作品タイトル不明
それぞれの対決 ⑲ ※アンサンブルキャスト面
王都騎士団の訓練場は、王城の1階層西側に有る。
王城勤務の騎士たちが勤務中も鍛錬に励むための場所で、基本的に騎士団関係者以外の立ち入りは許されていない。
午前中に襲撃事件の証拠品で有る魔法道具の起動実験が行われたせいで、訓練場を使用している者が少なかったのは幸運だっただろうか。
ずかずかと騎士団の訓練場に踏み込んできたドレス姿の女性と甲冑姿の女性騎士に、訓練中だった騎士たちが、驚いて場所を譲ってしまっている。
部屋着であろう質素なドレス姿の方は、ピーシス騎士団所属のタイアー卿だ。
王国屈指の著名な女性騎士の一人では有るものの、勝手に訓練用の剣を持ち出されては困るのだが、彼女が全身から発散している殺気の強さに、誰もが咎められずに居る。
両手にそれぞれ掴んだ訓練用の剣は、研がれておらず、刃が付けられていないとは言え、剣そのものは本物の剣だ。
騎士たちが空けた空間で足を止めて、タイアー卿が片方の剣を鞘ごと放り投げた。
甲冑姿の女性騎士が空中で鞘を掴み取り、剣を受け取る。
相対する女性たちの距離は10メテルほど。
髪の色は濃さが多少違うものの、二人の女性は顔立ちが似ていることから血縁者で有ろうことは簡単に想像が付く。
身体強化術式を使うのが当然の王国騎士にとって、10メテルなど在って無い程度の間合いだ。
何事かと居合わせた騎士団の騎士たちが注目し、ざわめく。
タイアー卿が剣を抜き、鞘を投げ棄てた。
右手一本で柄を握り、切っ先をピタリと女性騎士へと向ける。
勇ましさと美しさが絶妙な調和を見せる立ち姿に、騎士たちから憧憬の溜息が漏れる。
彼女らが手にしている剣は片手半剣と呼ばれるロングソードで、鋼の塊でもある剣は、それなりの重量が有る。
すっと水平に差し伸ばした細腕で、その剣を小枝でも持つように軽々と構えているのだから、タイアー卿の身体強化術式が相当に練度の高いもので有ることは、騎士たちの目には一目で見て取れる。
「未熟なアンタに何が守れる! 殿下の護衛を務める栄誉に目が眩んだか!? 未熟者のアンタを強くしようと心を砕いてくださっていたフィオレ様から、軽々しく殿下に主を乗り換えるなどと、恥を知れ!」
「いいえ! 退けません!」
叱責で有ろうタイアー卿の怒声に、応えた女性騎士の方も剣を抜いて鞘を投げ棄てる。
「そう。なら、務めに就けなくしてあげるわ」
「―――ッ!」
幾分、低くなった女声が響いた瞬間、タイアー卿の姿が掻き消えて、瞬間移動でもしたように10メテルの間合いを消失させていた。
ガキイイイイン! と、火花と共に、金属同士の衝突音が訓練場に響き渡る。
剣を盾に慌てて防御した女性騎士の足が、剣撃の重さに押されて数メテルも地面を滑って後退する。
騎士団の騎士たちから響めきが起こる。
離れた場所で見ている騎士たちの目でも、タイアー卿の姿を見失いそうになったのだ。
右下へ振り抜いてるということは、初撃は左斬り下ろしだったのか。
女性騎士も、よくぞ防いだものだと感心したところへ、間髪入れずタイアー卿の右水平斬りの追撃が入った。
ガギャアアッ! と、金属同士が擦れる音が響く。
まだ、滑る足元が止まっていなかった女性騎士が防御しようとするも、不安定な足元では受け止めきれず吹き飛ばされた。
追撃の重さに押されて完全に上体が泳いでしまっている上に、ああも足が宙に浮いてしまっては持ち堪えられまい。
すかさず上段から振り下ろされた剣が叩きつけられた。
「ぐあっ・・・!」
剣で受けただけでも大したものだが、ガシャン! と、大きな音を立てて、女性騎士は顔面から地面に叩きつけられる。
流石はタイアー卿。
何という速さ。
そして、何という剣の重さか、と、騎士団の騎士たちが唸った。
「立て!」
タイアー卿から厳しい叱咤が飛び、女性騎士は足元をふらつかせながらも立ち上がる。
頭を振って平衡覚を取り戻そうとした後、剣を上げて構え直した瞬間、再び女性騎士は真後ろへと吹き飛ばされた。
「ぐっ・・・!」
今度も斬撃かと思えば、一足飛びに間合いを潰したタイアー卿は剣を振ってすら居なかった。
まともに前蹴りを腹に食らった女性騎士が地面を転がる。
「立て!」
怒声に追い立てられた女性騎士が痛みに顔を歪めながらも立ち上がり、剣を構え直した途端に吹き飛ばされる。
固い地面に打ち付けられた女性騎士の体が跳ねる。
「がっ・・・! げふっ・・・!」
今度は二撃。
左下からの斬り上げが右脇に入り、返す剣が左肩を打ち据えたのだ。
斬り上げで体が浮いたところへ肩を強撃されて、またしても女性騎士は地面に叩きつけられた。
何度も何度も立ち上がり、何度も何度も地面に転がる。
速さも、重さも、技量も、タイアー卿と女性騎士では実力が隔絶している。
「立て!」
怒声を浴びせられ、それでも女性騎士は立ち上がる。
何十回、同じ光景を見せられただろうか。
見守っている騎士団の騎士たちは静まり返って言葉も無かった。
歪んで凹みだらけになった甲冑が、受けた打撃の激しさを物語る。
おぼつかなくなった足元でも、女性騎士は立ち上がる。
タイアー卿が手加減して致命的な急所への攻撃を避けていることは明らかだが、あれほどの強撃を何十回も食らえば甲冑の内側の体はボロボロに傷付いているはずだ。
誰かが、ゴクリと空気を飲んだ。
一体、どれほどの根性か。
普段から同様の模擬戦闘を繰り返す騎士たちだからこそ、我が身に置き換えれば背筋が寒くなる。
ここまで痛めつけられれば、大抵の者が5回や6回は気絶していることだろう。
それでも、女性騎士は立ち上がるのだ。
恐らく、殆ど意識は無いだろう。
それでも彼女は剣を構えようとする。