作品タイトル不明
王城・地下探検! ⑪
いや、可能性じゃなく、お母様が言うように、ほぼ確定で失伝したんじゃないだろうか。
生産できるなら、あれだけ毎回、惨敗している対ウォーレス領の侵略戦争に投入してこないわけがない。
めちゃくちゃ納得が行ったよ。
「それはそうと、ルナリア。剣を振って見ろ」
「あっ! そうね!」
パッと表情を明るくしたルナリアは、通路の広くなっている場所へと出て行って、剣術の「型」のようなものを始めた。
私、ああいうの教えて貰ったことが無いんだけど、私が魔法ばっかり練習してるせいだろうか。
「・・・お母様。あの剣を薦めようとしてる?」
「薦める、と、までは言わんが、良い剣であることは間違いないな」
「・・・オリカルクだっけ。どんな特性がある金属?」
お母様が「良い剣」って言うぐらいだから、ただの剣では無いのだろう。
「元々、稀少だったらしくてな。当時の記録にも“硬くて重い”としか記述されていないんだ。黄銅と同一のものなのか、全く別のものなのか、興味が湧いて調べてみたかったんだが、調べようにも、現物がアレしか無くては鋳つぶすわけにも行かん」
お母様のサーベルと同じパターンか。
話ながらも、私たちの目は、剣を振るルナリアの姿を見ている。
「・・・あの剣しか現存していない?」
「いいや。かなり稀少ではあるが、国宝として所有している国は幾つか有るはずだぞ。どこの国でも宝物扱いだから実験素材には使えんだろうがな」
「・・・そうなんだ」
首を傾げる私に、お母様も首を傾げる。
「気になるのか?」
「・・・そういうわけじゃ無いけど、そんなに硬い金属なら、なんで甲冑にしなかったんだろ?」
「誰も着られないからじゃないか?」
んん? どういうこと?
「・・・なんで?」
「あの剣の大きさで、あの重さだぞ? 甲冑ともなれば重くて身動きが取れんだろう」
「・・・ああ~。確かに」
めちゃくちゃ納得した。
西洋式の金属鎧はプレートアーマーとも呼ばれるもので、鉄板をハンマーで叩いて凹凸を作り、人体の形にピッタリと合わせて整形されるものだ。
頭の天辺から爪先までのフルセットで装備すると、20キログラムとか30キログラムとか、そんな重量になったはず。
体全体に分散して荷重が掛かるから、意外と走ったり、でんぐり返り出来たりするんだけど、それでも、重いものは重い。
肘や膝の内側に物が挟まるわけだから、関節の動きも、多少なりとも制限を受ける。
あの剣は、普通の2倍とまでは言わないけど、かなりズッシリとした重みが有った。
1.5倍ぐらいの比率だとすれば、そんな素材で甲冑を作ると、常に成人女性1人分の荷物を背負って戦うような負荷が掛かってしまうだろう。
私だったら、置物みたいに、その場から動けなくなるに違いない。
「叔母様!」
「何だ?」
ルナリアの声に目を遣ると、レティア卿の剣に触れられて満足したらしいルナリアが、見物しに行っていたテレサと一緒に駆け戻ってきた。
「わたし、この剣にするわ!」
「剣の重さに振り回されて、まともに剣を振れていないように見えたが?」
見定めるような目でお母様が指摘する。
お母様は私と話している間も、ルナリアの動きを、ちゃんと目で追ってたからね。
ド素人の私の目にも、剣を振ったルナリアの体が剣の重さで泳いでいるように見えていた。
「今は良いのよ! 筋肉を付けて、そのうち振れるようになるから!」
「剣は玩具でも飾りでも無いんだぞ?」
お母様の目が厳しくなる。しかし、ルナリアは退かない。
「そうじゃなくて! 見てて!」
「ふむ?」
広い場所へ出て行ったルナリアが鞘から剣を抜き、右腕一本で握った剣を、肩の高さで水平に構えた。
あ、これ、突きの構えだね。
瞬間移動したみたいに見えるアレ。
低めに腰を落としたルナリアの足腰に、グッと力が溜まったのが分かる。
「―――、フッ!」
「・・・おおー」
ルナリアが鋭く息を吐いた瞬間、ふっとブレたように見えて、ルナリアの姿は5メートル先に有った。
キュッと靴底の音を鳴らして停止したルナリアは剣を突き出した体勢で、多少、剣が重くても持ち前の機動力は失われていないことが分かる。
思わずぺちぺちと拍手する。
「どう!? 今は突きが主体だから、剣の重さはあんまり関係ないもの!」
「ふむ? 理由はそれだけか?」
首を傾げるお母様の元へと、剣を鞘に収めたルナリアが駆け戻ってくる。
「だって、この剣は硬いのよね?」
「そう伝わっている」
息を弾ませて見上げるルナリアに、お母様が頷く。
「だったら、甲冑を突いても、折れる心配をしなくて良いじゃない!」
「なるほどな」
ニヤッと笑ったお母様がルナリアをぐりぐりと撫でた。
ルナリアは自分の得意技を踏まえた上で、ちゃんと考えてたんだね。
これで決まりかな?
「では、上層階へ戻るとしよう」
「うん!」
ルナリアが元気に応え、テレサと私は「現実」を思い出して憂鬱な息を吐く。
「階段ですわね」
「・・・そうだね」
宝物庫を出た私たちは、腹立たしいほどにクッソ長い螺旋階段と目を回しながら戦う羽目になり、1時間近くも掛けて、息も絶え絶えに上層階へと辿り着いた。
目は回るし、腿もふくらはぎもパンパンになるし、想像していた以上にキツかったよ。
王都を出て数日経ってから、訊かれて思い出したんだけど、頭の中まで筋肉にならないと帰り着けなかった私は、勇者のことも隠し扉のことも、お母様に質問することを綺麗に忘れ去っていた。