作品タイトル不明
それぞれの対決 ⑭
フヒッ。噛み付いて来たね。
カレリーヌ様の情報を「その程度」だの「外国の情報」だのと、こき下ろしたから、どこかで私を屈服させようと噛み付いてくるとは思ってたよ。
その噛み付き方が王家を盾にしたものだとは、意外と陳腐だったけど。
カレリーヌ様の言葉を反芻するようにして見せてから、王様に向かって私は首を傾げる。
「・・・王家と? 国王陛下は、私の敵なのですか?」
「そんなわけが無かろう」
攻撃のダシに使われた王様が、疲れたように首を振る。
「・・・でしたら、私と敵対するのは、リヒテルダート公爵家という理解でよろしいですね?」
「待て待て。グラウスは、俺の弟はウォーレス家と敵対など、しないぞ」
カレリーヌ様の問題を公爵家全体の問題に拡大解釈してみせれば、頭痛を堪えるような渋面で騎士団長閣下も首を振る。
「・・・グラウス様・・・。リヒテルダート公爵家の現当主様ですね? すると、私と敵対されるのは、どなたなのでしょう?」
「私になるのかしらね」
そうだよ。
カレリーヌ様が取った行動は、他の誰でも無くカレリーヌ様の問題で、誰かを巻き込ませたりしないからね。
この問題から、すでに王家もリヒテルダート公爵家も無関係になった。
これは、私とカレリーヌ様の勝負だよ。
諜報関係のトップだろうが、関係無い。
そっちが殺る気なら、こっちも殺る気で掛かる。
手下ごとカレリーヌ様も吹き飛ばして、相打ちに持ち込んでやる。
「・・・カレリーヌ様。私を止められると思うのなら、どうぞ、止めに来てみてください。情報戦で他領や王宮を取り込んで私を孤立させに来ますか? それとも直接的に暗殺者を送り込んで来ますか? もちろん、攻めてくるのが分かっていて、その誰かが攻めてくるまで私が黙って待っていることなど有り得ません。私が、フレイア・ピーシスの娘なのだということを、お忘れなのでは有りませんか?」
もしも。もしもだ。
お母様が今の私と同じようにカレリーヌ様との対決を選んだとすれば、どうするだろうか?
攻められるのが分かっているなら、攻められるまで待っているわけが無い。
絶対に速攻で攻め込みに行くと思う。
それは、今回の戦争で“臭い”と睨んだロンドベール家を手始めに攻め落としたことから想像できる。
だから私も“臭い”時点で攻め込みに行く。
目の当たりにしたばかりなんだから、カレリーヌ様も想像できるよね?
「この私を脅そうと言うの?」
「・・・とんでもございません。私は、道理をお分かりいただきたい。それだけです」
視線で殺してやろうとするようなカレリーヌ様に、ニコリと笑い掛ける。
テレサ直伝の営業用スマイルだ。
睨視(げいし) と笑みで相対する。
めっちゃ睨まれているけど、負けないぞ。
これ見よがしに大きな溜息を吐いて割って入ったのは王様だ。
「道理は、フィオレの方が通っておるな」
「フィオレ嬢。交代制の具体的な案は有るのか?」
騎士団長閣下の追認で、カレリーヌ様もまた、目を逸らして大きな溜息を吐いた。
ヨシ、勝った。
王様と騎士団長閣下へと向き直る。
「・・・ピーシス領には、ピーシス領でしか、そして、ウォーレス領でしか出来ない女性騎士育成方法が有ります。よって、1回の王都駐留期間を1ヶ月間とし、3ヶ月に一度の交代制で、王都とピーシス領で駐留人員を行き来させます。これでも、護衛部隊に所属する女性騎士候補は、往復の移動日数と休息日を除けば、王都とピーシス領で、それぞれ1ヶ月間ずつの勤務日数しか取れないでしょう。最低条件として、これを飲んでいただけないなら、私はテレサと一緒にウォーレス領へ帰ります」
3ヶ月間、約13週間の内、休息日14日。週休1日計算だ。
この勤務条件は最低条件で一歩も譲れない。
不寝番も含めた勤務シフトを想定すれば、1個小隊は欲しい。
毎日、しっかりと休息を取らせて英気を養わなければ、育つものも育たない。
そう考えると、今まで、レティア領主館のメイドさんたちに、私たちも、どれほどの負担を押し付けていたのかが、よく分かる。
メイドさんたちの負担も減らさなきゃなあ。
頭の中で吟味していた騎士団長閣下の目が私へ向いた。
「規模は、どの程度を想定している?」
「・・・目標は、常時1個小隊の駐留ですね。女性であるテレサと王妃様の身の回りに限っておかないと、王城内で別の軋轢を生む可能性が有りませんか?」
「そうだな。増やしすぎると、近衛騎士団の反発を買いそうだ」
王妃様の名前が出て騎士団長閣下の目が少し柔らかくなった。
騎士団長閣下だけでなく王様も頷いている。
王妃様の周囲が手薄に見えるのも気になってたんだよ。
先導メイドさんが居ないと廊下も歩けないあの病的なブラックボックス化で、王族居住区画は無菌室状態が保たれているって認識ではあるけど、それでもメイドさんたちだけじゃなく、同性の護衛戦力を王妃様とテレサの傍に貼り付けておいた方が安心できる。
近衛騎士団か・・・。
王城内の上層階の騎士様が王都騎士団と意匠の違う甲冑を着ているのは、騎士団そのものが別組織だったんだね。
近衛っていうくせに、王妃様の事件のときには役に立ってないじゃん。
あれ? 王妃様は夜会でメイドに毒を盛られたんだっけ。
夜会が開催された場所も聞いていない私が、近衛さんたちを役立たずだと決めつけるのは良くないな。
ゴメン、近衛さんたち。
でも、縄張り意識で王妃様やテレサを危険に晒すのは止めて欲しい。
王妃様の治療のときにも縄張り争いへの配慮みたいなもので、お母様たちが帰還するまで待たされたよね。
あのときは、王宮付きの治癒魔法術師さんと、魔法術師団なのか学術研究院なのかに気を使ったんだよね?
王宮って何なの?
王族がそこまで貴族や官吏の縄張り争いに配慮しなくちゃいけない時点で、王宮内のパワーバランスにおける王家の劣勢が察せられる。
その劣勢の原因って、王家が ちゃんとした(・・・・・・) 独自戦力を持っていないせいに思えるけど、そこまで踏み込むと各方面から反感を買いそうだな。
王都騎士団が王家の戦力のはずなのに、騎士団自体が寄せ集めなんだから、根底の部分で外部の政治的思惑が排除できていない。
そのことは、テレサと一緒にレティアへ来た王都騎士団200人の内、テレサが信用できるとレティアに残した人数が30人に過ぎなかったことからも想像できる。
恐らく、近衛騎士団という組織も、王家の? 王様の? 独自戦力では有ると思うけど、寄せ集めなのだろうと想像できる。
そんな寄せ集めを 本当に(・・・) 独自戦力と呼んでいいものなのか。
何だかなあ・・・。
思うところはあるけど、せっかく話を聞く気になってくれているのだから、ここで余計な反発を招くのは避けておこう。
カレリーヌ様の目も私へと戻ってきているけど、その目は、先ほどまでみたいに睨み付けてくる目じゃないね。