたディディエさんが声を上げた。

「あの・・・!」

「・・・ん? 私?」

ディディエさんの目は、領主のポドックさんでは無く、私へと向いている。

なんで私?

「私を連れて行っていただけませんか? 下働きでも何でもします!」

「・・・ウォーレス領に付いて来たいの?」

おや? 移民希望者?

ダーナさんの目も私に向いている。

「もう、私には家族も、身を寄せる先もありません。ですので、フィオレ様にお仕えさせていただけませんか?」

「私もです! お願いします!」

ディディエさんにダーナさんも同調して、二人の勢いに押されて仰け反る。

仕方ないな。訊くだけ訊いてみよう。

「・・・こ、こう言っていますが。どうなのでしょう?」

「どう、とは?」

労働力で有る領民は領主の資産みたいなものだからと訊いてみたら、クロムハウトさんが首を傾げる。

「・・・貰って良いですか?」

「我が領は構わんが、良いのか? ピーシス卿」

クロムハウトさんが確認すると、お母様は頷いて返した。

「当代はフィオレだと言っただろう。フィオレが受け入れると言っているなら、こちらは構わん」

「分かった。フィオレ卿、頼めるか?」

「・・・お引き受けします」

ヨシ! 労働力ゲット!

クロムハウトさんとの決着を見てポドックさんが乗っかってきた。

「ディディエと言ったか。彼女も頼んで良いだろうか?」

「・・・では、いただいて行きます」

「う、うむ?」

ポドックさんが頷きながらも首を傾げている。

しまった。私の欲望が漏れ出していたか。

これ以上の襤褸を出さないように、全力でキリッと真面目な顔を取り繕う。

「よろしく頼む」

「・・・はい。責任を持って、お預かりします」

クロムハウトさんが投げ掛けてくれた締めのお言葉に乗っかって、神妙に頭を下げて返す。

これはもう、さっさと貰って帰るに限る。

一人でも二人でも多くの労働力が欲しい私としては、犯罪者でもない限り、移住したいと希望する人を断る選択肢は無い。

とはいえ、人攫いみたいに連れて行きたいわけじゃないから、本人たちの意志を再確認しておかないとね。

「・・・ディディエさんにダーナさん、だっけ」

「「はいっ!」」

食い気味に返ってきたイイお返事に、ちょっと仰け反る。

「・・・わ、私と一緒にウォーレス領へ来るってことで良いんだよね?」

「はいっ! 一生、フィオレ様のお側で仕えさせてくださいませ!」

「お救いくださったフィオレ様へのご恩、私の生涯を掛けて、お返しさせてくださいませ!」

「・・・お、おぅ・・・」

近い近い! 顔が近い!

ていうか、重いな!

嫁に行く気、無いの!?

両拳を握り、キラッキラな目でグググと迫ってくる二人の勢いに、私の腰が引ける。

あれ? この人たちって20歳手前ぐらいの歳だと思っていたんだけど、こうやって間近に顔を見ると、もうちょっと若い?

女性、というよりも、高校生ぐらい―――、15~16歳ぐらいの女の子に見える。

この人たち、こんな感じの人たちだったっけ?

いやいや。今は、そんなことを考えている場合じゃ無いな。

ディディエさんとダーナさんの潤んだ目に陶酔するような光を見てしまって、正直、ちょっと引いている。

何かもう、他のものはどうでも良さそうな感じで迫ってくる二人に、狂気的な依存すら感じる。

こんな感じの目、どこかで見たな。

ネットで見た地雷系って呼ばれてる女の子の画像?

・・・早まったかな?

私としては、いつか立ち直って幸せな結婚でもできるように強く生きてね、って、つもりで励ましてたんだけど。

でも、領主であるポドックさんたちに引き受けると言ってしまった以上、舌の根も乾かない内に手のひらは返せない。

身寄りのない女の子たちを着の身着のまま放り出したりしたら、ロクな結果にならないだろうし。