作品タイトル不明
帰還 ⑩
ゴミが混じらないように、フィルター的なものが欲しいよね。
濾過装置的なものかな?
雨水を散水用に濾過する貯水タンクを作る動画を視たことが有ったな。
上層から、目の大きな小石、目の小さな砂利、砂、って、ゴミを取り除くために、徐々に目の細かなものにフィルターの層を変えるんだっけ。
でも、地下水なら、すでに濾過されてるのだろうし、小石だけで良いのか?
脳裏に、玉砂利かな? 角が取れた丸っこい小石のイメージが思い浮かぶ。
じゃあ、地下の水まで伸ばした魔力の手の内側に有る土や石だけをギュッと固めて―――、小石になれ!
魔力の手の内側に、数万、数億、数十億もの小さな魔力の手が生まれて、手の中の土をギュッと握り固めるイメージをしてみた。
「・・・・・・んん?」
ざわざわと胸騒ぎのようなものがして足元の地面を見つめていると、地下の深いところから水が近付いてくるのが分かる。
なぜか直感的に、そう思う。
「・・・むっ。ちょっとヤバいかも」
いくら温暖な気候とはいえ、冬の最中に屋外でズブ濡れなんて勘弁して欲しい。
トコトコと胸騒ぎを感じなくなる場所まで退避する。
後ろを振り返ってみると、地面を覆っている雑草の合間から、私の目の高さぐらいまでドバドバと柱状の水が湧き上がっている。
湧き上がってる水は綺麗そうだけど、重力に従って落下した後の水は、そうも行かない。
地表に広がった水が侵略してくる様子を目の当たりにして、焦りと一緒に勿体ない精神がむくむくと私の胸に広がる。
「・・・け、結構な水量? ど、どうしよう」
草を食んでいた馬たちも、突然の水の接近から距離を取って退避している。
そうだ。水は高きから低きへと流れる。
だったら、地面を低くすれば、そっちへ流れるじゃん。
「・・・あっ。樽」
地面を低く凹ませる前に、魔力の手を伸ばして樽を集めてサッと回収した。
邪魔にならないように私の後ろへ並べておく。
地下水の噴き出し口を潰してしまわないよう、避けるように気を付けつつ、馬が居ない範囲で地面を意識して、大きく広げた魔力の手でグッと上から押さえ付けた。
ズンッと地響きを立てて、地震かと錯覚するような振動と共に草野球場ぐらいの範囲で地面が陥没する。
背後にある山々の木々からギャアギャアと迷惑そうな鳴き声を上げて、数十羽の鳥が飛び立った。
「・・・へっ?」
何だコレ?
想定以上に凹んじゃったぞ。
自分でもビックリした。
「・・・むむっ。やり過ぎたかな・・・」
慌てて大穴の淵へと行ってみる。
溢れ出した水は浸食してこなくなったけど、魔力の手の形に深さ10メートルぐらいの大穴が空いてしまった。
気の・・・せい?
いやいやいや。目を擦っても足元の大穴が消えて無くなることは無いのだから、現実逃避は止めよう。
垂直の崖となった壁面からパラパラと剥落した土が落ちていく音も、空耳では無いはずだ。
この高さの断崖になっても崩れないのだから、かなり固い地面だと思うんだけど。
「・・・何か、力加減の感覚が狂ってる?」
顔を振り向けて私の後ろにお行儀良く並んでいる樽を見る。
うーん・・・?
力加減が分からなくなっているのなら、こんな樽なんて握り潰していそうなものだしなあ。
魔力の手は普段から、結構、使っているし、力加減を間違えることって無いんだけど、今日に限ってパワーが上がっているような気がする。
ぺたぺたと自分の体を触ってみる。
調子が悪そうには思わないな。
体の中の魔力がざわめくというか、そんな感じは有るけど、結果を見る限り、むしろ、調子は良いのだろう。
思ったよりも地盤が緩かったとか、そんなのだろうか?
それとも、地下に空洞が有ったとか?
いやいや、無いな。
今は、それどころじゃ無いし。
噴き出し口から流れ出た地下水は、大地に刻まれた馬鹿デッカい手形の中へザバザバと流れ込んで小さな滝を作りつつ有る。
「・・・地面が削り取られて崩れ落ちそうだよね」
崩落事故は、よろしくない。
ヒヤリハットの防止は現場の鉄則。
ただでさえ叱られそうな気配が有るのに、このまま放置するのは、もっとよろしくない。
少しでも見栄えよく整えて、叱られ被害を最小化しておかなくては。
噴き出し口から大穴までの間の地面をギュッと固めてみた。
板状の表面に水が広がって、また草地へ溢れ出る。
ギュッと固めたときに根っこが押し潰されたのか、生えていた雑草が水に押し流されて、プレート状の地表が綺麗に洗い流される。
これは良くないな。
水飛沫が飛んでこない距離から魔力の手を伸ばす。
粘土で工作するようにツルペタな土間みたいになった板状の地面の真ん中を凹ませて、幅50センチメートルほどの溝を作ったみた。
ついでに、噴き出し口を保護するために周りの土を盛り上げて、公園の手洗い場みたいにしてみる。
「・・・うーん」
銅像の土台のように土を固めた四角柱の横っ面に噴き出し口の穴が開いていて、横向きに水が噴き出している。
バッシャバッシャと派手に飛沫を飛び散らせていては、近付くだけでずぶ濡れになりそうだ。
これ、下へ向けた方が良いよね。
蛇口なんて中身の構造を知らないから馬の顔でも付けとくか。
馬で大穴なら、縁起は良いのだろう。
土台へ伸ばした魔力の手でコネコネと形を変えて馬の頭部を作ってみた。
下を向いた馬のようなものの口がドバドバと大量の水を吐き出し続けている。
「・・・イマイチ?」
シカの方が良かったかな。
私に美術的な才能がないことは自覚が有ったけど、外国人が馬だったか犬だったかの絵を描いたら、こんな感じの前衛的なナニカになる画像は見た記憶がある。
自分もそうだったとは思っていなかったけど、そうなってしまったものは仕方がない。
ま。ま。そんなことよりも、下を向いたナニカが吐き出している水の勢いは強くて、やっぱり激しい飛沫を飛び散らせているから、落下地点を凹ませて滝壺のようにしてみれば、随分と飛沫が収まった。
ヨシヨシ。大自然が作り出す造形は理に適っているということだ。
高さ2メートル、1辺1メートルの四角柱の中ほどに突き出した謎生物の口からドバドバと湧き出した綺麗な水は、滝壺から溢れ出し、溝を流れて大穴の底へとダイブしていく。
ふう・・・、私はやり遂げた。
気持ちの良い達成感を胸に、額の冷や汗を袖口で拭う。
「・・・おおっと?」
後ろから何かにグッと背中を押されたので、顔を振り向けたら、目の前に馬の鼻先が有った。
ブフッと鼻息で催促された?
「・・・ああ、ゴメン、ゴメン。水を飲みたかったのか」
横に退いてあげると、数頭の馬が、溝を流れる地下水に鼻先を突っ込んで、がぶがぶと水を飲み始めた。
夢中になって忘れてたよ。
あなたたちの飲み水を樽に入れてあげなきゃいけなかったのに。
水を飲んでいる馬の首を撫でて後ろを振り返ったら、あ。ヤベッ。
順番待ちの馬と一緒に、腕組みしたお母様が呆れた顔で私を見下ろしていた。