作品タイトル不明
帰還 ⑧
決断が早くて行動が早いところは“保守派”の将なんだなあ。
ちょっとだけ見直したよ。
私もそこは見習わなきゃ。
「何処を起点とするか決めておけよ!」
「承知した!」
大声で背中に注文を付けたお母様に、振り返ったポドックさんが片手を挙げて大声で答えた。
輜重部隊から食料の必要量を聞き出した随伴の男性と二人して、馬に跨がって大急ぎで帰っていく。
「旅程としては、せいぜい2日延びるだけで済みそうだ」
「ああ。さっさと終わらせて帰ろう」
ホッと息を吐いたハロルド様の背中を、励ますようにお母様が軽く叩いた。
ハロルド様も、やっぱりお疲れ気味なんだなあ。
早く終わらせて休ませてあげたい。
私たちはウォーレス領軍1万騎を3部隊に分ける。
クロムハウト領軍と合流する3000騎とドーン領軍と合流する4000騎とポドック領軍と合流する3000騎の三つだ。
それぞれの部隊長は、総大将のハロルド様、副将のお母様、同じく副将扱いのエゼリアさんの3人。
この指揮系統は、西部国境地域へ遠征したときの、そのままだね。
ハロルド様にはウォーレス領軍の副官が付いているので、手元の8000騎から5000騎をピーシス隊に貸し出して3000騎を手元に残す形になる。
ピーシス隊2000騎は丸ままエゼリアさんの指揮下に入って、ウォーレス領軍から2000騎が追加でエゼリアさんの指揮下に入って合計4000騎。
お母様の指揮下に入るのはウォーレス領軍からの3000騎だけど、お母様はウォーレス領軍で勝利の女神みたいに崇拝されているから、元々、お母様の部下みたいなものなんだよね。
爵位の関係で各方面の領主の勝手を許さない意味で、クロムハウト伯爵領軍の支援に向かうのは前・侯爵のハロルド様。
ドーン男爵領軍の支援に向かうのは男爵令嬢であるエゼリアさん。
ポドック子爵領軍を支援するのは前・子爵のお母様。
爵位だけで言えば、現・公爵のルナリアが最上位になるけど、現・伯爵の私と同じく、実戦経験がほぼ無い子供の私たちが部隊指揮官に祭り上げらたところで、無駄に損害を増やすだけからね。
今回の私たちは、参加して学ぶことだけに意味があるのだ。
エゼリアさんの副官には、輜重部隊の兵站から奪ってきたらしい領軍支給品の剣を腰に提げているアンリカさんと、ディーナさんと、イディアさんと、マキアナさんと、エレーナさんが入る。
お母様の副官にはトリアさんと、ノイエラさんが付いて、ピーシーズの5人はルナリアと私の傍に付くけど、トリアさんとノイエラさんの傍に付いて側近の役割を学ぶ場ことになった。
ルナリアと私は指揮官たるものの役割を学ぶために、お母様の傍に居るからね。
剣術の訓練もロクに受けていない私が前へ出ることは無い予定。
今の私では、後ろから魔法で支援する方が、よほど役に立てる。
だって私、まだ帯剣も許されていなくて、山刀代わりの大型ナイフしか持ってないし。
領主と側近は大将と副将扱いで包囲戦力を数える際のカウント外だから、戦闘の邪魔をしなければ、どこに居ても構わない。
かと言って、ウォーレス血統は後ろでモジモジしていられるような人が一人も居ないから、大将だろうが副将だろうが、一番前まで出て行っちゃうんだけどね。
ルナリアは前へ出る気マンマンだろうから、ピーシーズはルナリアに貼り付けて置いた方が良い。
付いていく部下として見れば、自ら前へ出て指示をくれる将ほど頼りになるものは居ないのだろう。
ハインズ様もお母様もそうだし、日本でも戦国時代の武将がそうだった。
だからこそ、どんなときでもウォーレス領軍の騎士様たちは勇猛果敢で在り続けられる。
部隊編成を分けたり武器の手入れをしたりお茶を飲んだり益体も無いことを考えたりしつつ待機していたら、2時間ほどでポドック子爵からの伝令が3騎で戻って来た。
クロムハウト伯爵ともドーン男爵とも話が付いて、伝令役を仰せつかった騎士様たちは起点を記した地図を携えていた。
この伝令の騎士様たちは野営地までの案内役も兼ねているらしい。
ウォーレス領軍のそれぞれの部隊は起点となる場所で野営地を構えて一夜を明かすため、輜重部隊も3グループに分かれて随伴する。
領軍が出発に備えてバタバタとし始め、ハロルド様とお母様とエゼリアさんとアンリカさんが、届けられた地図を片手に作戦の最終確認をしているところへ、寸胴鍋さんたちロス家の3人が現れた。
「ハロルド様」
「む。どうした?」
声を掛けられるまで接近に気付かなかったらしいハロルド様が振り返る。
「我々は、各々、各部隊に随伴して、内通者の調査を行いたいと考えます」
「ふむ・・・。賊の内通者か」
他領の騎士様たちの手前、小さく抑えた声に、ハロルド様が思案顔になる。
「そう言えば、ポドックが“防衛態勢を掴まれている”と言っていたな」
おや? 慎重な感じ?
探れるなら探って貰った方が良いと思うけど、他領の領内だから気を使ってるのかな。
「我々の専門分野ですが」
「任せて良いんじゃないか?」
許可が出ないことに寸胴鍋さんたちが首を傾げたのを見かねたのか、お母様がハロルド様の背中を押す。
それで踏ん切りが付いたのか、ハロルド様が頷いた。
「そうだな。任せる」
「承知いたしました」
ハインズ様とお母様に一礼して踵を返した寸胴鍋さんたちが、去り際に手を振ってきたので、ルナリアと二人で手を振り返しておく。
そっか。そうだったよね。内通者の可能性は、すっかり忘れてたよ。
各領内の領軍に内通者が潜り込んでいる可能性が有るし、もしかすると、盗賊の方が手駒で、領軍に潜り込んでいる方が親玉なんて可能性も、有り得なくは無いんだよね。
諜報部隊か・・・。
有ると無いとでは情報量が違うだろうし、カレリーヌ様やミリア叔母様のような情報収集だけでなく、寸胴鍋さんたちが担っているような防諜任務も必要だよね。
思い返せば、ムーア領に攻め込んだときに熊男を把握していたのも、ワールターさんだったか。
凄いな、ロス家。
ウォーレス家の中でピーシス家と双璧をなす家系だというのも頷ける。
カレリーヌ様みたいに国外の情報まで集める必要は無いけど、王妃様やカレリーヌ様がレティアの町へ療養に来ることを想定するなら、領内の防諜や暗殺防止には、もっと力を入れておきたい。
ロス家に依存するほか無いと思うんだけど、ロス家には王都でのお仕事も有るしなあ。
よくよく考えてみると、担当範囲がめちゃめちゃ広いんだよね。
頭の中に、王国全土の地図を思い浮かべてみる。
現状、カレリーヌ様の情報網が王都から西側をカバーしていて、ミリア叔母様の情報網が東部地域から王都までをカバーしていて、ロス家の情報網が東南部から王都までをカバー出来ている?
今回、西部国境地域は王家直轄領になったから、カレリーヌ様の影響力が強くなるんじゃないだろうか。
バルトロイさんちが東北部に有るから、北部に有るカレリーヌ様と騎士団長閣下のご実家があるリヒテルダート公爵領との間は、今後、エゼリアさんとアンリカさんがカバーするはずだ。
宰相さんの領地って、確か、王都の北側の、リヒテルダート公爵領との間に有るんだよね。
宰相さんの情報網が王都の西部から北西部に多い“融和派”領地をカバーしていると考えれば、カバー出来ていないのは南西部の国境地域?
あれ? 現状でも、意外と、かなりの範囲をカバー出来てるな。
希望的願望と私の願望が多分に入って居るとは思うけど、そこまで捨てたものじゃ無いのかも。
南西部の国境地域は小国連合諸国にベッタリと面していて、二つ三つの小国を挟んだ向こう側に有ったのが旧エクラーダ王国、だったっけ・・・。
もしかして、エクラーダ流出民を取り込めば、南西部から小国連合諸国内の情報をカバー出来る?
その辺りは、本当に流出民が来てくれれば良いけど、判断は保留だな。
王国南西部の国境地域って、エクラーダ王国の滅亡で、勇王国から一番近い地域になっちゃったんだよね。
いわば、最重要警戒地域で、南西部へと攻め込んでくる可能性が一番高い場所だと思う。
そこの情報をカバー出来ていないのは非常に拙い。
ウォーレス家が影響力を及ぼせるのは、ナーガ川に沿ったカリーク公王国との国境線に面する地域だったはずだから、直接の情報網を南西部へと拡げるには、ちょっと遠いよね。
協力者を探した方が早いかあ・・・。
でも、ウォーレス家としては、ロス家の能力を強化する方が、一から新たなシステムを立ち上げたり外部の伝手を作るよりも圧倒的に早いんだよね。
ロス家の強化と言えば、ヘイナーさんが要望したように、あの魔法道具の量産品をロス家に配備するのが、一番、理に適ってる。