作品タイトル不明
帰還 ⑫
輜重部隊の兵士さんたちは、野営食を作る人数が分散したとはいえ、1万人分から3000人分へと減れば多少は楽になったみたいで、時間に余裕が出来たから明日の朝食分と昼食分のパンも焼いておくんだって。
それでも必要量は大量だから、大変だろうけどね。
3000人もの筋肉の塊が3枚ずつパンを食べると仮定して、2食分だと1万8000枚だよ。
実際には、明日のお昼は野戦食だと思うし、メインは干し肉で、パンはもっと少なめだろうけどね。
一枚一枚の生地が薄いからすぐに焼けるみたいだけど、枚数が枚数だし、遅くまで焼き続けるんだろうなあ。
輜重部隊はゆっくりできる時間が少し遅くなるけど、頑張ってくれている輜重部隊の人たちは不寝番の割り当ては無しで、騎馬部隊だけで順番に不寝番に就く。
そうは言っても、今回の行軍計画では不寝番はなかなか回ってこないんだけどね。
人数が多いと当番の割り当てが少なくて済むからゆっくり寝られて良いね。
2時間の割り当てなんだけど、数日置きにしか順番が回ってこないんだよ。
今は冬だから日没が早く日の出が遅い。
夕方5時過ぎには真っ暗になるし朝5時半ぐらいまでは真っ暗だからね。
夕方4時には野営準備を始めて真っ暗な時間には、みんなが起き出す。
不寝番が必要な時間は実質10時間ぐらいだろうか。2時間の割り当てだと5交代になるけど、50人の野営に10人の不寝番なら丁度良くても、100人に20人だと多すぎる。
1000人なら50人も起きていれば警戒は十分だろうし、3000人の野営ともなれば常時100人も起きていれば事足りる。
一晩に不寝番が回ってくるのは500人で、6日に1回しか当番は回ってこなくなるんだよ。
これが 規模優位性(スケールメリット) というものか。
しかも、しっかり子供扱いされたのか、ルナリアと私とピーシーズの順番は最後の時間帯で良いと言われていて、少し早起きすれば良いだけなんだよね。
さっさと毛布に包まって寝て、朝の4時ぐらいに起き出した私たちは、身繕いを済ませてテントの撤収作業を手伝う。
倒したテントの分厚い布地を折り目が付いている通りに畳む。
馬車の荷台にキッチリと収まるサイズに畳まれていたようで、畳み終わったテントを荷馬車へと運ぶと輜重部隊の兵士さんが受け取って積み込む。
1台の馬車に最大30個のテントが積めるそうで、3000人分のテントが4台の荷馬車に収まってしまうらしい。
目を覚まして撤収作業が終わるまで、僅か30分間ほど。
朝食のスープと朝昼2食分のパンの配給に並んで朝食を食べ終わるまで30分間ほど。
1時間で出発準備が整ってしまった。
その頃にはポドック領軍の騎馬部隊が続々と到着し始めている。
出発の準備を終えてヒマになったルナリアは、出発前だというのにピーシーズと一緒に日課の剣術の練習で体を動かしに行っている。
ルナリアやピーシーズに較べてスタミナに劣る私は、といえば、作戦前の体力の消耗を避けるべく、訓練への参加を見合わせた。
ノーアも剣を振る練習を教わっているみたいで、木剣代わりの小枝を手に、みんなについて行ってしまった。
そうして、刻々と変わりゆく野営地の様子を眺めているのが私の今の状況だ。
領軍と一緒に野営地へ来たポドックさんはお母様と2人で地図らしき紙を片手に打ち合わせていて、ポドック領軍の騎馬部隊は軽く挨拶を交わしただけで、集結の完了を待たず、二手に分かれて再び出発していく。
「・・・着いたばかりなのに、もう出発するんだ?」
「包囲作戦の道案内も兼ねてポドック隊が先行するんですよ。配置に就くまで我々は後ろを付いていくだけです」
「・・・ああ。なるほど」
誰に訊いたわけでもない私の疑問に答えてくれたのは、私の周りに護衛がいない状況を気にしてくれたノイエラさんだ。
ノイエラさんが教えてくれた情報を咀嚼する。
そりゃそうか。地元の道は地元民に任せるのが一番だ。
計画ルートが決まっているなら道案内はお手の物だろうし、あくまでウォーレス領軍はお手伝いなのだから、出しゃばるよりも花を持たせた方が揉め事にならなくて良いよね。
まだ盗賊を見つけられるかどうかも分からないし、出しゃばって責任を押し付けられても困る。
私がそんなことを考えている間にも、馬列はどんどん野営地を出て行く。
2列縦隊で二方向だから4騎ずつ出て行くわけだ。
これ、最終的に20メートルの間隔を空けて配置に就かないと包囲が完成しない計算なんだけど、包囲完成の時点で自分の配置場所を行き過ぎていたりすると、元来た方向へ戻るんだろうか?
「計算上、常足で行軍しても4時間かからずに包囲できますから、2騎編成で前後の間隔を20メテル空けた状態で行軍するんですよ」
「・・・えっ? あ、ああ、そういうことか」
思わぬ答えが返ってきて驚いた。
「どうしました?」
「・・・いや、何で考えてることが分かったのかと思って」
首を傾げるノイエラさんに、私の首も傾ぐ。
「口に出して言ってましたよ?」
「・・・えっ!? そ、そうだった!?」
カッと顔が熱くなるのを自覚する。
うわー! 私、森に居た頃の、独り言の癖が未だに抜けていないのか!
この間もテレサに独り言を聞かれたばかりで、気を付けようと思ってたのに!
ノイエラさんに、微笑ましげに見られるもんだから、余計に恥ずかしい!
気を付けないと、考えてることを垂れ流しなんて、迂闊に考え事も出来なくなっちゃうじゃん!
私が羞恥に悶えている間も、お母様はポドックさんと話し込んでいる。
「・・・お、お母様たち、遅いねえ」
「ああ、内通者を捕縛したらしいですよ。正確には、まだ容疑者だそうですけど、その話じゃないですかね」
苦し紛れに話題を変えたら、思ってもみない答えが返ってきた。
「・・・えっ!? そうなの!?」
「私もチラッと聞いただけですけど、昨日、作戦計画を嗅ぎ回っている兵士をレヴィアが見つけて通報して、ポドック卿が監視を付けたら、夜中に領都を抜け出そうとしたとか」
ん? サラッと初めて聞く情報が・・・。
「・・・レヴィアさんって、誰?」
「レヴィアと面識が有りましたよね?」
「・・・面識? 私と?」
記憶に無いな。
私のことじゃない話を誤解したのなら、これまた恥ずかしくて赤面するよ。
でも、私の話だったらしい。