作品タイトル不明
帰還 ⑪
お母様の後ろには、いつの間に戻って来たのかポドックさんも居て、呆気に取られた顔で大穴を見渡している。
これまた、いつの間にやら野営準備の作業をしていた騎士様たちも大穴の周りに集まっていて、首を伸ばして大穴の底を覗き込んでいる。
「お前は、何を遊んでるんだ」
「・・・あうっ」
指先で、おでこをツンと突っつかれて仰け反る。
「何だ? あれは」
「・・・え、ええっと。地面を凹ませて溢れた水を貯めようと思ったら、力加減を間違えたと言いますか・・・」
お母様が目を向けているのは、もちろん、馬鹿デッカい手の形をした大穴。
「そもそも、何だ? この水は」
「・・・地下水」
私の答えにお母様が首を傾げる。
「なぜ、地下水を?」
「・・・馬用の水桶が100頭に1個の樽じゃ満足に水を飲めなくて可哀想かなって・・・」
「そうか。それは、まあ良い」
お母様は穴の淵まで移動して下を覗き込む。
「ふむ。深いな」
「・・・そうだね」
10メートルって、3階建の屋根の高さだからね。
転落防止の柵でも付けた方が良いかな。
みんなと一緒になって覗き込んでみると、早くも底の大半が水没し始めている。
なんか、早すぎない?
この調子だと、数日も掛からずに満水になってしまうのでは無いだろうか。
「済まんな、ポドック卿。直ぐに埋め戻させよう」
「ああ、いや。待ってくれ。少し様子を見たい」
ポドックさんの反応が予想と違ったのか、お母様が首を傾げる。
「どうする気だ?」
「この付近の街道には水場が無いせいで商人も通りたがらなくてな。このまま水場に使えそうなら通行が増えて、上手く行けば周辺を開拓できるかも知れん」
「しかし、これほどの大穴を放置しては危険では無いか? 崩落する可能性も有るぞ」
お母様の指摘に、ポドックさんが首を捻る。
「崩落しないように固めることは出来んか?」
「どうする?」
「・・・出来ると思うけど」
お母様に確認を求められたので正直な所感を伝える。
「では、やってくれ」
「・・・はい」
あっさりとゴーサインが出ちゃったな。
一応、ポドックさんには魔石を見せないように気を付けながら、先ほどよりも魔力の手を大きく広げる。
手形を重ねるようにして、淵の崖部分の土に魔力を送り込んで命じる。
「・・・固まって」
イメージは、自然に優しい天然のコンクリート、“ 三和土(たたき) ”。
要は漆喰なんだけど、本来なら 真砂土(まさつち) なんかの風化土に石灰と水を混ぜ込んで、水酸化カルシウムだったか何かと水の化学反応で硬化させるもの。
石灰は石灰岩を砕くだけじゃなく、貝殻なんかのカルシウム成分を焼いて作ることが出来る。
石灰岩も、大昔に海底なんかに沈殿した生物の死骸から出たカルシウム成分から出来るんだっけ。
ただし、今回は魔法のファンタジーパワーでゴリ押しするよ。
薄っぺらいと横方向から掛かる土圧で押し倒される恐れが有るので、淵から5メートル程度の厚みを持たせて堤防のようにカチカチに固めておこう。
ギュッと押し固めると堤防の体積が縮んで50センチメートルほどグググと高さが低くなる。
大穴の底は押し潰した圧力で十分に固まっているだろうからノータッチ。
今さら誤差かも知れないけど、これ以上、大穴が深くなることは避けておきたいし。
固めた岸壁には草も生えないだろうけど、底に泥や小石が貯まるようになれば、水草ぐらいは生えるのかも知れない。
「「「「「おお・・・」」」」」
大穴を覗き込んでいた騎士様たちの足元の地面がピキパキと乾いた音を立てて固まったので、上に乗っかっていた騎士様たちがドンドンと堤防を踏んで固さを確かめている。お母様も足元の地面を踏み鳴らしてみて頷いた。
「これなら崩れることは、そうそう有るまい」
「おお。そうか、では水が貯まるのを楽しみにしておこう」
ホクホク顔って、こういうのを言うんだろうね。
何か、めっちゃ喜んでるよ。
領主であるポドックさんが、これだけ嬉しそうに笑っているのなら、大穴に貯まった水の中にも草が生えるのかもしれないwww
水場が一つ有るだけで、人や物流の動線がそんなに変わるものなのか。
新領地を開拓するときの参考にしよっと。
途中から悪ノリしたとは思うけど、叱られるってほど叱られなかったからオッケーだよね。
結果良ければ全てヨシ!
失敗は成功の母って言うし、きっと、ポドックさんが上手く活かして成功に変えてくれることだろう。
ポドックさんは輜重部隊が土魔法で作った窯や竈も、そのまま残してくれって頼んでいたから、本気で野営場所として整備するつもりなんじゃないかな。
長持ちするように、後で窯や竈も補強しておいてあげよう。
大穴を引き取ってくれたし、サービス、サービス。
大穴を引き当てられるように頑張って欲しいから、上手く行くように祈っておくとするか。
酷い結果になられると私が叱られるし、上手く行ってくれないと困る。
こっちの世界の宗教観でなら、神頼みではなく精霊頼みかな?
精霊様。お願いしますね~。
うーん? また胸の中が、わさわさしたな。
何だろ、これ。
ご飯よー! って、ルナリアが手を振ってるし、まあ、良っか。
配給制の晩ご飯を食べて、みんな、あちこちで焚き火を囲んで談笑している。
明日はイレギュラーの盗賊討伐作戦に巻き込まれることにはなったけど、戦争と違って圧倒的優位で危険は少ないからね。
悲壮感というか戦争中のような緊迫感は無い。
ちょっとした人助けで、悪人をやっつける寄り道程度だもんね。