作品タイトル不明
王城・地下探検! ④
私の足が止まったことに気付いたテレサが振り返った。
「どうかしましたの?」
「・・・あ。いや、別に」
足を早めてテレサの隣に並び掛ける。
扉の外から覘いていたときには、正面に見える通路の奥に置かれた閲覧台っぽいテーブル状のものと、左手に並ぶ棚しか見えていなかった。
左手の棚は本当に図書館の書架を思わせる懐かしい雰囲気で、棚の向かい側に有る通路右手には、マネキンに衣服を着せるように、鎧立てに着せられた全身甲冑が数十領も立ち並んでいる。
何か意味があるのか、通路から3メートルほど下がった位置だから、扉の外からは目を引かなかったんだな。
日本式の甲冑と違って、こっちの世界の甲冑は板金鎧だから、ほぼ全てが金銀に光り輝くピカピカに磨き上げられたものだ。
たまに真っ黒な甲冑や、スケイルメイルと言ったか、魚の鱗みたいに見える甲冑も混じっているね。
ざっと眺め回してみても全く同じ意匠と思われる甲冑は無く、特に、スリットの形状や数に違いが表れる兜の面甲の意匠は、どれもデザインに凝ったのか独自色が見て取れる。
こういうのを並べられると、戦場でも甲冑を着用しないお母様の特異性が際立って感じられるよね。
目立つ、と言えば、お母様ほど戦場で目立つ人は居ないのだろう。
「・・・うーん。派手だなあ」
「この辺りの甲冑は、歴代の王のものですわ」
ピカピカの甲冑に反射した照明の光で目がチカチカする
「・・・へぇ。テレサも、こういうの着るの?」
「そのうち作るのでしょうが、あまり派手なのは、私は遠慮したいですね」
私の傍に付いてくれているテレサを見ると、テレサは少し困った表情を浮かべている。
「・・・目立てるよ?」
「私は目立ちたいわけではありませんよ?」
「・・・そりゃそうだ」
テレサは王位の継承を視野に入れてはいるけど、それは遊び人のお兄さんが頼りないせいで、自分が立つ必要を感じているだけなんじゃないかと私は感じている。
これが、王妃様が元気になって弟でも生まれてくれれば、テレサはさっさと身を退くんじゃないかな。
そうやって、自分が王位継承者として立たなければならない必要性を理解できてしまうことこそが、利発なテレサのテレサたる所以で、カレリーヌ様の期待が示すように、王家に連なる主要な人たちの総意なのだ。
甲冑への興味の無さを示すように、テレサは通路左手を手のひらで指した。
「こちらには史料や文献が有るのですよ」
「・・・ほうほう。面白そうな文献とか有る?」
話を変えるようにテレサが書架へと誘い、私も誘いに乗っかる。
「面白いかどうかは分かりませんけれど、色々な時代の史料や文献が有りますよ」
「・・・色々な時代と言うと?」
テレサの言う「時代」とは、100年単位の年月を経た稀少な資料の「現物」だろうことは、簡単に想像が付く。
王家の宝物庫なんて場所に、そうそう立ち入らせて貰える機会なんて無いだろうし、有益な知識が得られるのなら、1ヶ月間ぐらい籠もって読み漁りたいものだ。
そうも行かないからこそ、テレサが情報を教えるために付いてくれていることが嬉しい。
テレサは蔵書が並んでいる書架の間へと先導する。
「古い史料だと統一国家時代の統一文字以前のものですわ。もっとも、読める者が一人も居ないのですけれどね」
「・・・ダメじゃん。統一文字以降の史料だと、どんなの?」
「こちらですわ」
私の率直な感想にくすくすと笑い声を漏らしつつ、テレサは私の要望に合わせた資料の下へとへと案内してくれる。
書架の間を、一旦、突き当たりの壁まで行って、裏側の書架へと回り込むつもりのようだ。
ははぁ。書架だけでなく、奥の壁も一面が作り付けの棚になってるんだな。
天井から床まで一定間隔に棚板が填め込まれていて、クラシックな店舗の陳列棚を思わせる棚板の上には何かの小箱が雑然と詰め込まれている。
「・・・この辺りの棚は?」
「宝石や装飾品の類いですわ。私も興味がありませんから、何が有るのか詳細は把握していませんが」
「・・・へー」
「私も」と、言外に「興味無いだろ?」という言い回しで説明されて、テレサが看破した通り、装飾品なんてものに全く興味が無い私もまた、気のない返事で返す。
通路の突き当たりでテレサが右へ曲がり、私もテレサの後ろに付いて右へ曲がる。
「・・・あれ?」
左手の甲に触れる空気の温度が変わったような気がして足が止まる。
私のすぐ左手に有るのは、壁一面を覆い尽くした棚だけだ。
室内に風が吹いているわけでも無いし、風っていうよりも、何か触れたことがある感じの―――。
うーん? 何だろう。
この棚の向こうに何か有る?
危険なものだとは思わないけど、場所が場所だけに触らない方が良いと思うし、触る気は無い。
触る気は無いけど気になるな。
棚・・・。棚ねえ・・・。
一つ一つの棚は横幅が2メートルほどで、左右を見渡したところ、全部の棚が同じに見えて見分けるのも難しい。
これって、もしかして・・・?
私が壁の棚を見上げていると、戻って来たテレサが書架の角からヒョコッと顔を覘かせた。
「どうしました?」
「・・・んー・・・、この棚って、隠し扉になってるのかなって」
「そうなんですの?」
地球のセレブ層の自宅で、“ 隠し扉(ヒドゥンドア) ”のインテリアが流行ってるという記事を読んだ記憶がある。
ハリウッドのアクションもの映画で、何も無い壁が開いて武器庫みたいな小部屋に入れる、あんな扉。
大事なものや危険なものを子供がイタズラで触ったりしないように、って趣旨だったはずだけど、ワナの偽装にも相通ずるものが有って、面白いな、と思ったんだよ。
古いお城だけに脱出路か何かが有るのかな?
これは、螺旋階段の反時計回りの謎が解けてしまったんじゃないだろうか。
「ふぅん? 隠し扉ですか」
あ、拙い。テレサの目がにんまりと笑っている。
「・・・へ、陛下に叱られたくないから、イタズラとか止めてね?」
「ほんの少し興味が湧いただけですから、イタズラなんてしませんよ」
ホントに? その意味深に笑ってる目を私は信じて良いのか?
「・・・扉を開けるなら、陛下の許可を貰ってからにした方が良いよ?」
「ええ。そうします」
ニコッと笑ってテレサが頷く。
興味本位で無茶をする子では無いと思うけど、大丈夫だよね?
ああ、でも、みんなが制止してるのに、森で血を飲んでブッ倒れた信頼と実績が有ったな。
ヤバい。猛烈に不安になってきた。
私の表情から心情を読み取ったのか、テレサはクスクスと笑う。
「本当に、お父様の許可を取らずに扉を開けたりしませんから、心配しないで」
「・・・そう? 絶対だよ?」
「はいはい。分かりました」
笑いながらテレサは案内の続きへと戻る。
何の話をしてたっけ?
統一文字以降の史料の話だっけ。
思考を戻して考えてみる。
古い史料か・・・。手書きの癖字を読み解くのは優先順位が低いな。
得られる有益な情報が無いわけではないだろうけど、文字の解読というなら、私にとってはエルフ文字の方が優先度は遙かに高い。
何と言っても、エルフ文字は魔法道具の解析という大仕事に関わる重要な課題だからね。