軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還 ⑤

領軍の騎士様から出発前の報告を受けていたハロルド様が、男性の姿を認めて馬へと近付いていく。

「ポドック卿!」

「ウォーレス卿! 良かった! 間に合ったか!」

声を掛けたハロルド様の姿に気付いた男性が鞍から飛び降りる。

男性の様子に目を鋭くしたお母様が私たちに背中を見せる。

「ルナリア、フィオレ。付いて来い」

「「はい」」

私たちも、急ぐお母様の後を慌てて追う。

「どうした?」

「おお! ピーシス卿!」

ハロルド様と握手を交わしつつ、お母様が掛けた声に気付いた男性が表情を明るくする。

ハロルド様よりも少し身長が低くて、少し年上っぽい男性だけど、何だか顔つきに疲れが見えるように思う。

私が男性に抱いた印象は、お母様も同じだったみたいだね。

「久しいな。元気そう、というわけでは無さそうだが」

「うむ。少し問題が有ってな」

「問題だと?」

お仕事モードのスイッチが入ったお母様に頷き返しつつ、男性は表情を少し緩める。

「ああ、そうだ。先ずは、戦勝おめでとう」

「王国貴族の務めに過ぎん。だが、祝辞は受け取っておく」

「いやいや。さすが、“南部の雄”よな」

好意的に笑いながら男性は首を振った。

「そう言えば、謁見で顔を見なかったな」

「先刻、問題と言っていたが」

ハロルド様が記憶を探り、お母様が話題を戻す。

「それなのだがな。面倒なことになっておって、領地を空けるわけに行かなかったのだ」

「何が有った?」

深刻な表情に戻った男性の様子に、ハロルド様とお母様の表情も厳しくなる。

「盗賊だ」

「は? 王都に近い、こんな場所にか?」

男性の答えにハロルド様が目を丸くする。

「この夏から被害は散発していたのだが、どうにも掴めんでな。先日、騎士団長閣下が出兵された折りには、何とか500騎ほど捻出して送り出したのだが、手薄になった途端に被害が増えた」

「防衛態勢を掴まれていると?」

お母様の問いに、男性は深く頷く。

「そうとしか思えん。それで領地を離れられずにおったら、昨日、クロムハウト卿とドーン卿から応援要請が届いてな。考えていたよりも事態が深刻そうなのだ」

「どちらも“中立派”だな」

男性の答えに、ハロルド様とお母様は顔を見合わせた。

「うむ。使者が言うには、我が領と同じ状況で頭を悩ませていたらしい」

「三つの領を跨いで活動する盗賊団、ということだな?」

「恐らくな」

ハロルド様の表情が険しくなって、目を伏せてお母様が考え込む。

「賊の手口は?」

「街道を通る商人や旅人、領境に近い幾つかの小規模な農村が皆殺しにされておる」

男性の答えに小さく舌打ちしたお母様が男性に目を向け直す。

「王宮には?」

「先日の戦が始まった頃に報せたが、それどころでは無いと返ってきたわ」

「あの状況ではな。仕方あるまい」

悔しそうな男性にハロルド様が首を振る。

ほぼ王国全土が影響を受ける規模に内戦だったのだから、ハロルド様が言う通り王宮の反応も仕方ないよね。

「それで、ウォーレス領軍が通ると報告を受けて、助力を頼みに来たのだ」

「力を貸すのは構わんが、兵站が心配だな」

お母様に目配せしながらハロルド様が了承を返す。

「地図は有るか?」

「うむ。これを見てくれ」

男性が懐から取り出した大きな紙をガサガサと広げる。

「ルナリア、フィオレ。お前たちも見ておけ」

「「はい」」

私たちの声に、男性は初めて私たちの存在に気付いた様子で、目を丸くして私たちを見下ろした。

「ピーシス卿。この子供たちは?」

「ハロルドの娘と、私の娘だ」

「ほう! お二人の噂は、かねがね聞いておるぞ!」

お母様の答えに、男性がパッと表情を明るくする。

王様と違って裏を疑う必要が無さそうな、田舎のオジサンっぽい人好きのする笑みで笑い掛けてきた。

「ルナリア・ウォーレスと申します」

「・・・フィオレ・ピーシスと申します」

「私は、ローアン・ポドックだ。宜しく頼む」

この人、良い人っぽいね。

私たちのような子供の挨拶に、ポドックさんも丁寧に挨拶を返してくれる。

「私たちの爵位は、この二人が継いだから、そのつもりでな?」

「は? 卿(けい) らは、その若さで隠居したのか?」

お母様の言葉にポドックさんが驚いた顔をする。

「王命でな」

「まさか、“融和派”討伐の責任を取らされたのか?」

人の良さそうなポドックさんの眉間が険しくなった。

対して、ハロルド様は、何のこともない風に軽く肩を竦める。

「派手にやったからな」

「陛下は何を考えておられる!!」

ハロルド様の言葉選びが誤解を招いたのか、一瞬にしてポドックさんの顔に朱が差して、怒りに塗り替えられた。

ハロルド様の態度は後ろ向きなものでは無かったと思うけど、ポドックさんは、そうは受け取らなかったのかな?

「西部での騒乱に至った経緯は聞いている! だが、なぜ卿らが責任を問われるねばならんのだ!」

「ポドック卿」

それ以上言うな、と、ばかりに、ハロルド様が首を振る。

それでも、ポドックさんは収まらない。

「しかしだな! 卿らは南部の要だぞ!」

「そう怒るな。これは私たちから上奏したことだ」

「上奏? ふむ・・・。では、計画の上、ということか?」

ハロルド様とお母様の反応にポドックさんが怒りを飲み込み、問う視線を投げ掛けた。

「お陰で南部に集中できるようになった」

「そういう考え方も有るのか。しかし、そうなると・・・」

ニヤリと不敵に笑うお母様にポドックさんが唸る。

お母様たちは王様と共謀した意図を隠しておくつもりなのか。

これ、王様が凡庸を装う流れの一環かな?