作品タイトル不明
王城・地下探検! ⑬
私が黙ったことを確認して、宰相さんは首を振った。
「会ったことも無いのに、そこまで見抜いているとは驚いたな」
「・・・どうしてなんですか?」
主語を言わずに問えば、今度は笑わずに真摯な目が返ってきた。
「王国を維持するためだ」
「・・・維持・・・ですか」
これは、肯定かな。
やっぱり、コントロールするのが目的で「興味が無い」と。
お兄様にも「興味が無い」のだとすれば、王都から離れた場所に放置しているのは“邪魔だから”かな?
王族居住区域の中で先導メイドさんたちが傍にいるのに、「王子様のこと見捨ててるんですか?」なんて訊くのは、いくら私でも脇が甘くてバカ過ぎることは分かる。
「王国の領土は、それなりに広いのでな。どうにもならぬ役立たずで有っても、何らかの重石は置いておく必要が有るのだ」
「・・・重石ですか?」
これは“融和派”の領地貴族のことだよね?
「そうだ。監視する者を置かねば民の抑えが効かぬ。かといって民を導けぬ馬鹿者どもを退けて代わりを置こうにも信に足る者は少ない。重石でしか無くとも置いた以上は馬鹿者どもの不満を聞いて、暴発しない程度には抑えておかねばならぬ」
ふ~ん? 「役立たずであっも」ね。
宰相さんは民を信用していないだけで無く、貴族も信用していないと。
それほどまでに信用していないのなら、力を付けられても排除するときに困ると思ってたんだろうね。
“無いよりマシ”の精神で残した「役立たず」さんが“融和派”で、コントロールしつつ、そのガス抜きをしていたわけかな?
宰相さんは、元々、”中立派”だったと言うし、優先順位の問題で、”中立派”も、なのかも。
もしかすると、宰相さんにとって、排除したい対象は国内貴族の半数以上―――、いや、3分の2?
それはキツいだろうな。
強硬に排除して綱渡りに失敗すれば、単純な数の論理で、こっちが押し潰される。
”融和派”と”中立派”に分断して、何とか押し負けないように「王国を維持してきた」ってことかな?
もう一つ、根源的な部分を聞いておきたいな。
「・・・教えていただきたいのですが、どうして、そこまで?」
「どうしてとは?」
宰相さんが首を傾げた。
「・・・信用されていないのですよね? 民も、貴族も」
伝わったか。
ほんの2秒ほどだけ目を伏せた宰相さんは、再び目を上げる。
「君は、王国内の貴族を見て、どう思う?」
「・・・忠誠心に偏りが有るように感じます」
“融和派”の問題だって、“中立派”の公爵家がおかしな動きを繰り返したのだって、テレサや王妃様の護衛問題だって突き詰めて言えば、それが原因じゃないかな。
「その通りだ。王国は古い国であるが故に、身を蝕む腐敗が酷くてな。確たる証拠も無く処分することも出来ん。危険なところから20年掛けて潰し続けて、これでも随分とマシになったのだ」
「・・・腐敗、ですか」
汚職とか、叛乱とか、そんなのかな?
ロンドベール家の中抜きみたいなケース以外にも色々と有るんだろうけど、具体例を思い付かないや。
「サリエラは4人の子を成した。アマリリア殿下は2人だ。だが、王女殿下お二人が国外へ嫁がれた結果、今の王国にはカレリウスとアリストテレジア殿下しか残っていない」
「・・・それって、まさか・・・」
この流れで、それを言うってことは、宰相さんは明言していないけど、暗喩はしている。
サリエラ様って、確か、宰相さんの姪で、亡くなられた前・第1王妃様のことだよね。
テレサのお母様である、現・第1王妃様も危うく暗殺され掛けた。
テレサも狙われたことが有るようなことは言っていた。
でも、他のお兄さんたちのことは詳しい話が出なかった。
お兄さん二人と前・第1王妃様の三人が暗殺されてるの?
だとしたら、派閥だとか、そんなものに関係なく狙われているように見える。
それとも派閥同士の暗殺合戦?
お姉さん二人は暗殺を恐れて他国へ脱出したのかも。
生き残っているお兄さんが立場に背を向けて遊び呆けている原因も、それ?
いやいや。お兄さんは浅慮で軽率なだけとしか思えない。
「他国の謀略と言えるだけの確証は得られなかった。有力な国内貴族もな。しかし、疑うに余り有るのだ」
「・・・そうだったのですね」
王家の人間が次々に亡くなっている、その状況が、まともなわけが無い。
ただでさえ心を病んでいる気配が有るカレリーヌ様が強硬になるわけだ。
「先王陛下は王家の求心力を高めるために、強い王国を目指された」
「・・・小国連合諸国への介入、ですよね?」
ハインズ様とお爺様とハロルド様とお母様が振り回された戦争の話だろう。
「そうだ。国外に敵を作り、王国が強く在ることで、一時的には、確かに民も貴族も結束は高まった。しかし、腐った果実は健全な果実まで腐らせる」
腐ったミカン論か。
割れ窓理論も同じで、不正が見逃されれば群衆心理でモラルや秩序は崩壊へと向かう。
すでに崩壊が進行している段階ともなれば、強硬な引き締めが必要になるのだろう。
「・・・それで、多くの貴族を失脚させたのですね」
「ハインズ殿から聞いたか」
「・・・大雑把にですが」
私が認めると、宰相さんは小さく溜息を吐いた。
「やり過ぎという声は有ったし、ハインズ殿に窘められたことも有る。それでもやらねば、とうの昔に王国は瓦解していたのだ。だからこそ、オーグストは周りに置く者を極力減らして愚物を装う道を選んだ。この王城上層階の警戒ぶりを見れば気付くだろう。オーグストの役割は、瓦解を防ぎつつ王国の象徴として王都に在り続け、”次代へ王権を託すまで死なないこと”だからだ」
宰相さんは、手のひらで6階層の廊下の先を示して見せた。
この偏執的なまでの秘密主義と警戒の理由は、それか。
まるで、生け贄の羊だ。
ヤバいな。このままじゃ、テレサも王様と同じように怯えて生きなきゃいけなくなる。
「本音で言えば、王国そのものを作り替えてしまいたいぐらいだが、今すぐには出来ん。それほどまでに、身中の虫というものは厄介なのだ」
王国貴族の、ほぼ全てが信じられない、と。
宰相さんは、 憎悪(ヘイト) が王様へ向かないように汚れ役を担っているんだな。
「・・・それで、ウォーレス家に?」
思えば、ハインズ様は、元・王都騎士団団長だし、ハロルド様は、元・王都騎士団方面隊副隊長だし、お爺様も、元・先王陛下の側近だし、お母様は、元・特務魔法術師だし、要職がウォーレス家に偏ってたんだよね。
その他の要職も限られた貴族家だけで占められている。
この辺りはカレリーヌ様が言っていたこととも一致する。
セリーナ様がウォーレス家に嫁いだのも、実効戦力を持つウォーレス家を繋ぎ止めておくため?
お婆様がセリーナ様の懐刀として名を馳せたのも、実効性がない王家の事情と関係が有ったのかも。
みんな、何とかしようとして来たんだな。