軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還 ⑦

これで大体の状況把握は終わったのかな?

作戦範囲は三つの領に跨がった半径20キロメートルで、盗賊の想定規模は最大30人。

馬賊のような機動力を手にしている可能性が有ると。

ウォーレス家が東奔西走で国内の大掃除に駆け回ってたときに、たかが30人の盗賊に手を焼いていたとか何やってんの、と、思わなくは無いけど、ハロルド様もお母様も驚く様子が無いのだから、この惨状が一般的な王国内の現状を表しているのだろう。

「それで騎馬部隊を持つ私たちに協力しろと」

「頼めぬか。王都騎士団の他でウォーレス領軍ほどの騎馬戦力を持つ領地は無いのだ」

思案顔のハロルド様がお母様へと目線を向ける。

「兵を貸すのは構わんが、兵站が心配だな?」

「我ら3領で用意しよう」

ポドックさんの条件にお母様も頷いた。

「良いんじゃないか? 兵站の必要量は輜重から聞け」

「承知した。―――、おい」

「はっ」

ポドックさんの指示を受けた随伴の男性が軍議机から離れて駆けていく。

「しかし、どう攻める?」

「居所のアテが無ければ、1万5000程度で包囲できるものでは無いぞ」

ん? そう・・・だろうか?

ポドックさんとハロルド様が難しい顔で唸っているけど、違和感を覚えてしまった。

そして、私が首を傾げたのをお母様は見逃さなかった。

「フィオレ」

「・・・えっ? あ。はい」

「案が有ったら言ってみろ」

お母様から話を振られたけど、良いんだろうか?

「・・・ええっと・・・」

「構わん。案が有ったら教えてくれ」

ハロルド様にまで促されては、黙っているわけには行かないか。

協力することで“中立派”寄りの“保守派”を、こちら側へ引き寄せておく意味も有ると考えよう。

「・・・案、というほどのものでも無いのですが、普通に完全包囲でも良いのではないでしょうか」

「ふむ・・・?」

予想外だったのか、腕組みで首を傾げたハロルド様が目線で先を促してきた。

「・・・直径40キロメテルの範囲が円形だと仮定すれば、円周は、えーっと・・・125キロメテル以上ですね」

「それは、かなりの広範囲だぞ?」

確かにそうだよ。

東京駅から富士山までの距離が、そのぐらいだったはず。

「・・・はい。ただ、これは戦争ではなく、盗賊討伐ですよね?」

「そうだな」

意味が伝わらなかったのか、ハロルド様は首を傾げたままだ。

「・・・想定される盗賊の規模が30人としても、30対1万5000です。言い換えれば、1人対500人になりますよね」

「うむ」

具体的な戦力比較で、大したこと無いよ、と、気付いて貰う。

「・・・125キロメテルは、メテル換算で12万5000メテルだから、1万5千人で包囲するとなると、え~っと・・・、ざっくり8メテルに1人の円陣を組むことになります。余裕を見て10メテルに1人と仮定しましょう」

「10メテルに1人か・・・」

ポドックさんが唸る。

10メートルなんて、静かな大自然の中では声を張り上げなくても会話できる距離だよ。

「・・・安全を考えて、2人1組で包囲するにしても、隣の組との距離は20メテルです。相互に目視できる距離なのだから、イケそうだと思いませんか?」

「フィオレ嬢。しかし、包囲する距離が周囲125キロメテルともなると、包囲を完成させるだけでも大変ではないかな?」

頭ごなしに否定するのかと思ったら、そうでも無いんだね。

でも、ポドックさんの計算は間違ってるよ。

それって、軍隊は集団行動するものだという思い込みじゃないかな。

「・・・ウォーレス領軍は輜重部隊付きでも500キロメテルの距離を7日間で移動します。125キロメテルは500キロメテルの4分の1の距離でしか有りません。2日弱ですよ」

「ううむ・・・」

まだ続きが有るから最後まで聞いてね?

「実際には、一番遠い場所でも円を半周した反対側なのですから、125キロメテルの半分で62.5キロメテルです。部隊を二つに分けて包囲に掛かれば、計算上では、1日で包囲できなくも有りませんよね?」

「1日・・・。そうか、1日で包囲できるな」

分かってくれたかな?

普通の馬でも1日60キロメートルぐらいは走る。

ウォーレス領産の軍馬なら80キロメートル以上だ。

決して無理な距離ではないんだよ。

「・・・確実性を取るなら、薄く広くで完全包囲して、円陣の中心に向かって包囲を狭めて行けば、理屈上は見つけられるんじゃないかと」

「分散して逃げた場合はどうする?」

そう聞いてくるってことは、前向きに考え始めたかな?

「・・・包囲網に掛かってさえくれさえすれば、そこに戦力を集中すれば良いだけで、ばらばらに逃げたとしても、1人対500人です。怪しい人を全員捕縛して、確実に盗賊だろう人に訊けば、誰がお友だちかを話してくれるんじゃないでしょうか」

「“大人の時間”、だな?」

「・・・そうだね」

お母様と顔を見合わせて笑い合う。

「その、大人の時間とは何かな?」

「体に訊くのさ」

「ああ。拷問か」

さすが領主さん。そういったところは理解が早い。

「悪く無さそうだな」

「包囲に1日。包囲網の半径が20キロメテル程度だ。2日で確実に終わるだろう」

お母様に目を向けられたハロルド様も頷く。

ポドックさんも納得は行ったみたい。

「包囲の起点は、どこにする?」

「・・・まだ決まっていないのであれば、起点を3ヶ所に分けませんか?」

そこ! それなんだよ!

ポドックさんの問いに乗っかって、もう一押しする。

「3ヶ所というのは?」

「・・・領地が三つなのですよね? 今日の内にウォーレス領軍を三つに分けて、それぞれの領軍と合流しておけば、円周125キロメテルの内、1領あたりで担当するのは40キロメテルと少しですよ」

「おお。なるほど」

理解の表情を浮かべたポドックさんが、ポンと手を打つ。

「それぞれの起点から部隊を二つに分けて円周の両方向に向けて進軍すれば、20キロメテルほどで隣の起点から出発した部隊と邂逅することになります」

「うむうむ。確かにそうだ」

頭の中を整理するように、ポドックさんが地図の上に置いた指先で騎馬部隊の動きを、なぞっている。

「・・・包囲に20キロメテルと狭める方向への20キロメテルで、移動距離は、合計40キロメテル程度でしか有りませんよね?」

「本当に明日1日で終われそうだな」

お母様がニヤリと笑い、ハロルド様も頷く。

「それで行こう。どうだ、ポドック卿?」

「クロムハウト領とドーン領への先触れは、こちらで出そう。後ほど、先導役の兵を寄越す」

言うが早いか、地図を畳んで片付けたポドックさんは、急ぐ様子で背中を向けた。