軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還 ⑥

味方であるはずの“保守派”貴族にも意図を隠すのは、やり過ぎな気がするけど、何か理由が有るんだろうね。

「今までと大して変わらんと思え。ただし、私は特務の任を返上したから、今までのような強権は持っていないぞ。以前ほどの無理押しが出来なくなったことは頭に置いておけ」

「そうか。残念だが承知した。それで、新たな特務魔法術師は任命されたのか?」

頷いて返したポドックさんに、お母様が答える。

「バルトロイだ」

「バルトロイ・・・、クローゼリス卿か? あの方の人柄ならば安心だな」

「だが、拝命したばかりだから、いま暫くは自由に動けんだろう」

安堵を表に出したポドックさんに、お母様は首を振った。

指摘を受けたポドックさんは顎先を撫でて残念そうに唸る。

「支援態勢が整わねば動けんか・・・」

「なに。盗賊程度、特務殿に頼るほどでも有るまいよ」

懸念を払拭するように、ふっと笑ったハロルド様の傍へエゼリアさんが近付く。

「ハロルド様、あちらをお使いください」

「うむ。―――、ポドック卿、軍議机でやろう」

手のひらで示された方向へ目を遣ったハロルド様がエゼリアさんに頷いて返して、ポドックさんを誘う。

「助かる」

エゼリアさんの指示で用意された畳1枚分はある野戦用の机に、みんなで移動する。

身長が低いルナリアと私のために木箱も二つ用意されている。

「改めて、これを見てくれ」

「これは、ポドック子爵領とクロムハウト伯爵領とドーン男爵領の領境か?」

机の上にポドックさんが広げて見せたのは、さっき懐から取り出していた畳まれた紙だ。

A2サイズほどの大きな植物紙に、三つ叉になった、ぐにゃぐとにゃ曲がった線と、何かを示すバツ印が描き込まれている。

ポドックさんは“保守派”だけど、確か、ドーン領って往路で通った“中立派”領地じゃなかったかな。

クロムハウト領は通った記憶が無いけど“中立派”っぽい?

もしかすると、ポドックさんは“保守派”でも、“中立派”と距離が近い立ち位置だから、お母様たちは王様との遣り取りを隠したのかも。

そうすると、“保守派”でも一枚岩では無いんだな。

そんなことを考えながら、私はポドックさんの顔をジッと見つめているけど、私の視線に気付いていないポドックさんは手書きの地図をお母様たちに示している。

「うむ。我らの領地は、それぞれに領境を接している」

「この印は?」

ハロルド様の確認に、ポドックさんは幾分か低くなった声で答える。

「被害に遭った農村と、死体の発見などで判明している街道通行者の被害現場だ」

「20件ほどか。全体で見ると、そこそこ多いな」

目を細めてお母様が地図を睨み付けている。

「領地ごとに見れば10件に満たん。発覚を遅らせるためか口封じに被害者を殺している様子でな。状況の把握が遅れたのは、これが原因だ」

「一つの領地で半年に20件なら10日に1件の発生頻度だが、三つの領地で見れば1ヶ月に1件程度だな。把握が遅れたのも無理は有るまい」

忌々しそうに歯噛みするポドックさんをハロルド様が宥める。

「一つの領軍に追われれば隣領に逃げ込む算段だろう。他領へ軍を入れれば問題になる」

「協力するわけには行かんのか?」

お母様の指摘に、ハロルド様がポドックさんへ問いを投げ掛ける。

「無論、そのつもりでは有る。クロムハウト卿もドーン卿も、そう言ってきた」

「ふむ? だとしたら、数の問題か」

ハロルド様が首を捻り、ポドックさんが深く頷いた。

「そうだ。我が領は小さいからな。総兵力を投入しても2万ほど。騎馬に限れば、2000騎ほどでしか無い」

「残りの1万8000は歩兵か」

ハロルド様が目を細めて地図を見下ろす。

「クロムハウトとドーンの戦力は?」

「クロムハウト伯爵領は我が領の2倍ほどの領地だが、総兵力は我が領と変わらん。ドーン男爵領に至っては、我が領の半分程度しか兵力を持っていないだろう」

ポドックさんの答えに驚いた。

ウォーレス領だとレティアの町一つで3万だよ?

領地全体で2万とか1万とか、しかも、騎馬部隊が2000騎しか居ないとか、どうなってんの?

ハロルド様もお母様も、予想の範疇だったのか驚く様子が無い。

「“中立派”では、そんなものか」

「総兵力5万で、騎馬戦力が5000騎・・・か。捜索範囲の広さに対して騎馬戦力が少な過ぎるな」

驚きがなくても、ハロルド様もお母様も表情は渋い。

「想定される盗賊の機動力は?」

「襲われた農村の痕跡では、10頭以上の馬を持っていると思われる」

「被害地域の広さは、どのぐらいだ?」

ああ、そうだよね。

お母様が敵の機動力だけでなく面積を訊くのは当たり前だ。

ポドックさんが持ってきた地図には縮尺も何も目安が無いから、距離感が分からないんだよね。

「領境を中心に半径20キロメテル、といったところだ」

「まあまあの広さだな」

直径40キロメートルの範囲?

40キロメートルと言われると、パッと頭に浮かぶのは、インターネットで見た戦艦大和の射程距離かな。

確か、そのぐらいの距離が主砲の射程範囲で、横須賀だったか、その辺りから東京23区が丸ごと射程に入るって画像が付いていた記憶がある。

私のいい加減な記憶だから適当なものだけど、それが、かなりの広範囲で有ることには違いが無い。

「20キロメテル程度なら、二人乗りで走らせても馬が耐えられる距離だな」

「馬が10頭なら、想定される盗賊団の規模は最低10人か?」

ウォーレス領の感覚だと、馬の数=人数になるんだろうか?

ハロルド様が抱いた感想にお母様は首を振る。

「いや。襲った先で馬を増やしている可能性が高い。寒村や商人を襲うには10人でも十分だが、2倍、あるいは3倍程度を見込んだ方が良いだろう」

「事件の全体像の発覚後、噂を聞いた領民も怯えておってな。クロムハウト領やドーン領では領民からの陳情も上がり始めているらしい」

「だろうな」

ポドックさんが語る現状に、ハロルド様もお母様も頷く。