作品タイトル不明
それぞれの対決 ⑫
覚悟も無い有象無象を一から鍛えるのなんて効率が悪すぎるし、無意味に頭数を増やすと間諜や刺客が入り込む隙になりかねない。
テレサの護衛を王家が独自に女性騎士を育てられなかった理由って、そこじゃないの?
現に、王都騎士団は女性騎士のレベルが低いって、みんなが認めているわけだし。
私やノーアが簡単に受け入れられている現状を見れば、王国に日本のような戸籍制度が存在しないことは明らかで、個人を特定して連綿と連なる家系や血統を確認する方法が無い。
家系や血統が分かれば人間関係などの 柵(しがらみ) を推察することが出来るけど、それが出来ない。
日本企業だって個人の能力しか見ていないから、外国人社員を入れては機密情報を抜き取られていた。
人事の人たちも必要な情報が無いのに有能な人を見極めて採用しなきゃいけないなんて、大変だったろう。
そう考えると、暗殺なんてものが横行するこっちの世界では、個々の背景や柵の情報から推測するのって滅茶苦茶大事なんだよ。
だからこそ、カレリーヌ様だって、血族や家系の結束が強く身元の特定が出来ていて、さらには、強く賢く忍耐力にも秀でたウォーレス女性で、なおかつ戦闘力が突出したピーシス領から女性騎士を引き抜こうとしたわけで。
ピーシス領で、レティアと王家の需要を満たせるだけの女性騎士を量産できれば、一応、一先ずの解決はするわけだ。
延々と負担を押し付けられ続けるのはどうかと思うけど、私たちの信頼関係があるテレサ一代限りのことなら、飲み込めなくも無い。
その内、玉の輿とか関係なく、どうしてもテレサの傍に仕えたいって子が出て来るかも知れないし。
テレサがその子を受け入れるかは別問題だけど、その場合は自己責任だから、本人の力で頑張って貰おう。
ただし、「オシャレな都会で暮らして素敵なダーリンと恋をしたいんですぅ」みたいな、甘々な願望しか成分が無い本人の希望があるなら兎も角、大事なうちの子たちに、「10年ぐらい王都へ行ってこい。プライベートの時間を取るどころか、拘束時間がクッソ長くてトイレやお風呂へ行くヒマも無くて、友人とも家族とも会えなくなる職場だけどな!」なんて、私には、とても言えない。
こっちの世界には電話もメールも無いんだよ。
大切な家族が事故で死にそうになっていても、そのことを知るのに1週間、家族の下へ駆けつけるのに1週間、なんてことが普通な世界だよ?
しかも、対象者は女子高校生になるかならないか、下手をすると小学生の歳の子たちだ。
それに、王都にベッタリと居ては、血を飲ませて体内魔力保有量を増やすウォーレス領民強化計画から漏れてしまう。
魔法術師じゃなくても体内魔力保有量の多さが有利に働くことは火を見るよりも明らかで、身体強化術式を多用する騎士の強さは、体内魔力保有量の多寡にも左右される部分が大きいと私は感じている。
エゼリアさんたちのように、そんなもの関係無く強くなる人は居るだろうけど、確率論で言えば母数を増やしておくに越したことはない。
結局は絶対数の問題なんだよ。
何はともあれ、最初は頭数が居ないと何らかの現実問題に直面しても対応できる余地が無い。
ウォーレス領民強化計画の枠内に置きながら、王都でテレサの護衛任務を十全にこなす?
簡単にウォーレス領と行き来できる距離ならどうにかなりそうだけど、王都・レティア間の移動は、通常、片道で一週間、急ぎ足でも5日間は掛かる。
だったら、どうするか。
交代制?
責任者のアリアナさんと副官のレーテさんを日勤固定勤務の重役として、部下を交代制にする?
それとも、王族居住区画の外での荒事担当と、テレサの身の回りに限って、アリアナさんとレーテさんで業務を分ける?
いやいや、騎士団からテレサの親衛隊を引き抜ければ、お外での荒事担当は任せられるよね。
だったら、アリアナさんとレーテさんの業務は、女の子にしか任せられない身の回りの世話に限定した方が負担を減らせる。
指揮下の護衛部隊は二人の補佐と交代要員がメイン業務だ。
それなら、護衛部隊の責任範囲が限定できて、完璧な仕上がりでなくても務められないだろうか?
任務遂行と強化計画を平行して進められるなら、そのうち全体的な水準も引き上がるんじゃないだろうか。
交代制・・・、交代制・・・、交代制か。
部隊ローテーション勤務はどうだろう?
確か、日本の海上自衛隊だったかだって、艦船に乗艦して拘束される期間が長くて、1隻の艦船に対して部隊丸ごとのローテーション勤務を導入していなかったっけ?
自衛隊で採用している勤務システムなら、私が気付いていない面でも意味があってのことなのだろう。
イケる? イケるかも。
「・・・テレサとアリアナさんを王都に残すのなら、条件が有ります」
「う、うむ。聞こう」
向き直った私に、王様も向き合ってくださる。
タヌキかもしれないけど、テレサに対しては嘘偽り無く優しいみたいだし、王様って根は良い人っぽいんだよね。
お母様が王様と懇意にし続けてきたのも、王様の本質が善人だからかも知れないね。
それでも、アリアナさんが大切な私は、容赦無く王様に条件を突き付ける。
「・・・テレサが指名する騎士を専属の護衛部隊として、騎士団からの引き抜きの許可を。それと、ピーシス領が派遣する女性騎士候補たちを、アリアナさんの直属として、交代制で王城に駐留させる許可をください。アリアナさんをテレサの専属女性騎士として出したとしても、アリアナさんの所属をピーシス家は手放しません。王宮でアリアナさんが酷い目に遭わされたときは、直ぐにでもピーシス家がアリアナさんとテレサを回収しに来ます。認めていただけないなら、アリアナさんも出しません」
「テレサも連れていく気か!?」
何を驚いているんだろう?
当たり前じゃん。
「・・・当然です。アリアナさんが酷い目に遭わされるということは、王宮内で何らかの思惑が働いていて、テレサの身に危険が迫っていると言うことと同じでしょう。だったら、テレサも私が保護します」
「う、うぅむ。騎士団の方は問題無かろう。して、交代制で駐留というのは何だ?」
ここまで言っても耳を傾ける姿勢を維持してくれる王様の評価を引き上げる。
この王様なら、悪い結果にならないように頑張って調整してくれるんじゃないかな。
苦情受付・処理係を押し付けさせて貰えるだけでもアリアナさんたちの負担は減るはず。
残る問題はカレリーヌ様だ。
アリアナさんたちへの、この危険なお婆ちゃんの影響は、極力、弱めておきたい。
「・・・現状、ただでさえ、ピーシーズの人員不足で、ウォーレス領およびピーシス領では、ピーシーズの増員が喫緊の課題となっています。その状況で、ピーシス家はエゼリアさんとアンリカさんまで引き抜かれました」
「う、うむ」
バツが悪そうに王様が頷く。
どんな言葉で取り繕っても、これが事実だ。
「私の素性を調べていただいたことには感謝いたします。感謝はいたしますが、それを調べられたのは、私のためでは無く、王国のため、王家のためで有って、その程度の情報と引き換えに恩を着せられて、三人もの大切な側近を引き抜かれて黙っていられますでしょうか?」
「そ、その程度か・・・」
そうだよ? ちゃんと正しく理解しておいてね?
フレーリアには悪いけど、私にとっては「その程度」なんだよ。
王国内外の情報を駆使してカレリーヌ様が守りたいものが「王国」なのは、色々な方面に先手を打とうとしていることからも理解できる。
理解はできるけど、このお婆ちゃんは過激すぎるんだよ。
歩み寄りはしてあげたいけど、強い影響力を持たせたままだと、どこで何をされるか怖くて仕方がない。
だから、しっかりと釘を刺しておく必要が有る。