軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還 ⑰

「「―――きゃっ」」

血飛沫が舞った瞬間には、男たちの腕から魔力の手を消して、作り直した別の魔力の手で女性たちの体を馬上から掴み上げていた。

男たちの悲鳴が上がると同時にルナリアは馬の腹を蹴っている。

弓を構えていた男は仲間の悲鳴に驚いて目線を逸らした瞬間、こめかみに矢柄を生やして馬上から崩れ落ちた。

ナンナちゃん、さすが!

「うおおおおおお!」

「アガッ・・・!」

射殺された男が地面に落ちる前には、剣を引き抜いたルナリアがピーシーズを引き連れて突進して、擦れ違いざまに絶叫を上げている男の脇腹を切り裂いている。

もう一人の腕を潰された男を睨んだままのルナリアが手綱を引いて馬を戻そうとするけど、そのときには、ナンナちゃんの第2射がその男の眉間に突き立っていた。

白兵戦じゃ無ければルナリアの足は活かせないし、やっぱり飛び道具の方が早いか。

出遅れてしまった騎士様たちも、逃亡しようとする盗賊たちの進路を妨害して逃がさない。

一歩、先んじて突進していたピーシーズが、進路を塞がれた男たちの馬に乗馬を寄せて斬り掛かる。

右から左から、ほぼ同時に剣が振られては防ぐことも出来ない。

瞬く間に5人の盗賊が討ち果たされて、残党の潜伏を疑った騎士様たちが森の中へと突入していく。

シュルシュルと戻ってくる魔力の手の中には掴み上げた人質の女性たちがいる。

突進していく領軍の騎馬と接触しないようにと上空5メートルの高さを飛んできた女性たちを、私の馬の足元にそっと降ろす。

数瞬、呆然としてた女性たちは、もう安全だと気付いたのか自分の体を抱きしめながら号泣し始めた。

森の方へと視線を戻す。

数人の騎士様は盗賊たちが跨がっていた馬の手綱を掴んで確保し、別の騎士様たちは横たわる盗賊たちの死体を確認して回っている。

ルナリアは騎士様たちと一緒に森へ突入して行っちゃったけど、ピーシーズの4人が付いているから大丈夫だろう。

さらには領軍の騎士様たちも付いているのだから、盗賊の数人に負けるルナリアでは無い。

「もう・・・、死にたい・・・」

嗚咽の合間に聞こえた声に、泣き続けている人質だった女性たちへと目線を戻す。

私の傍にはナンナちゃんが残っているし、お母様たちも残っている。

女性たちを放っておけなくて、私は鞍から降りる。

「・・・酷いことするな・・・」

2人とも、はだけた衣服の胸元が覘く素肌には、衣服で隠れた部分にも、乱暴に暴行を受けたのだろう痕跡が残っていて、彼女たちと同じ性別の女として怒りと共に哀れみを抱いてしまう。

もしも、私がこんな目に遭わされる状況に追い込まれたら、どんな行動を取るだろう?

辱めを受けるぐらいなら、最期の一瞬まで魔力を絞り尽くして戦うのだろうか。

きっと、辱めを受ける前に、殺さざるを得ないぐらいに暴れ倒して、1人でも多くの敵を道連れに死を選ぶのだろう。

私の体は私だけのものでは無くてフレーリアのものでも有るのだから、何が有っても穢させられない。

抵抗する手段を得た今の私には、無抵抗で蹂躙されるなんて選択肢は無い。

おカネをチラ付かせて近付いてくるオッサンどもに体を売ってでも飢えを凌いで生きるのか、飢えて死ぬのか。

かつての私も、似たような状況に放り出されたことが有る。

死んでしまえば楽になれるかも、と、彼女たちが考えてしまう気持ちは分からなくも無い。

でもね。どちらの道も拒絶して選ばなかった私だからこそ、今の「死にたい」という言葉は聞き流せない。

女として、人としての、尊厳を捨ててでも生きる選択肢は有る。

女として、人としての、尊厳を守り抜いて死ぬ選択肢も有る。

かつての私のように、尊厳を捨てず、泥水を啜ってでも生き抜く選択肢だって有る。

余計なお世話かも知れないけど、放っておけない。

泣き続けている女性たちの前に立つ。

「・・・あのね? あなたたちは、さっきの連中に捕まっている間、死を選ばなかった。死ぬ覚悟も無いのに、”死にたい”なんて口にするものじゃないよ」

しゃくり上げながらも女性たちが顔を上げる。

厳しいことを言うけど、人間も自然も脅威だらけの世界では、抵抗して自分の尊厳を守る意志のない人は、ここで単に助けても、どこかで今と同じような被害に遭うんじゃないかな。

助けてあげたいとも思うし、強く生きて欲しいとも思う。

でも、自分自身が強く在る意志を持たないと、誰かの食い物にされるだけなんだよ。

「あなたたちの傷付いた体を、治癒魔法で穢される前まで戻して癒やすことは出来るとは思う。でも、治癒魔法では、心の傷までは癒やせないからね。あなたたちは、ずっと心の傷と戦い続けなきゃいけなくなる。生きるにも、死ぬにも、覚悟が必要なんだよ。その上で聞くよ? 生きたい? それとも、本当に死んでしまいたい? そんなに死にたいのなら手伝ってあげる」

女性たちの表情が心と体の痛みに歪む。

辛いだろうし、苦しいだろうし、それでも生き残る道を選んで欲しい。

起きてしまった悲劇は、無かったことには出来ないのだから。

どうか、挫けない”覚悟”を持って欲しい。

傷付いているときに可哀想だけど、今、ここで伝えておかないと、すぐにでもウォーレス領へ帰ってしまう私は二度と彼女たちと会うことが無いかも知れない。

くしゃりと顔を歪めた女性たちは涙を落としながら俯く。

「いきたい、です・・・」

「私も、生きていたいです・・・」

「・・・じゃあ、強くならないとね」

返事を返した二人の頭に両手を伸ばして優しく撫でる。

「「はい・・・」」

女性たちの目からは、ポロポロと大粒の涙が零れ落ち続けている。

伝わってくれたかな?

伝わってくれていると良いな。

癒やしてあげよう。

この人たちの体を“戻して”あげよう。

そう思ったら、胸の中でさわさわと魔力がさざめいた。

何だろう? ここのところ、こういうのが多いな。

体調は悪くないから問題は無さそうなんだけど。

今は良いや。今は、この人たちのことだ。

魔石を握った両手を、それぞれに女性たちへと向ける。

魔石から伸びた魔力の手で女性たちの全身を包み込み、魔力に触れて、質を似せる。

この作業も慣れたものだ。女性たちの体内で願いを込めてイメージする。

「・・・戻って」

ポドックさんの話では、盗賊の被害は、ここ3ヶ月間のことだと聞いた。

女性たちの話は聞けていないけど、最悪、ここ3ヶ月間、暴行を受け続けていた可能性が有る。

もしかすると、あの盗賊たちの子供が彼女たちのお腹の中に居るかも知れないよね。

望まれない子供。かつての私そのものだ。

そんなことになったら、悲劇の連鎖が起こる未来しか、やって来ないだろう。

だったら、3ヶ月以上の期間にわたって戻って欲しい。

この人たちの体の中から、汚らわしい男たちに蹂躙された痕跡が無くなるまで。

出来ることなら、この人たちが挫けずに生きて行けますように。

発動した治癒魔法が女性たちの体の内外に受けた傷を“戻して”、私の願いが爆発する。

女性たちの顔に付けられた痣や胸元から覘いた素肌の傷を、すぅっと消していく。

グググと髪が縮んだような気がするけど、気のせい・・・?

よく見てなかったな。

驚きに目を瞠って、女性たちは嗚咽どころか呼吸すら忘れているようだ。

体の内外に感じていた違和感が溶けるように消えたことを感じ取ったのか、震える手で自分の体を抱きしめて、再び大声を上げて泣き始めた。

この人たち、20歳手前ぐらいだろうか?

私の数倍は生きている女性たちの頭を、もう一度、ヨシヨシと撫でる。

今は思いっきり泣くと良いよ。

泣き止んだら、しっかりとご飯を食べて、自分の足で立つんだよ?

私は森の中まで殲滅戦をしに入るつもりは無いから、女性たちを撫で続けてルナリアたちの帰りを待った。

しばらくすると、もの凄く不機嫌そうな顔をしたルナリアと、これまた機嫌の悪そうなピーシーズが戻って来る。

鞍から降りたルナリアが私の傍へとやって来た。

「・・・お帰り。どうだった?」

「この辺りにいる盗賊は、全部、殺したわよ」

「「―――、!!」」

おや? これは私の質問に対する答えじゃ無いな。

一瞬、泣き声が止まった女性たちが再び泣き始める。

うん。ルナリアは、「仇は取ったぞ」と伝えてあげたんだね。

とてもルナリアらしい励まし方だ。

女性たちの様子を見届けたルナリアは不機嫌そうな顔のまま、ふいっと横を向けている。

「・・・どうしたの?」

「あの森の中に、いくつも女性の死体が有ったわ」

「・・・ああ、そっか」

助けられなかったことで機嫌が悪いのか。