軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれの対決 ⑨

新領地を、どう開拓して、どう実験しようかと、思いを馳せそうになっていたら、カレリーヌ様の視線が私へと帰って来た。

「そうなると、今、片付けなければならない残りの懸念は、テレサの護衛についてね」

「・・・あっ・・・」

私の中で決着していない問題を突き付けられて、さぁっと血の気が引く。

考えたく無かったから現実逃避気味だったけど、忘れていたわけじゃ無いよ。

答えが帰って来ないことから状況を察したのか、カレリーヌ様が畳み掛けてくる。

「セリーナから聞いているのでしょう?」

「・・・はい」

毅然として居なきゃと自分を叱咤しても、顔を上げられない。

前々からセリーナ様から聞いては居るし、ちゃんと考えもしているけど、私には簡単に答えを出せるものでは無いんだよ。

まるで人柱のように「決めろ」と言われて誰かを選べるわけが無い。

ピーシーズのみんなは、全員が私の大事な人たちなんだから。

「曾お婆様。わたくしの護衛ということですが、わたくしは何も聞いておりません。一体、何のお話なのでしょう?」

私の態度に異変を察したらしいテレサが参戦してきた。

護衛対象ご本人であるテレサが与り知らぬところで話が進んでいることへの、反感も有るのだろう。

「聞いての通りです。貴女の専属護衛が必要だとセリーナが判断し、ピーシス家の女性騎士候補の中から選出するように、フィオレに指示を出していたのですよ」

「ピーシス家の? それは、フィオレの側近の中から誰かを差し出せと?」

ピクリと眉を寄せたテレサが声を固くする。

カレリーヌ様は軽く首を傾げる。

「ルナリアの護衛の中から、でしょう」

「それは違いますわ。ピーシーズ、―――、ピーシス家の女性騎士候補は、フィオレの側近で、フィオレがルナリアの側近なのです」

「そうなのね? 大した違いでは無いわね」

テレサの抗議はカレリーヌ様の心には響かなかったようだ。

三代も下った卑属の言葉など、血統を遡った尊属からすれば子供の戯言どころか曾孫の戯言でしかないのだろう。

受け答えはしていても、態度で「子供は黙っていろと」言っている。

「そんな! わたくしの護衛は、フィオレに背負わせるようなものではありませんわ!」

「王国の将来のために必要なことよ」

「曾お婆様!」

テレサの抗議も、どこ吹く風だ。

同じ血統の人でも、セリーナ様の方が子供の話でも耳を貸してくれて、ちゃんと向き合ってくれる。

そう考えると、血統の問題では無く年齢の問題だろうか。

ピーシーズへと顔を向けたカレリーヌ様が、たまたま目に付いたらしいネイアさんを指した。

「そこの貴女」

「は、はい!」

災難に見舞われたネイアさんが、ありありと緊張が見て取れる声を上げた。

分かる分かる。

カレリーヌ様って、セリーナ様の目力と圧力を当社比3倍ぐらいにした感じだものね。

「貴女たちは、騎士団の訓練場に出入りしているのですって?」

「はい! 胸を貸していただいております!」

新兵のようなネイアさんの模範解答は、カレリーヌ様のお気に召すものでは無かったようだ。

「胸を貸す、ねえ? 多くの騎士が、貴女たちよりも弱いと聞いているのだけれど。どうなのかしら? ドネルク」

「俺は訓練の様子を目にしていないから、適当なことは言えんぞ」

騎士団長閣下が困惑を見せる。

突然、振られた、当該組織のトップとしては、センシティブな話題に言及を避けざるを得ないよね。

「では、エゼリア。この子たちの力量は、どうなのかしら」

「正直に申し上げて、よろしいのですか?」

職務に忠実で柔軟な対処能力を持つエゼリアさんは、お仕事の話となれば平然とカレリーヌ様に向き合う。

「その正直な評価が聞きたいのよ」

「では、率直に申し上げますが、男性騎士でも、大半の方はピーシーズに劣るかと」

「どの程度の力量差なのかしら」

カレリーヌ様の見定める視線にも、お仕事モードのエゼリアさんは怯まない。

「ピーシーズがヘマをしない限り、初見で勝てる者は少ないでしょう。女性騎士に至っては話にもなりません。ピーシス領であれば、騎士団の入団選考試験に、ただの一人も合格しません」

バッサリと斬り捨てられた騎士団長閣下が、肩を落として目元に手を当てる。

「そこまでか・・・」

「ああ、閣下。王都騎士団の質が低いと申し上げているのでは無く、ピーシス領における女性騎士の選考基準は王都騎士団とは違うので、誤解なさらないでください」

取りなす感じではなく、エゼリアさんは淡々と事実を述べるように言った。

「選考基準というと?」

顔を上げた騎士団長閣下が先を促す。

「ピーシス領では、フレイア様とミリア様のどちらかが、女性領主になることが、ミリア様が生まれた時点で決まっていましたから」

騎士団長閣下の目が名前の挙がったお母様へと向き、お母様もまた平然と頷いている。

「実際の護衛任務に就く時点で、一般的な騎士として完成に近い状態にまで、幼少の頃から鍛えられたのです。ルナリア様が領主となる可能性も考慮して、女性騎士の育成方針は継続されていました」

「幼少の頃、というと?」

抽象的な表現だと感じたのか、騎士団長閣下が首を傾げた。

「私とアンリカの二人は、フレイア様の傍に付けられたのが少し早かったですが、物心着いた頃には、すでに木剣を振っていましたし、私の記憶に有る限り、物心着く前に剣術の型は一通り身に付いていましたね」

「男爵令嬢でも、そこまでか」

騎士団長閣下が愕然としている。

ウォーレス血統そのものが特殊だとは思うけど、中でもピーシス血統って本当に特殊なんだなあ。

それって、赤ちゃんが歩きはじめた頃には木剣を握らせるのかな?

剣術の修行がどういうものかを私は知らないけど、騎士団長閣下の反応を見る限り、かなり早いのだろう。

市場でも子供用の玩具を見た記憶がないから、玩具として木剣を与えているのかも。

「今、ここにいる彼女たちも同様に育って、私たちが直々に仕上がりを確認した子たちですから、指折りですよ」

「エゼリア嬢。そこの彼女もか? まだ幼く見えるが」

騎士団長閣下が指したのは見た目から幼さが残るピーシーズ最年少だ。

「ナンナですか? ナンナ、幾つになったっけ?」

「もうすぐ10歳です!」

親戚の子供に歳を聞くノリのエゼリアさんに、ナンナちゃんも新兵のように答える。

「騎士団の正騎士が9歳の少女に劣るのか・・・」

目眩でもしたのか、騎士団長閣下が力無くソファーの背もたれに背中を預けた。

頭を抱える騎士団長閣下を置き去りに、カレリーヌ様はテレサへと視線を戻す。

「分かるかしら? 代わりが居ないのよ」

「そ、それは・・・」

言葉に詰まったテレサから私へと、カレリーヌ様が視線を戻して来た。