軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれの対決 ⑳ ※アンサンブルキャスト面

驚異的な頑張りだが、もう、よせ。

もう、それ以上は命が危ない。

そう誰もが顔色を青くし始めた、そのときだ。

「ど・・・、同志との・・・約束・・・」

「・・・・・」

右手に抜き身の剣を握り、タイアー卿は燃えるような目で睨み据えながらも、女性騎士が剣を構え直すまでは攻撃を加えない。

ガクガクと震える膝が、ついに力を失って、女性騎士は地面に倒れ伏せる。

勝負あったか。

安堵するような吐息が、手に汗を握っていた騎士たちの間から聞こえる。

「―――、あ・・・」

痙攣する体で何度か身を起こそうとして失敗した女性騎士が、倒れたまま動かなくなった。

距離を取って見守っていた一団の中から、銀髪の少女が飛び出して女性騎士へと駆け寄った。

あれは、先日、ピーシス家を承継した“蒼焔”の少女か。

騎士団の騎士たちは、甲冑の女性騎士が少女の護衛騎士だったことを思い出し、少女が飛びだして来た一団の中に王女殿下と前ピーシス子爵の姿を認めて、慌てて敬礼する。

「・・・アリアナさん!」

少女は女性騎士の体勢を仰向けに変えさせ、汗と泥に塗れた顔に貼り付いた髪を払ってやっている。

回復薬を飲ませてやった方が良いのではないかと考えた騎士団の騎士は、ケガ人自身の意識が無いと飲ませられないことを思い出して口をつぐんだ。

あの強烈にクソ不味い回復薬を口に流し込まれれば、死人でも目を覚ますこと請け合いだが、クソ不味いだけに意識が有るときに飲ませないと、ケガ人が呼吸を詰まらせて、却って苦しめる結果になりかねないのだ。

少女は心配そうに表情を曇らせているが、打撲や骨折でボロボロにはなっていても、命に関わる事態にはなっていないはずだ。

板金甲冑がベコボコに傷むほどの強撃を加え続けても剣を折る気配すら無いのだから、タイアー卿の技量の高さが窺い知れようというものだ。

あれほどの技量を持つ者がギリギリの加減を間違えることなど無い。

二つの鞘を拾って2本の剣を収めたタイアー卿が、少女の傍へと歩み寄る。

「フィオレ様。・・・“同志”とは、何のことでしょうか」

「・・・初めて会った日―――、あの日、立ち会いの後に話したんだよ。私は、私の大切な人たち、みんなを守りたい、って。同じ人たちを、みんなを守りたいアリアナさんは、私の同志だ、って」

応えながら、腰の小物入れから手巾を取り出した少女は、女性騎士の汚れた顔を拭ってやっている。

少女の言葉にタイアー卿が首を傾げた。

「みんな、ですか・・・」

「・・・うん。ルナリアもお母様もアンリカさんたちもピーシーズも含めて、みんな。でも、力が足りない私一人で守れるものなんて少ないから、アリアナさんにも手伝って欲しい、って、私がお願いしたんだ」

護衛の女性騎士たちに囲まれている王女殿下を見たタイアー卿は、女性騎士を救護している少女へと目を戻す。

「みんな、というのは、殿下もですか?」

「・・・そうだよ。テレサも私の大切な人の一人。だから、カレリーヌ様に、テレサの護衛として誰かを差し出せと迫られて答えを出せない私の代わりに、アリアナさんが、自分がやると申し出てくれたんだよ」

騎士団の騎士たちがギョッとした。

この立ち会い、何ごとかと思えば、あのお方からの引き抜きが掛かって揉めたということか。

カレリーヌ様と言えば、騎士団長閣下の直系尊属で、数十年間に渡って陰から王国を動かしてきた重鎮中の重鎮だ。

あのお方に関わると、良くも悪くも面倒なことに巻き込まれるのは確実で、騎士団では「決して関わるな」と先輩方から強く言い含められている。

何なら、騎士団長閣下さえも「関わらなくて良い」と仰っている。

顔を上げた少女の目差しを受け止めたタイアー卿は、天を仰いで面倒くさそうに溜息を漏らしてから、気絶したままの女性騎士へと目を落とした。

「全く、あの方は・・・。アリアナも、そうなら、そうと、言えば良いものを」

「・・・言わなかったのは、“私とアリアナさんの約束だから”だと思う」

タイアー卿が少女に気遣わしそうな目を向けた。

「フィオレ様は、それで良いのですか?」

「・・・テレサを守って貰うためにアリアナさんを貸すことにはなったけど、別々の場所で頑張るだけで、アリアナさんは私の部下のままだよ?」

タイアー卿を見上げる少女が不思議そうに首を傾げた。

少女の答えにタイアー卿も不思議そうに首を傾げる。

「護衛騎士を差し出すように、カレリーヌ様から言われたと仰いませんでしたか?」

「・・・断ったよ。ピーシス領からテレサの護衛部隊を交代で派遣することにして貰った」

タイアー卿が目を丸くした。

騎士団の騎士たちも目を丸くする。

そんなことが有り得るのか?

あのお方と言えば王妃殿下の直系尊属でも有り、その強引な遣り口が末端の騎士たちの耳にまで漏れ伝わってくるようなお方なのだ。

あのお方の意向に逆らって無事で済んだ話など聞いたことが無い。

「断ったって・・・。あの方が、折れたのですか?」

「・・・分かって貰っただけだよ。いくらかは強引に説得したけど」

騎士たちの間から、ざわっと響めきが上がる。

「強引に説得」とは、一体、何なのか。

タイアー卿が呆れた表情で首を振る。

騎士たちもタイアー卿と同じ心境だ。

「とんでもないですね。フィオレ様は」

「・・・説得だよ、説得。ちゃんと分かってくれたし」

心外そうに言う少女を見下ろして、タイアー卿がフッと笑みを浮かべた。

「フィオレ様。アリアナが目を覚ましたら、伝えていただけますか?」

「・・・うん」

タイアー卿を見上げて少女が頷く。

「“やり遂げなさい”、と」

「・・・うん!」

嬉しそうに再び大きく頷いた少女に頷き返して、タイアー卿が背を向けた。

「さて。―――未熟な愚妹が自分の戦場で頑張ると言うのなら、私も私の戦場で頑張るとしましょうか」

通りがかりに、唖然とする騎士の手に訓練用の剣を押し付けて、タイアー卿は、主で有る前ピーシス子爵の下へと歩き出す。

「別々の場所で頑張る―――、ですか」

そう呟き、スッキリとした晴れやかな笑顔で、主に向かって手を挙げた。

「フレイア様! バルトロイ様の件、お受けします!」

一体、何だったのか。

嵐のように現れて、嵐のように去って行ってしまった。

終始、驚いたままだった騎士たちの間に、アンリカ・タイアーの名と共に、もう一つの名が記憶される。

アリアナ・タイアー。

あの”蒼焔”の護衛騎士を務め、あのカレリーヌ様に求められて王女殿下の側近となった女性騎士。

あのアンリカ・タイアーの妹にして、折れない精神力と、とんでもない粘りを持つ、根性の女だと。