軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還 ⑯

「・・・ルナリア! 待って!」

「ふぇっ!?」

私の制止にルナリアがズッコケそうになっているけど、私は森から目を離さない。

胸の中がざわざわするんだよ。

胸騒ぎ、というよりも、胸の中の魔力そのものが、ざわついている感じ。

魔力が私に報せてくれている感じ、なのだろうか?

森の方が気になって仕方がない。

確証は無いけど確信は有る。

まだ、森の中に何かが居る。

再び黒っぽくて小さな影が私たちに向かって飛んできて、魔力の手に阻まれて空中で跳ねた。

「・・・矢! まだ居るよ!」

「突入するわ!」

「・・・ダメ! 待って!」

「ええっ!?」

出足を挫かれたルナリアが非難の声を上げた、そのとき、森の入口で何かの影が動いた。

「近寄るんじゃねえ―――ッ!!」

「「「「「―――ッ!」」」」」

ダミ声の叫びに視線が集まる。

注視の中、いくつかの影が木々の間から歩み出してくる。

騎馬―――、鞍に弓を構えた男を乗せた馬が1頭と、剣を抜いた男を乗せた馬が4頭。

剣を握る男たちの内、2人の剣は、私たちでは無く、鞍の前に乗せた女性たちの首元に添えられている。

まだ若い女性たちの顔には殴られた痕を示すような痣が、いくつも貼り付いていて、着衣の胸元が乱れていることから暴行を受けたことは目にも明らかだ。

この野郎・・・!

カッと頭に血が上るけど、冷静に、と、自分に言い聞かせる。

王都での事件と同じミスを繰り返しちゃいけない。

「人質!?」

「道を空けろ―――ッ!!」

背後の男に髪を引っ張られ、表情を歪めて涙を零す女性たちの首から、ツッと赤い筋が垂れ落ちた。

爆発するようにルナリアの全身から怒気が溢れる。

「卑怯者! 人質を解放しなさい!」

「うるせエ―――ッ!!」

「「「「「―――くッ!!」」」」」

怒鳴り返した男が、髪を鷲掴みにした女性たちの顔を見せつけるように押し出し、包囲している側の全員の動きが止まった。

怯えた女性たちの口から痛みによる小さな悲鳴が漏れる。

動揺する騎士様たちの目がお母様に集まるけど、冷ややかに睨み返しているお母様は動じず動かない。

お母様は手を出さないけど包囲を解かせる様子も見せない。

つまり、お母様は盗賊たちを逃がす気なんて更々無いし、私たちで何とかして見せろ、ということだ。

ギリギリと歯噛みするルナリアが親の仇のように男たちを睨み据えている。

「フィオレ」

「・・・何?」

私も男たちを見据えたまま、感情を抑え切れていないルナリアの声に応える。

「アレ、何とかできない?」

「・・・人質だけで良い?」

人質にこれ以上の害を及ぼさせずに、盗賊から引き離すだけなら出来ると思う。

「十分」

「・・・分かった」

自信に満ちたルナリアの声が返ってくる。

右手の中から左手の中へと魔石を持ち替えて、腰の小物入れを空いた右手で探る。

「・・・ナンナちゃん」

「はい」

ナンナちゃんは弓と矢を番えて準備をして居ても、引き絞らないまま待機している。

「・・・人質を引き離したら射っても良いよ」

「了解です」

ナンナちゃんからも自信に満ちた返事が返る。

採掘場での出荷作業で鍛えられたナンナちゃんが、この距離で的を外すことなど無い。

「・・・ルナリアが突撃すると思うから、他のみんなはルナリアをお願い」

「「「「はい」」」」

ピーシーズの返事に私は左手の魔力の手を伸ばし、右手の魔石からも魔力の手を伸ばす。

ノイエラさんなら土魔法で真下から盗賊を貫くのだろうけど、私には、もっと確実な手段が有る。

手段を持っていることに気付いてしまった。

目視距離での魔力の手1本なら、意識しなくても自分の手のように精密な動きで扱えるようになっている。

意識しなくても自分の手と同じように扱えるなら、1本で出来て2本で出来ないわけが無い。

だって、私には2本の手が有るのだから。

音も無く、姿も見えず、スルスルと伸びた魔力の手が人質を取っている男たちを包み込む。

コイツら、絶対に許さないし、絶対に逃がさない!

「・・・行くよ」

「うん!」

ここで殺すと不用意に動いた剣で人質がケガをするかも知れないからね。

女性たちの首に添えられている剣が動かないように、剣を握っている腕を剣ごと魔力の手でグシャリと握り潰す。

「「ぎゃあああああああっ!!」」

突如として男たちが絶叫を上げて鮮血が噴き上がる。

手の中でギュッと握り固めるだけで土が小石に変質するほどの高圧力を出せるのだから、魔力の手の握力は万力どころの強さでは無い。

イメージするだけ上限なく高められる握力でフルパワーを出せば、簡単に引き千切れてしまうだろうから、全力を出さずに潰れた腕がポロリと取れてしまわない程度に収めるよう意識する。

ポロリすると出血や痛みは有るけど、敵が身軽になってしまう。

現代地球だって、対人戦闘では敵をその場で殺しきる概念になっていない。

戦闘に加われない程度にまで敵を負傷させて、”余計なお荷物”を作るんだよ。

戦争のルールを決めたハーグ条約を元に”人道的な―――”なんて綺麗事は言ってるけど、そうじゃない。

負傷兵として生かしておくことで、敵の人手も、戦意も、兵站も、医療リソースも、輸送リソースも、消耗させられるのだ。

これも、それと同じ。

邪魔な”お荷物”にしかならないクズ肉の塊がブラブラとぶら下がっているからこそ、敵の動きを阻害するはずなのだ。

生ゴミに変わった自分の腕が視界に入って存在を主張し続けるからこそ、精神的ダメージが大きくなるんじゃないか、とも思うから、引き千切ってあげない。

自分の手で自分の腕を引き千切る度胸が有るなら、やってみれば良い。

そんな度胸が有る、肝の据わった人物なら、盗賊なんて、やっていないだろう。

無様に自分の”お荷物”を見せつけることで仲間の戦意を削って、あなたたち自身が”お荷物”になれば良いよ。

回復薬なら治せるかも知れないけど、そんなもの使わせてあげない。