軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王城・地下探検! ⑧

仕切り板の隙間を覘き込みながら棚に沿って歩く。

こうやって目的物を短剣に限って見てみると、とても少ないんだね。

戦場に出るのは男性の方が圧倒的に多いから、長剣の方が多いのは当然なのかな。

「・・・ん?」

自分の胸元を見下ろす。

まただ。私の胸の中で、また、ざわりと体内魔力がざわめいた気がする。

気のせいじゃ無い?

ポンポンと自分の胸元を叩いてみる。

別に痛みも違和感も無いんだもんなあ。

何だろ、これ?

見ても触っても分からないものを気にしている場合じゃ無いんだよね。

まあ良いや、と、意識を棚へ移すと、1本の剣に私の目が吸い寄せられた。

「・・・おっと。これは?」

短めだと思って手に取った剣を持ち上げると、見た目を裏切って、ずっしりと重い。

棚から抜き出した剣を床に立ててみると、鼻の高さぐらいだ。

私の身長が110センチメートルぐらいだから、この剣の全長は1メートル弱ということだね。

よく見ると、この剣、鞘も金属製なのか。

素材が何の金属か分からないけど、錆ひとつ見当たらない鞘の表面には、蔓草をモチーフとした繊細で上品な浮き彫りが施されている。

重さの理由は鞘かと納得しつつ、鞘を握る左手の親指で鍔を押し上げて、鯉口を切って鞘から右手で剣を引き抜いてみる。

「・・・うーん」

使い込まれて傷でも付いているのか、剣身が曇っているように見えるな。

1000年の歴史を持つ王家の宝物庫に納められるほど古いものなら、キズ物でも仕方ないのかな。

鞘の女性的なイメージに注意を引かれて左手の鞘へと目を戻す。

西洋剣の“鞘の口”を日本刀と同じように「鯉口」って呼んで良いのか知らないけど、ガタつきを抑えて勝手に剣が抜けるのを防ぐ機能は同じだろう。

鞘というものは、剣の形状に合わせて数ミリメートルの「遊び」しか無いように作られているものだ。

“鞘の口”の形状も、口元と鍔の形状にピッタリと合わせてある。

鞘がガバガバだと、走ったり馬に乗ったりで大きく揺れると遠心力で剣が鞘から抜け落ちてしまうだろうからね。

「・・・あれ?」

よく考えてみると、右手に握った剣が、まだ重い気がするなあ。

逆に、左手に残った鞘は金属製に見えるのに、見た目ほど重くない。

鞘の口を覗き込んでみれば、内側は革製?

普通よりも重いと感じたのは剣身そのものの重さだったのか。

何とも言えない違和感を覚えて、剣を鞘に戻す。

この剣は、要・検証だ。

「・・・これと同じぐらいの剣は無いかな」

違和感の正体を見極めるには、似たような剣と比較してみるのが早いだろう。

剣を胸元に抱えたまま、棚板の隙間を覗き込みながら棚に沿って歩く。

良さそうな剣が見当たらないので、裏側の棚へと回り込む。

「・・・おっ。これは見比べるのに良さそう」

短めの剣を見つけて手に取ると、抱えて居る剣と明らかに重さが違う。

棚から抜き出した剣と抱えていた剣を並べて床に立ててみると、双方の長さは、ほぼ同じ。

「・・・うん。良い感じ」

2本の剣を抱えて閲覧台へと向かう。

閲覧台の真上の天井には照明が有って、台上を明るく照らしているからだ。

詳しく見るなら明るい場所に限る。

閲覧台の上にゴトリと置いて、2本の剣を並べてみる。

重い方も軽い方も、鞘の見た目は金属製で、重い方の鞘には表面に蔓草のレリーフ。

軽い方の鞘には宝石があしらわれた装飾が施されていて、いかにも「宝剣」って感じ。

それぞれの剣を抜いて、鞘の隣に並べる。

見比べても、剣身の長さも横幅も厚みも大きな差は無いように見えるね。

それぞれの鞘を手に取ると、重い剣の鞘の方が軽い。

軽い剣の鞘の鯉口を覘いてみれば、こっちの鞘は下地が木製であることが分かる。

重い剣の鞘は下地が革製だったから、素材の違いが重さの違いだったのだと理解できた。

両方とも、下地の上を金属板で覆って鞘の形状を形作っているけど、施された装飾は重い剣の方がスッキリとしていて嫌味が無いね。

実用的なイメージというか、飾り気が少なく見えるけど、そもそも戦闘行為に飾り気は必要無い。

軽い剣の鞘は―――、これは違うな。

そこまでゴテゴテと飾り立てられているわけでは無いけど、レティア卿という女性に金や宝石をふんだんに使った装飾を好むイメージは無い。

閲覧台に鞘を置いて、改めて重い剣の柄を握る。

剣などというものは総じて重いものだけど、やっぱり、ずっしりと重い。

変わった剣だな。

ダウンライトの明かりの真下に剣身を置いて、じっくりと観察してみる。

「・・・これって・・・」

先ず、目を引くのはモヤモヤと剣身に走る細かな模様だ。

棚で見つけて鞘から抜いたときには、薄い金色っぽい色目の剣身に傷が付いて金属の地肌が曇っているものだと思ったけど、明るい場所で見てみると、傷では無かったと分かる。

剣身に目を近付けて、よぉく見てみる。

恐らくは材質が違うのであろう薄い金色と銀色の金属の層が、1ミリメートルも無い細かな幅で、木目にも似た模様を剣身の表面にびっしりと描き出している。

これかな?

こんなもの(・・・・・) を作る技術を持っている技術者なんて、普通の鍛冶職人では無いと思う。

だって、これ、“ダマスカス鋼”じゃないかな。

地球のダマスカス鋼と同一のもの、ってことは無いと思うけど、似たようなものに思える。

社会人になったばかりの頃、山で使うのに、良いナイフが欲しくて調べたときに、行き当たった誰かのブログ記事に、画像付きで書いてあったんだったかな。

私が読んだ記事によると、錆びない・折れない・メッチャ切れる、と、三拍子揃ったダマスカス鋼の剣は、十字軍の頃のヨーロッパでは、複製したくても出来ない垂涎の舶来品だったとか。

舶来品と言っても、正当な対価を支払っての交易によって手に入れた物では無くって、十字軍遠征での鹵獲品だったみたいだけどね。

珍品・銘品・嗜好品の扱いで流通して、複製されたところから新技術へと発達するのは歴史あるあるだけど、これが、どうにも複製できなくて「伝説の剣」になったと書いてあったはず。

広義での「ダマスカス鋼」は、“ダマスカス”の都市周辺で生産されていた積層鍛造の鉄鋼製品全般を指す。

鉄鋼製品と言っても、主に武器と防具だっただろうけどね。

「ダマスカス」は今でも現存している地中海のドン突きに有る都市だね。

当時の国名はオスマン帝国だったかな。

オスマン帝国時代の後期には狭義での「ダマスカス鋼」と呼べるものは“作れなくなった”そうだけど、それは材料として輸入していた“ウーツ鋼”が失伝したせいだと結論づけていた。