軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還 ⑭

どうなってんの、コレ?

水量が増えてる?

「・・・うわぁ・・・」

水を流す溝に着地した地下水がジャンプ台のように飛沫の飛距離を伸ばしていて、またしても、辺り一面が水浸しになっている。

地面を濡らした飛沫は地表を洗い流して堤防の淵から大穴の底へと流れ込んで行く。

取りあえず、滝壺を大きくして応急処置するか。

魔力の手を伸ばして着地地点の土間に潜り込ませて魔力を浸透させる。

滝壺を延ばすようにグググと淵を広げて、飛沫が治まるところまで底を深くする。

「ありがと!」

近付いても飛沫を被らないと判断したらしいルナリアが、滝のように噴き出す水流へと手を伸ばした。

「ふぁっ!? 冷たーい!」

キャッキャと楽しげな悲鳴を上げながらルナリアが顔を洗い始めると、ピーシーズも続く。

子犬みたいにプルプルと顔を振って水滴を飛ばすルナリアに、腰の小物入れから取り出したハンカチを手渡す。

「・・・ちゃんと拭かないと風邪ひくよ」

「うん! ありがと!」

手を拭いて、顔を拭いたルナリアから畳んだハンカチが返ってくる。

土間をトントンと踏んで出来を確かめていたノイエラさんが、納得したように頷いて戻ってくる。

「上手くなりましたね」

「・・・そうかな」

私に土魔法のコツを教えてくれたのはノイエラさんだったもんね。

先輩に褒められたみたいで嬉しくなる。

とことこと土間の端まで歩いたルナリアの後ろ姿を何となく眺めていると、大穴の淵で景色を眺めるように両の腰に他を当てて仁王立ちになったと思ったら、コテリと首を傾げた。

道端の蟻の行列でも観察するように、しゃがみ込んで大穴の底を覗き込み始める。

何してるんだろう?

「ねえ、フィオレ」

「・・・何?」

ルナリアの声に困惑のようなものが混じっている気がする。

「魚が泳いでるんだけど」

「・・・え?」

「魚よ、魚。こう、泳ぐ魚」

うん。それは分かってるよ。

立ち上がって、頭の上で両の手のひらを合わせて体をくねらせる、ルナリアのモノマネに笑いそうになる。

ノイエラさんと一緒にルナリアの傍まで行って、私たちも10メートル下の穴底を覗き込む。

「・・・何で魚が?」

「ほら。あそこ」

「・・・ホントだ」

空が白んできたとはいえ、日の出前の穴底は薄暗い。

黒っぽく揺らぐ水面の下に、さらに黒く小さな影が幾つか走るのが見えた。

昨日できたばかりの大穴に水が半ばまで貯まりつつあって、居るはずの無い川魚が泳いでいる?

振り返って、ピーシーズが顔を洗い終わった馬っぽいナニカを見る。

この馬鹿デッカい水溜まりと外部が繋がっている場所なんて、1ヶ所しか無い。

考えられる侵入経路としては、アレしか無いだろう。

地下水脈に棲んでいた川魚を馬っぽいナニカが吐き出す絵面を想像した。

一夜明けたら湧き水の水量が増えていた原因は分かった気がする。

ゴミが出て来ないようにと詰めたはずの小石が水圧に負けて吐き出されたんじゃないかな。

現に、足元に生えている雑草の根っこの陰に、角が取れた丸っこい小石が引っ掛かっている。

ていうか、私が魔力の手を突っ込んだ深さは、地表から100メートルよりも、もっと深かったと思う。

そんなに深い場所から引っ張り出した地下水に、何で魚が棲んでるんだよ。

地底湖でも有る?

うーむ・・・。あの水を飲んだら、お腹、壊さないかな?

川魚が泳いでいる川の水だって沸かせば飲用水にはなるから、大丈夫だろうか。

まだ誰も飲んでいないはずだから、セーフだと信じよう。

「行きましょうか。そろそろのようです」

「・・・あ。はい」

ノイエラさんの声に振り向くと、ポドックさんとの話を終えたお母様とトリアさんが、私たちの馬が足元の草を食んでいる場所へ戻ってくる姿が見える。

「みんな、行くわよ!」

「「「「「はっ」」」」」

元気に駆けていくルナリアとピーシーズを追って、ノイエラさんと私も駆け足で馬へと急ぐ。

ポドックさんにも知らせて、“生水厳禁”って注意喚起してもらわないとなあ。

お腹を壊す水場だと悪評が立ったら元も子もない。

水場が有って、無料で使える窯や竈が有って、魚を釣ることが出来て、すぐ横の山で薪も集められるとなれば、キャンプ地として使える条件は整っていそうな気がする。

ポドックさんだったら、むしろ、魚が捕れることを喜びそうだし、魚と一緒に世間の荒波の隙間を泳いで上手く水質の壁を乗り越えてくれることだろう。

お金を取って魚釣りを許す”遊漁券”の概念を教えて、小銭稼ぎでも奨めるべき?

それとも、王都から馬で1日の距離なんだから、王都で魚を売った方が高く売れる?

私だったら生け簀で生かしたまま運ぶ方法を考えて、もっと高く売るだろうけど、そこまで教えて世話を焼く必要は無いな。

商売っ気が有りそうなポドックさんが勝手に考えて勝手に儲けてくれることだろう。

どこまで教えるかは、そのときの気分で良いや。

急いで戻って鞍に跨がる。

ルナリアもピーシーズも、気合い十分。

私たちにとっては、拠点防衛戦以外での、初めての戦場だ。

あれ? 王都での戦闘は「戦場」になるんだろうか?

まあ、攻勢側での作戦行動は初めてなんだから、初めてで良いよね。

朝5時過ぎに二手に分かれて行軍を開始したウォーレス・ポドック連合軍は、5時間後の午前10時までに包囲を完了して配置に就く。

行軍中に前後の距離を20メートルにまで広げて常足で進み、同じルートを逆行してきたウォーレス・クロムハウト連合軍と、ウォーレス・ドーン連合軍に鉢合わせた場所で、周囲125キロメートルにも及ぶ巨大な円形の包囲陣が完成するのだ。

そこから円の中心を目指す方向に進路を変えて、午前10時に盗賊の捕縛殲滅作戦が始まる。

半径20キロメートルだから、常足、時速5キロメートルで進軍しても、最大4時間で包囲網の内側に残った面積はゼロになる。

お母様から聞いた話では、クロムハウト領に向かったミセラさんとドーン領へ向かったマーシュさんも、レヴィアさんと同じく昨夜のうちに内通容疑者を見つけ出していたそうで、3領すべてで内通者が捕縛されたそうだ。

領都の守備隊に勤める守備兵だったらしいから、盗賊側が手駒という根の深い犯罪組織では無さそう?

土地勘も人脈も無いはずのレヴィアさんたちが、どうやって賊の一味を見つけ出したのか私には想像も付かないけど、ロス家の諜報能力の高さに戦慄を覚えざるを得ない。

絶対に敵に回さないでおこうと心にメモした。