作品タイトル不明
王城・地下探検! ⑫
螺旋階段との戦いでグロッキー状態だった私たちは早くも筋肉痛に襲われながら、与えられている自室へと戻った。
ルナリアが選んだレティア卿の剣は、6階層の「入口」で待っていた先導メイドさんの手に預けられたよ。
一旦、王様の下へ戻されて、下賜の承認を得た後でルナリアの手に帰ってくるらしい。
その後は、テレサとルナリアの溜まり場になっている私の部屋で少し休憩してから、側近待機部屋を襲撃してノーアを可愛がって遊んだ。
予定されていたイベントを全て消化し終えたので、いよいよ今夜が王城に泊まる最後の夜だからね。
王様から晩餐に招待されたハロルド様とお母様とルナリアと私は、テレサと一緒に王家のダイニングルームで夕食をいただき、すっかりグラタンをお気に召した王妃様が食欲を取り戻されているお姿を、この目で確かめることが出来た。
珍しくも王様の晩酌のお誘いに乗ったハロルド様とお母様を残して、私たち子供チームはお暇する。
螺旋階段による蓄積ダメージが体に残ってる上に、お腹がくちくなったテレサとルナリアは、お風呂で洗浄されている間にもうとうととし始め、ベッドへ放り込まれた途端に撃沈した。
私も疲れては居たけど、今夜で王都も最後かと思うと目が冴えてしまって、先導メイドさんを呼んでノーアの様子を見に行くことにした。
迎えに来た先導メイドさんから服装をダメ出しされて、夜衣の上にロングコートのような羽織を着せられ、マフラーのようにスカーフで首元もグルグル巻きにされて、モコモコになった姿で廊下を歩いている。
相変わらず、どこをどう歩いているのか分からない廊下を先導メイドさんと歩くのも、もう、あと少しで終わりかと思えば感慨深―――、くは無いかな。
私の歩幅に合わせて歩いてくれる先導メイドさんの後ろをポテポテ歩いていると、王家居住区画の中では非常に珍しいことに、別の先導メイドさんに先導された誰かが進行方向から歩いてくる。
口髭を蓄えて白髪混じりの髪をキッチリと撫で付けた男性で、お爺様ほど高齢でも無いし王様よりも少し年上に見える細身の人だ。
先導メイドさんがスゥッと廊下の左側へ寄り、私もメイドさんに付いてトコトコと左側に寄る。
先導メイドさんは足を止める様子が無いから、普通に擦れ違うだけで問題無いのだろうね。
つい、日本人ムーブで軽く会釈しつつ男性と擦れ違う。
「銀髪? エクラーダの色か」
「・・・ふえ?」
男声の呟きが耳に届いて振り返ると、行き過ぎたばかりの男性が足を止めていて、バッチリと目が合ってしまった。
そのまま無視して行くのも失礼だよね。
つまらないことで敵を作るのは得策では無いだろう。
お母様に恥をかかせられないので、一応、カーテシーを披露する。
「・・・あ。えっと、フィオレ・ピーシスと申します」
「ああ、うむ。私はサリトガ・グライアレーという」
私から挨拶したことに男性は驚いたようで、名乗り返してくれた。
・・・ん? 何か、聞き覚えの有る名前だったな。
「・・・グライアレー家・・・? あっ、宰相閣下!」
何も考えずにポンと手を打ったら、宰相さんは目を丸くする。
「君は物怖じせんのだな」
「・・・あはは、済みません」
これ、褒め言葉じゃないよね? 取りあえず、謝っておこう。
「いや、構わん。ああ、そうだ。爵位承継と昇爵、おめでとう」
「・・・ありがとうございます」
ええい。ついでに営業スマイルも投げ付けておけ。
「ふむ? 幼いことは知っていたが、本当に幼いな」
「・・・ええ。まあ、そうですね?」
小さく首を傾げる宰相さんの理知的な目に悪意のようなものは感じられない。
これは、純粋な興味?
観察されてる?
初めて見る珍獣を観察するような目だろうか。
他人に興味が無い人なのかと思ってたけど、そうでも無い?
思考に没頭するように宰相さんの口から独り言のようなものが漏れる。
考え事に没頭しているときの私って、こんな感じなんだろうか。
宰相さんとは、一度、話してみたいと思ってたし、何か聞こうと思っていたことが有ったんだよね。
何を聞こうと思ってたのか、綺麗に忘れたけど。
「この幼さで、あれほどの策と術式を―――」
じーっと、宰相さんの顔を見上げていたら、宰相さんが思考の淵から帰ってきた。
「ん? 何かな?」
「・・・あ、いえ。他人に興味が無い方なのかと思っていたので、その、意外だなと」
私が感想を耳にした瞬間、宰相さんの目が厳しくなった。
サッと先導メイドさんたちを見るので、私も釣られて見ると、いつの間にかメイドさんたちは、これ見よがしに両手で自分の耳を塞いで私たちに背中を向けている。
これ、全力の「聞いてません」アピールかな?
偉い人たちの会話を聞くとロクな結果にならないから聞かない方が良いって感じか。
こやつら、なかなか、やりおるわい。
コントみたいで面白い。
まあ、良いや。
目を戻すと、鋭く尖った宰相さんの目が私を見据えていた。
「今の話、誰かに話したか?」
「・・・今の? 興味が無い、という話のことですか?」
怒ってる、ってわけじゃ無さそう?
「そうだ」
「・・・んー・・・。ハインズ様とお爺様とテレサだけですね」
「お爺様、というのはマルキオ殿のことか?」
「・・・はい。マルキオお爺様です」
この話をしたのって、王都へ出発する直前の一回だけだよね。
ルナリアも居なかったと思うけど。
あれ? 居たっけ?
宰相さんと会う予定は無かったし。
頭の中で吟味したらしい宰相さんが深い溜息を吐いた。
これって、王様と宰相さんの手の内が広まる心配をした、ってことかな。
「そうか・・・」
「・・・誰にも話すつもりは有りませんので、ご安心ください」
ハインズ様からも「誰にも言うな」って言われてるしね。
目を丸くして、ぱちぱちと瞬いた宰相さんが首を傾げる。
「なぜだ?」
「・・・なぜ、とは、何がですか?」
「私は敵対派閥を纏めている者だぞ?」
ああ。宰相さんの手の内をバラさない理由のことか。
むしろ、私の方が宰相さんに聞きたいんだよ。
「・・・宰相閣下は“融和派”なのですか?」
「は・・・?」
目を瞠った宰相さんは、2~3秒間、フリーズした後、私から顔を背け、拳で口元を隠して肩を震わせ始めた。
「―――、くっくっくっく」
何? 何で私、笑われてんの!?
「面白いな。君は」
「・・・むー。だって、おかしいじゃないですか」
笑うだけ笑って答えないとか、酷くない?
「何がだ?」
「・・・閣下は“融和派”に興味が無いように見えます。テレサのお兄様―――」
あ。ヤベッ! 余計なこと言った!?
宰相さんが口元に立てた人差し指を添えていることに気付いて、私は慌てて自分の口を両手で塞ぐ。