軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれの対決 ⑬

「・・・はい。その程度、です。先ほども申し上げましたが、私にとって、守るべき家族はウォーレス領内に居て、守るべき民は王国民です。覚えてもいない他国の情報など、私にとって何の価値も有りません」

「他国の情報、ね」

私の言葉の意味を正確に読み取ったらしいカレリーヌ様が呟く。

そうだよ? 実際、そうだし。

フレーリアをネタにエゼリアさんとアンリカさんを引き抜いたんだから、これ以上、強請りタカリのネタには使わせないよ。

情報を貰う前の交換条件で飲まされた話は、こちらが泣き寝入りするしかないにしても、最も情報を欲しがるはずの私が無価値と断じてしまえば、もう、ネタとして使えなくなる。

売れないモノの値段が下がるのは市場原理の基礎の基礎だよ。

「・・・人材育成について、騎士団長閣下ならご理解頂けると思いますが、一朝一夕で人は育ちませんよね?」

「そうだな。人は、そう簡単に育たん」

身につまされる話なのか騎士団長閣下が深く頷いた。

騎士団長閣下も、子供の話にも真正面から向き合ってくださる人なんだよね。

ハロルド様やお母様だけでなく、多くの人から信頼される人柄なのだと、よく分かる。

この人がエゼリアさんの旦那様になるなら、ちゃんとエゼリアさんを大切にしてくれそう。

「・・・王都で女性騎士を増やそうとしても、信用が置ける、身元が確かな人材を集めることだって簡単では無いはずです。身元が確かで有っても政治的な思惑が絡んで、却って危険を招き入れることになりかねません。だからこそ、王都で人員を集めるのでは無く、ピーシス領からの引き抜きを、お考えになったのでしょうけれど、違いますか?」

「う、うむ。その通りだ」

王家側には、「女王が生まれること自体が王国にとってのイレギュラーだから、女性騎士を持っているところから引っ張ってきてしまえ」という、安易な発想が根底に有る気がする。

引き抜かれる側のことを考えていないんだよ。

生産者側の事情を考えないグローバル企業みたいなものだ。

シワ寄せは、どこかに必ず表れる。

そして、そのシワ寄せが引き起こす問題を、一方的に押し付けられるのは生産者側だ。

問題が表面化するのを避けるには、先ず、生産者側の事情を理解して貰う必要が有る。

「・・・エゼリアさんやアンリカさん、そして、アリアナさんほどの女性騎士を育てるともなれば、一体、どれほどの年月が掛かるか想像できるかと思います。安心してテレサの身の回りの安全を委ねられる護衛部隊が育つまで、恐らくは10年近く掛かることでしょう。成人してから騎士団へ入ってくるようなド素人の女性が一人前の騎士にまで育ちますか?」

「女性騎士だと、一人前に育つ前に、婚姻で職務を返上して退団するのが普通だな」

難しい表情で騎士団長閣下が首を振る。

女性騎士が育たなくて、危機管理の教育が不足している人員しか傍に付けられなかった結果が、王妃様の暗殺未遂事件とも言えるはず。

王妃様の実のお兄さんである騎士団長閣下にとっては、苦々しい問題なのだろう。

「・・・そうでしょうね。だからこそ、育成し始める時点から、脱落者の発生を見込んでおく必要が有ります。数が必要なのです。アリアナさん一人を引き抜いて、テレサの護衛任務と、護衛部隊の創設と育成を、全て押し付けるおつもりですか?」

「なるほど。確かにな」

こっちの世界は成人年齢が早くて、医療技術を治癒魔法という特殊技術に依存している分、出産のリスクが高止まりするせいか、結婚適齢期も早い。

ポーションなんて超絶不思議薬もあるけど、あの強烈な薬を乳児に飲ませたら、その方が命に関わるんじゃないかな。

子供の死亡率が高いから、女性に「数を生んで貰う」必要も有るのだろうね。

これは「時代の要請」だから、結婚適齢期の問題は、簡単には解決できないはずだ。

あっ。そう言えば、母乳って、確か、”赤血球を含まない血液”って形容されてるんだっけ。

乳児に血を飲ませれば死亡率は下がるんだろうか・・・?

いやいや、待て待て。

試してみたいけど、罪のない赤ちゃんを使っての人体実験は流石に拙い。

いくら私でも、そのぐらいの分別はある。

この話は棚上げにしよう。

えーと? あ、そうそう。

そもそもの女性に与えられた時間が短いのだから、女性騎士の少なさは必然と言える。

安易に使い潰されちゃ困るんだよ。

そんな人たちにアリアナさんは渡せない。

「・・・先ほど私は、誰か一人を選んで差し出すなど出来ないと申し上げました。テレサの護衛をアリアナさんとレーテさんの二人で務めるなど、二人の負担が大きすぎて、二人が先に潰れてしまいます。私はアリアナさんを使い捨てにさせるつもりは、これっぽっちも有りません。アリアナさんとレーテさんを使い潰して、テレサを守り切れると本気でお考えなのですか?」

「そ、そんなことはだな・・・」

タジタジになった王様が首を振る。

だろうね。

そんな風に考えているとは私も思って居ないよ。

「二人が潰れたら、次を寄越せと言うのですか? そんな浅慮でテレサもアリアナさんたちも危険に晒されるなど、私には許容できることではありません。テレサの安全を本気で考えるのなら、テレサをレティアの町で守らせてください」

「ううむ・・・」

深刻な表情になった王様が唸る。

現実を理解してね?

その上で歩み寄ろうとしているのだから、状況を正確に理解しておいて貰わないと困る。

「そんなことが政治的な理由で出来ないことは、重々、承知しているからこその、交代制の提案なのです。テレサは、私にとって、ルナリアと同じぐらい大切な友だちで、家族と同じように守るべき人なのです」

「フィオレ・・・」

うるっと来たらしいテレサに、小さく笑みを返してから、トドメを刺しに行く。

「アリアナさんもまた、私にとって、この命をかけて守るべき家族の一人なのですから、私が妥協することは、絶対に有りません。私の大切な家族を奪いに来る者は、どんな手を使ってでも、私の全身全霊を持って排除します」

啖呵を切る私が見つめる先に居るのは、カレリーヌ様。

「王家と敵対すると言うの?」

カレリーヌ様が厳しい目で睨み付けてくる。

底冷えする殺意のようなものすら感じさせる目だ。