作品タイトル不明
王城・地下探検! ③
「この扉も魔法道具なのですよ」
「えっ! そうなの!?」
テレサの説明にルナリアが声を上げ、お母様も頷く。
テレサが向き合っている小さなドラゴンの刻印が、操作パネル的な装置という予想で合っていたようだ。
「これは大陸統一国家時代のものだな」
「・・・まだ、エルフ族が普通に居た頃だよね」
目を細めて扉を見るお母様の表情には、憧憬の色が見える。
「リテルダニア王家は統一国家王族に連なる血筋らしくてな。レティア卿が存命の時代までは、エルフ族国家やドワーフ族国家とも交流が有ったようだ」
「・・・そうなんだ!」
仲良かったの!?
しかも、テレサは数千年級の血筋だった!?
「この扉をはじめ、王城内の明かりの魔法道具にも、エルフ族の手による当時のものが幾つか残っているし、宝物庫にはドワーフ族の手による武器や防具も有ったぞ」
「ドワーフ族が作った武器は、頑丈なのよね?」
分かってるね!
ルナリアもドワーフ族に対する期待は高いようだ。
お母様を見るルナリアの目がキラッキラになっている。
そのお母様は、ルナリアに向かってニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「そう言われているな。ここの宝物庫に納められているドワーフ族の剣は、レティア卿が使っていたものだ、とも言われているぞ」
「本当!? その剣が良いわ!」
勢い込んでルナリアが食い付く。
そりゃそうだよね。
ルナリアにとって、血族の始祖たるレティア卿は特別だもの。
レティア卿の再来と言われるお母様に憧れを持っていただけに、食い付かないわけがない。
ルナリアの頭にピンと立った犬耳と、機嫌良くブンブンと振れる尻尾を幻視した。
でも、お母様は、そんなルナリアに首を振る。
「来歴なんぞで剣を選ぶな。剣というものは己の命を預けるものだ。己に見合うかどうかが先だぞ」
「見合うかどうか?」
「・・・あ、そっか」
ルナリアは首を傾げるけど、確かにその通りだ。
体の小さなルナリアが長い剣や重たい剣を振っても疲れるものね。
でも、期待させてから落とすとか、ちょっと可哀想じゃない?
テンションが下がって、ルナリアの犬耳と尻尾が元気を無くしたように幻視する。
「自分には短すぎたり、重すぎたりすると、満足に戦えんだろう」
「あっ、そうね。そうだわ!」
身の丈に合った剣を選べ、と。
お母様の補足にルナリアも納得が行った様子で、再びパッと表情を明るくする。
久しぶりだな、この感じ。
ルナリアは、めげないし、素直で可愛い。
私たちの判断のを見守ってくれるお母様は、放任主義に見えて、しっかりと見ているし、命に関わる大事なところでは、ちゃんとブレーキを掛けて分かるように教えてくれる。
「剣は剣でしかなく来歴など過去のものに過ぎん。物事の本質を見失うな」
「分かったわ!」
「・・・ふふっ」
元気に返事するルナリアも、いつも通りで、自然と笑みがこぼれてしまった。
「何だ?」
「・・・ううん。本当に戦争は終わったんだなあ、って、思っただけ」
首を傾げるお母様に、正直に答える。
「そうだな。ただ、だからこそ、次に備えて置かねばならんぞ」
「・・・うん!」
そうだよ。
常に次の戦争を見据えて備えるのは、ウォーレス領の基礎の考え方だ。
世界の違いを超えて地球の軍事論とも共通するこの考え方を、私は強く支持する。
どうやら、大切な人たちを傷付けられることが許容できないらしい私は特に、気を引き締めて、もっと先まで考えて備えて置かないと。
古代某国の孫子さんだったかも、「勝つ兵は勝ってから戦う」って言ってたよね。
「戦う前に勝敗は決まってる」って意味のこと。
「では、扉を開けますね」
話に一段落がついたと見て取ったテレサが、壁のドラゴンに向かって右手を挙げる。
テレサの右手に握られているのは、小さなペンダントのようなもの?
ドラゴンを象った壁の小さな刻印にペンダントが近付けられると、5メートル以上も離れた「扉」が、ゴトンと音を立てた。
「・・・上!?」
ゴロゴロと低く重たい音を響かせて扉が上へスライドし、天井に飲み込まれていく。
「「ふわああああ」」
上がって行く扉を見上げて私たちの口から感嘆の声が漏れる。
その方向へ開くのは予想外だったなあ。
材質が何で出来ているのか分からないけど、扉の厚みが15センチメートルも有れば、トン単位の重量があるだろうことは想像に難くない。
簡単には持ち上げられない重量だし、あんなものの下敷きにはなりたくないものだ。
扉が完全に天井へと吸い込まれると同時に、扉の向こう側の暗闇が、一斉に点った照明に駆逐された。
まるで遠隔操作の電動ドアと自動照明だ。
私が暮らしていた田舎町の電車は、昇降時に自分で開閉ボタンを押して扉を開けるタイプの車両だったことを、連想して思い出した。
奥にも横にも一定間隔で天井に埋め込まれているらしいダウンライトが室内を照らし、宝物庫内部の全容が見渡せるようになった。
見た感じ、室内の奥行きは30メートルぐらい有りそう。
端っこまで見えている天井の縦ヨコ対比から、室内の横幅も30メートルぐらい有りそうかな。
正面には真っ直ぐに通路が延びていて、奥の方に閲覧台を思わせるテーブルのようなものが置かれている。
通路の左手の、図書館内を思わせる書架っぽい棚の横っ面が整然と並んでいる様子が目を引く。
「勝手に明かりが点いたわ!」
「・・・扉の魔法道具と照明器具が繋がってる?」
高さ4メートルほどの天井を見上げて興奮を顕わにするルナリアの声と、首を傾げる私の呟きに、戻って来たテレサが補足する。
「そのようですよ。扉を開けると、ひとりでに明かりが点いて、扉を閉めると、ひとりでに明かりも消えるようです」
電動シャッターっぽい機構の扉に連動した照明器具オンオフスイッチか。
電動ってことは無いだろうから、動力は魔力なのだろう。
どこから魔力を引っ張ってきているのかも気になるな。
「それだけでは無く、どうやら、この宝物庫には“保存の魔法術式”が組み込まれているらしくてな。1000年以上も昔の文献も朽ちることが無いらしい」
「・・・ほええ」
お母様も補足をくれた。
それって、“時間停止”とかの魔法が有るってことじゃん。
凄いな、エルフ族。
その技術を再現できれば、食料備蓄に革命が起きて食料事情が激変するよ。
ウズウズを抑えきれない感じで「待て」を食らっていたルナリアがテレサを見る。
「入っていいの!?」
「どうぞ。それほど危ないものは無いと思いますから、お好きにご覧になってください」
テレサのゴーサインで駆け出して行くのかと思われたルナリアは、宝物庫に踏み込む手前でピタリと足を止めた。
私たちが後ろ姿を眺めていると、く、く、く、と、ルナリアの頭が傾く。
「むぅ・・・。剣って、どの辺りに有るんだろう?」
「武器の類いは一番奥の右手だったはずですわ」
テレサが情報を与えると、振り返ったルナリアがパッと表情を明るくする。
「ありがとう! テレサ!」
駆け出して行ったルナリアの背中を微笑ましげに見送って、お母様が続き、お母様に続いてテレサが宝物庫へと足を踏み入れる。
オマケとして付いて来ただけの私も、のんびりとテレサの後に続いた。
「・・・んん?」
無意識に自分の胸元へ目が引き寄せられる。
扉の敷居を跨いだ瞬間、胸の中で魔力がザワッとざわめいた気がした。
「・・・・・」
気のせいかな・・・?
体内魔力を意識してみても、特に変わったところは無いように思う。