作品タイトル不明
帰還 ⑱
殺されていた女性たちが、どんな状態の死体だったかなんて、暴行を受けていたであろう目の前の二人を見れば簡単に想像が付くし。
さっきの私と同じように、自分だったらどうするか、って考えちゃったんだろうね。
ズレていて、まともな感性か怪しい私よりも、みんなは、もっと強く憤りを感じたはずだ。
なんだかなあ・・・。
世界が違っても、時代が違っても、人間が生物で有る以上、その善悪は別として、生殖行為は生物としての本能だし、永遠に無くならない問題なんだろうなあ。
古今東西、戦争が起こる度に、女性たちが被害に遭うことは万国共通だ。
むしろ、戦争を起こす主な目的にすら、なり得る。
発想が貧困な私では、こんな悲劇に対する防御策なんて“強くなる”ことしか思い浮かばない。
私だって被害者にはなりたくないし、被害者を目の当たりにしてしまったからこそ、教訓として活かさなければ。
やるせない気持ちでヨシヨシし続けていたら、仕事を終えたらしいポドックさんと随伴の騎士様2人がやって来た。
「ピーシス卿! 助力、感謝する!」
「終わったか?」
作戦の終結を悟ったお母様たちが肩の力を抜いて鞍から降りる。
馬の足を止めたポドックさんも明るい表情で鞍から降りた。
「うむ! 本当に1日で終わるとは、感服したぞ!」
「他の2領は?」
「そろそろ―――、おお、来たようだぞ」
顔を振り向けて言ったポドックさんの目線を追えば、包囲の中心方向から、ハロルド様とエゼリアさんたちと、見覚えの無い騎士様たちの一団が馬を駆けさせてくる。
「ピーシス卿! 久しいな!」
「おう。1年ぶりぐらいか?」
ハロルド様と同年代ぐらいの男性が馬上からお母様に声を掛けた。
面識が有るらしいお母様は、いつもの調子で応える。
「此度は、随分と派手に遣ったそうですな!」
「まあな。お陰で隠居の身だ」
こちらはポドックさんと同年代かな?
丁寧語で声を掛けてきた男性に、こちらとも面識が有るらしいお母様は、いつもの調子で返している。
「何と、勿体ない! ウォーレス卿とピーシス卿でなければ、僅か一月で事を収めることなどなど出来なっかたであろうに!」
「いい加減、疲れた。そろそろゆっくりさせてくれ」
肩を竦めて見せるお母様を、ハロルド様と同年代の方の男性が擁護する。
「特務は激務だ。残念だが、仕方あるまいよ」
「後任はバルトロイだ。よろしくしてやってくれ」
「うむ。して、こちらの御令嬢たちは?」
男性の目が私たちに向いて、私たちに注目が集まる。
「ルナリア。フィオレ」
「はい」
「・・・あ、はい」
お母様に呼ばれてルナリアと二人で前へ出る。挨拶しろ、ってことね?
「ルナリア・ウォーレスと申します」
「・・・フィオレ・ピーシスと申します。お見知り置きを」
「うむ。私は、ライリー・クロムハウトだ」
「私はリンデルト・ドーンです。よろしくお願いしますぞ」
ハロルド様と同年代の方がクロムハウトさんで、ポドックさんと同年代の方がドーンさんか。
まだルナリアは元気が無いな、と思っているところへ、手頃な騎士様に手綱を預けたハロルド様とエゼリアさんたちが戻って来た。
「フレイア様。任務、完了致しました」
「おう。お疲れさん」
エゼリアさんたちをお母様が労い、ハロルド様のお腹にルナリアが抱き付く。
「お父様」
「お、おお、ルナリア。無事だったか?」
「はい・・・」
困惑気味のハロルド様がルナリアの頭を撫でる。
「どうした?」
「あの森の中で、殺された人質を何人か見つけたわ」
ハロルド様のお腹に顔を埋めたままのルナリアの言葉に、表情を厳しくしたポドックさんが随伴の騎士様へと目を向ける。
「不死者を出すわけには行かん。遺体を回収してやれ」
「はっ」
領軍に指示を出すべく騎士様の一人が駆けて行き、ハロルド様は座り込んでぐずっている女性たちに目を向けた。
「ふむ。それで、こちらの女性たちは?」
「フィオレが助けた人質よ。他の女性たちは助けられなかったわ」
「女性・・・? そういうことか」
悔しそうに言うルナリアの言葉に男性たちが揃って顔を顰めた。
「そなたら、私はポドック領主、ローアン・ポドックと言う。話を聞かせてくれぬか?」
「こ、これは、子爵様・・・・!」
ポドックさんから掛けられた声に、女性たちが袖口で涙を拭いながら慌てて立ち上がろうとする。
「良い良い。立たずとも。先ずは、そなたらの名前を教えてくれ」
「私は、トリド村のディディエと言います」
「私は、ケイガル村のダーナと申します」
女性たちの答えに痛ましそうに眉根を寄せたのは、ポドックさんとクロムハウトさんだ。
「トリド・・・。我が領の村だな」
「ケイガルか・・・。我が領の領民ではないか」
ポドックさんたちから返った反応にハロルド様が目を向ける。
「被害に遭った村か?」
「ああ。共に、滅ぼされた村だな」
「よくぞ無事で」
クロムハウトさんがハロルド様に答え、ドーンさんが喜ばしそうな声を上げた。
当然ながら、お母様が不機嫌そうな声で返す。
「うら若い娘が盗賊どもに攫われて、無事でいられると思うのか?」
「いや、しかし・・・」
困惑顔のドーンさんに向けて、お母様がポンと私の頭へ手を置いた。
「このフィオレが癒やしたんだ」
「何と。御令嬢は治癒術式を使えるのか」
驚くクロムハウトさんに向かってお母様は首を振る。
「令嬢ではなく当代だぞ。そっちのルナリアもな」
「そうなのか? ああ、いや。隠居の身だと言っていたか」
目を丸くしたクロムハウトさんは、自らの認識の誤りを修正する。
「王命でな」
「隠居とは、そういうことでしたか」
軽く肩を竦めるお母様の言葉に、ドーンさんも眉根を寄せた。
そっか。ポドックさんだけでなく、クロムハウトさんもドーンさんも王都で起こったことの情報が、まだ届いていなかったのか。
そして、特務魔法術師を務めていたお母様に対して否定的では無かった様子に見えた。
「ポドック卿にも言ったが、誤解するなよ? この措置は私たちから陛下に上奏したことだ」
「二人ともか?」
クロムハウトさんとドーンさんも驚きを顕わにする。
「南部が忙しくなりそうなのでな」
「またカリーク公王国に動きが?」
目元を鋭くしたポドックさんに、ハロルド様が首を振る。
「いや。国内だ。色々と動きが出て来るだろうから王宮からの情報に注意しておくといい」
「ふむ・・・」
「王宮の、ですか」
「そうするとしよう」
ハロルド様からの情報に、ポドックさんたち三人が顔を見合わせてから頷いた。