軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還 ⑨

後は、情報伝達ツールと移動手段か。

無い物ねだりは不毛だけど、通信器と自動車がどうしても欲しい。

どちらか一つだけでも良いから欲しいなあ。

その鍵となる可能性が有るのが、あの魔法道具の解析と複製だ。

「・・・頑張らなきゃなあ」

「どうしたの?」

「・・・ううん。何でもないよ」

決意を新たにする独り言にルナリアが反応したから、誤魔化しておく。

これは、私が望んで、私がやらなきゃいけないことだ。

「ルナリア! フィオレ! 行くぞー!」

「「はーい!」」

お母様に呼ばれて私たちは馬へと急ぐ。

万一、戦闘が発生したときのために、ノーアは私の馬に同乗する。

今の私は実戦に参加したとしても、後ろから魔法を撃つことしか出来ないからね。

私が鞍へよじ登ると、ノイエラさんがノーアを鞍へと乗せてくれた。

「・・・ありがと。ノイエラさん」

「にゃ」

「いいえ」

ノーアと二人でお礼を言うと、にっこり笑い返したノイエラさんは、自分の愛馬へと急いで行った。

出発の号令に従って、それぞれの部隊が野営地点を目指して行軍を開始する。

ハロルド様はクロムハウト伯爵領へ、エゼリアさんたちはドーン男爵領へ、お母様を先頭にした私たちの部隊はポドック子爵領内の作戦の起点となる野営地へと向かう。

ロス家の3人は寸胴鍋さんがハロルド様の部隊に、ザルさんがエゼリアさんたちの部隊に、ピピオさんがお母様の部隊に随伴することになったらしい。

寸胴鍋さんとトリアさんが別れ際に軽く手を挙げ合っていたけど、友だちなんだろうか。

トリアさんの方がいくつか年上だと思うけど、歳はそんなに離れてはいないよね。

南へ向かう街道から脇道に逸れて2時間ほど進むと、小さな山々が見えてきた。

標高はそんなに高くはなく、200~300メートルぐらいかな?

そんな山が平原の真っただ中に、孤島のように三つ四つ連なっている。

おお・・・、山だ。

これだよ、これ。こういうので良いんだよ。

私が最初に求めていた環境は、こんなところに有ったのか。

今さら、山で暮らしたいとは思わないけどね。

里山のように中木と高木が混在する木々に覆われた山は、麓まで森林が進出していて、トンビっぽい鳥が上空に滞空している。

良い感じの山だなあ。

山菜は採れそうだけど、獣の狩りをするには規模が小さいか。

わくわくする感じと懐かしさに感動していたら、作戦の起点となる野営地は、この山の麓だったらしい。

街道から外れて原野へ踏み出した馬列が平たい地形の辺りで行軍を止めた。

ポドック領の騎馬部隊2000騎は作戦開始時間までに合流するとのことで、野営地と使うのはウォーレス領軍だけだね。

到着した途端に輜重部隊が店を広げ始めて、戦闘部隊の騎士様たちも荷馬車からテントを降ろすのを手伝い始める。

30人ぐらい寝られるテントをみんなで張るんだよ。

輜重部隊の兵士さんからテントを受け取った騎士様たちが、4人掛かりで四隅を持ってどんどん運んでいく。

荷台が空になった馬車が移動していくから、どこへ行くのかと思ったら、ウォーレス領へ帰る道程が延びる分の食料を受け取りに行くのだそうだ。

荷馬車の荷台にピピオさんの姿が見えたから、ポドック領の内通者の調査かな?

冬場の夜間は冷える、とはいえ、王国はそこまで寒くなる気候じゃないから、雨風を防げて布を敷いて毛布に包まれば、ぜんぜん眠れるからね。

みんなでやればさっさと終わってゆっくり出来るので、私たちも毛布を運んだりとお手伝いする。

「フィオレ様! こちらを手伝っていただいてよろしいですか!」

「・・・はーい!」

見覚えの有る輜重部隊の兵士さんに呼ばれて返事をする。

不用心と言えば不用心なんだけど、ピーシーズは直ぐ傍で野営準備をしてくれているからね。

空に明るさが残っている内にテントだけは立てておかないと、暗くなると手元や地面に打ち込んだ杭が見えなくなって作業時間が延びるんだよ。

暗くなっても「光」の魔法で作業は出来るけど、まだ旅程を半分もこなしていないのだから、無駄な魔力の浪費は避けておくに越したことはない。

トコトコと私を呼んでいた兵士さんのところへ行く。

ほんの20メートルほど離れた場所へと行ってみれば、10メートル置きぐらいに口の開いた樽が置かれている。

大人が抱えられるぐらいの大きな樽は全部で30個ぐらい有るね。

「・・・これは?」

「馬用の水桶です」

行軍中は水魔法を使える人が空中に水球を出して、馬が水球に鼻先を突っ込んでがぶがぶ飲むんだけど、放牧中の水飲み場として樽に馬の飲み水を貯めて置いてあげるのかな?

「・・・水を入れれば良い?」

「お願いします」

「・・・分かった」

私に樽を任せた兵士さんは馬の世話に行ってしまった。

歩き方や様子のおかしい馬が居たら、ケガをしている可能性が有るからチェックするんだよ。

向こうは向こう、こっちはこっち。

それぞれの作業に取り掛からないとね。

よぉし、やるか。

野営中では有るけど作戦行動中では有るから、体内魔力の消費を抑えるために魔石を使う。

空中の水蒸気を凝結させるイメージを頭に浮かべかけて、ふと思い付いた。

ぽつぽつと適当に置かれている樽を見渡す。

これ、3000頭に対して樽が30個って少ないよね。

樽1個あたりに馬100頭だよ?

王都周辺は盆地で地下水が豊富だと言っていたけど、この辺りはどうなんだろう。

足元の地面を見下ろして、地下水への干渉の仕方を考える。

いや、それ以前に、帯水層か地下水脈が無いと、地下水を使う前提条件が整わないか。

取りあえず魔力の手を突っ込んでみよう。

実体が無い魔力の手は抵抗なく地中に潜るけど、視認できないせいか、どこまで深く潜っているかの把握が難しい。

土魔法のときにノイエラさんは、どう言ってたっけ?

地面に魔力を浸透させてから、魔法を発動するって言ってなかったっけ。

地面に落ちた水が染み込むイメージで足元に魔力を広げてみる。

むむ・・・? 思ったよりも上手く広がらないな。

パパッと広がるものって言ったら何だろう?

脳裏に浮かぶのは、見慣れた感が有る“蒼焔”での光景。

衝撃波や爆風は、「パパッと広がる」というよりも、シュバ―――ッ!と広がる感じだよね。

素早く広がるのは良いけど、激しすぎて地下水脈を探る感じでは無い気がする。

もっと穏当な―――、そう、水面に落ちた水滴が波紋を広げるような感じで・・・。

私の脳裏に、どこかで映像をみたように、穏やかな水面に丸く同心円状の波紋が広がるイメージが完成した。

その瞬間、胸の中の魔力がざわめいた気がして、私を中心に魔力の同心円が広がって、横方向にも縦方向にも、一気に知覚できる範囲が広がった。

直感的に、思う。

「・・・有るね」

足元の下。

地中深くに水の気配を感じる。

「・・・結構、深いけど、掴める?」

すでに魔力が浸透しているから、魔力の手は普通に発現する。

知覚できるのなら、掴むことは出来る。

「・・・引き抜いてみる・・・? いやいや、飲み水なんだから、汚れちゃダメじゃん」

だとしたら、水を掴んでドバッと引き抜くんじゃなくて、周りの地質よりも通り抜けやすい水の通り道を作れば良いのか。

水が通り抜けやすいと言えば・・・、水道管?

ちょっと違う気がする。