作品タイトル不明
王城・地下探検! ⑨
鉄器時代の粗鉄生産技術の中に、“るつぼ”を使った溶鋼技術が有る。
「るつぼ」自体は、直火に掛けて過熱するための椀状土器だから、遙か太古の時代から存在していたんだけど、その「るつぼ」で作られた粗鉄製品の中でも、古代インドで生産・輸出されていたものを「ウーツ」と呼んだんだって。
正確には、「ウーツ」が「鋼」って意味らしいから「ウーツ鋼」だと「鋼・鋼」になっちゃうね。
「るつぼ」は「 坩堝(るつぼ) 」で、「興奮の坩堝」とか表現するときの、あの「るつぼ」。
幻の鉄素材扱いされているという、このウーツ鋼、どうやら特別な製法で生産されていたわけでは無く、古代インドの鉄鉱山で掘られた鉄鉱石には、バナジウムというレアメタルが含有されてたんじゃないかって言われていて、溶鋼技術を失伝したのではなく、バナジウムを含有した鉄鉱脈を掘り尽くしちゃったから、ウーツ鋼が失伝したんじゃないか、って話だったと思う。
古代インドって、一説には紀元前3000年よりも更に前から、人類史で最初の鉄器時代を迎えていたらしくって、そんなに昔から鉄鉱石を採掘していれば、そりゃあ鉱脈を掘り尽くすことだってあるだろう。
ウーツ鋼が失伝したのって西暦1700年代も半ばのことらしいから、5000年も鉄鉱石を掘っていれば枯渇する鉱脈が無い方がおかしい。
バナジウム自体は柔らかい金属で、硬い鋼と柔らかいバナジウムが、偶然なのか、匠の技なのか、絶妙に分離して層を作った状態の粗鉄がウーツ鋼だったんじゃないかと推測されているらしい。
ダマスカスの街の武器職人は、この分離層を壊さないように何度も何度も叩いて延ばして折り曲げて、積層構造を作る鍛造技術を持っていたのだろう、と、ブログ記事は締めくくっていた。
夢が有るよねえ。
他の追随を許さない高度な技術を持った武器職人、って時点で、夢が溢れかえってダダ漏れになっちゃうんだけど。
ドワーフ族の手による異世界版ダマスカス鋼なら、このバナジウムが別のファンタジー金属と置き換えられていても不思議じゃない気がする。
インターネット上で得た知識だからどこまで本当なのか分からないし、斜め読みしただけの私の記憶が、どこまで確かなのかも怪しいけど、現代の地球では、ウーツ鋼もダマスカス鋼も、再現できていない「 失われた技術(ロストテクノロジー) 」であることは間違いないらしい。
その神秘性からか、ワイヤーロープやドリル刃を束ねて鍛造するナンチャッテ疑似ダマスカス鋼の鍛造動画が、インターネット上では、たくさん溢れている。
「伝説の剣」の再現なんてロマンの塊で、含有成分がロマンしか無いからね。
積層鍛造といえば日本刀の鍛冶技術も同様の系統だけど、日本刀の刀身に見られる刃紋は鉄と鋼の接合による素材の違いが表れたもので、刀身全体が複合素材で構成されているダマスカス鋼とは、ぜんぜん違う刃紋が現れる鍛冶技術だ。
積層鍛造の強みは、鋳造した剣を叩いて鍛える西洋剣に多い単層構造よりも、しなりが出て折れにくくなること、だっけ?
西洋剣みたいにポキポキ折れないって言われる日本刀だってライフルで撃てば折れるだろう、って、実際に撃ってみたら、折れるどころかライフル弾の方が斬れちゃった、なんて動画が動画投稿サイトに有ったし。
もう一方の折れないと言われるダマスカス鋼の剣が、どのぐらい折れにくかったかというと、薄く打った剣身の、切っ先を摘まんでウニョンと曲げると、鍔にまで届くぐらい曲げても折れなかったらしい。
折れにくいからこそ、その分、剣身を薄く、剣を軽く作ることができたんだろうね。
剣の軽さは腕を振り抜く速度に直結する。
敵よりも2倍速く剣を振れれば、単純な理屈上、2回攻撃で攻撃力は2倍。
蓄積ダメージに出血ボーナスが乗れば、さらに与えられるダメージの総量は大きく見積もることができる。
ゲームで言えば伝説級武器アイテムだ。
そんな武器、そりゃあ欲しいに決まってる。
軍隊を指揮する立場なら、自軍の全員に持たせたいだろう。
私が想像するほど単純なものでは無いのだろうけど、そこまで折れにくい構造で普通の剣を打てば、どれだけ折れにくい剣になるんだろう? と、考えてしまう。
絶対に折れない剣を打つ技術。
金属加工技術に優れるというドワーフ族なら、そんな技術を持っていても、おかしくは無いのかも。
そう考えると、この剣の特異性が気になって仕方がなくなってきたよ。
これかな? これじゃないかな? って、予感が私の脳内を埋め尽くしている。
インターネット上のフォーマットに自分の名前を入力するだけで脳内の思考を可視化する画像サービスのアプリで言えば、今は私の脳内の9割が「この剣」で占められていて、残りの1割が「お肉」だろうか。
さて、私の第1候補は、この剣で決まりだ。
他にも怪しいものが無いか探しては見るけど、これ以上、「ドワーフ族の気配を感じさせる剣」は無いんじゃないかって予感が有る。
軽い方の宝剣を棚に戻して、他の剣も見て回る。
全体的に俯瞰してみると、甲冑を着て両手で扱うような長剣が多いよね。
王城の訓練場でも騎士団の騎士さんたちが使っていた剣が、この手の長剣だったように思う。
性別的に体格で劣る女性のレティア卿が、両手で扱う長剣を愛用するのかと言えば、疑問を感じてしまう。
「余計な負荷の蓄積が疲労に繋がる」って言われたばかりだしなあ。
お母様のサーベルは長剣の類いだけど刀身が細身だし、エゼリアさんたちだって、バスターソードと呼ばれる長めの剣を使うことがあるのは、力持ちのディーナさんとノイエラさんぐらいだったはず。
理屈上、刀剣は近接戦に使う武器だし、魔力切れでも戦わないといけない状況を考えれば、身体強化魔法を使わないと扱えない武器を選ぶことは無いと思うんだよね。
私の考えは、そうなんだけど、ルナリアは、といえば、10本近くの剣を棚から抜きだして、棚に立て掛けてある。
そして、当のルナリアは、棚の前でブツブツと何かを呟きながら、頭を抱えてしゃがみ込んでいる。
「・・・ルナリア」
「フィオレ! 助けて!」
ハッと顔を上げたルナリアが振り返る。
そんなに切羽詰まった顔をしなくても・・・。
「・・・もしかして、混乱してる?」
「考えれば考えるほど、分かんなくなってきたの!」
今のルナリアをマンガに描いたら目がグルグルの渦巻きになっているはず。
ルナリアの周りに立て掛けられている多数の剣を指す。
「・・・この辺りの剣は、どういう基準で選んだの?」
「何となく!」
うん。潔くて良いね。―――、って、そんなわけ有るかーい! と、ツッコんだところで意味が無いのでサラッと流そう。
「・・・そっかあ」
「フィオレは選べたの?」
お? 私の態度から何らかの余裕を感じ取ったか。
「・・・1本は、ね」
「そうなの!?」
ふっふっふ。ダメ押しして良い?
「・・・まあまあ自信は有るよ」
「ええ~っ!!」
そこまで絶望的な表情で驚かなくても。
あんまりイジっても可哀想だし、ここいらで止めておくか。
「・・・私の予想が間違いでもルナリアの参考になるだろうし、判定を聞いてみない?」
「そうする!」
うんうん。気持ちの切り換えは大事だよ。
「・・・じゃあ、行こう」
「うん!」
落ち着きを取り戻したルナリアを引き連れて、閲覧台の剣を取ってお母様たちの傍へと戻る。