軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれの対決 ⑧

カレリーヌ様の表情に私も首を傾げる。

「割り切り? ―――、いいえ、違うわね」

「・・・割り切りですか?」

何? その反応。

「何でも無いわ。―――、ハロルド。フレイア」

んん? 何か、ヘンな誤解をされた?

首を振ったカレリーヌ様は私からお母様たちへ視線を移してしまった。

「この子がどういった子なのかは、よく分かったわ。先ほども言ったように、今後、亡国の流出民が、この子を頼って押し掛ける事態が予想されます。移民として吸収して活かす方向で良いのね?」

「フィオレは、やれる、と判断しているのだろう?」

ハロルド様の問いに大きく頷いて答える。

「・・・民に与える仕事として住居建設と農地開拓だけでも十分ですが、勇王国に対する反感を持っている人たちなら、領軍に組み込んでも良いかと」

「領軍に、か」

おや? ハロルド様も前向き?

ハロルド様の口角が僅かに上がったように見えたけど、今はプレゼンテーションの山場だから後回しだ。

「・・・現状のまま勇王国と神教会が膨張を続ければ、いつの日か王国と衝突することは避けられないでしょう。今のお話を聞いて、今から戦力の増強に取り組んでおいた方が良いと考えています」

「そう言えば、貴女は先日も西部地域からの避難民を取り込んで見せたのだったわね」

カレリーヌ様が思案顔になる。

避難民・・・? あっ、思い出した!

私が期待していたよりも、避難民の数が少ないんだよ!

どうなってんの! って苦情を言いたいぐらい!

移住希望者は、まだまだ居るらしいんだけど、如何せん距離が遠いから、ウォーレス領に到着した移住希望者は、私たちが留守にしている今の時点で3000人程度じゃないかな。

週に1便で1000人弱しか運べないなんて、輸送力、低すぎだよ!

「・・・避難民が足りません! もっと欲しいです! 特に、ドワーフ族が落ちていたら、全部、ウォーレス領にください!」

「フィオレ?」

「・・・ハッ! しまった!」

前のめりになった私の耳に、低めになったお母様の声が届いた。

余計なことを喋った自分の口を両手で塞ぐ。

ドワーフ族が欲しいと本音を言ってお母様に窘められたばかりなのに、頭の中から素っ飛んでたよ!

聞き逃してくれれば良いのに、カレリーヌ様は私の余計な一言を聞き逃しては、くれなかった。

「ドワーフ族?」

「魔法道具を調べて、輸入に頼らず王国内で作りたいと言ってな」

カレリーヌ様から向けられた怪訝な目線に、お母様が肩を竦める。

「先ほど行っていた魔法道具の実験というのは、”それ”なのかしら」

「ま。そういうことだ」

お母様の返事に、いかにも信じて居なさそうな表情でカレリーヌ様が首を傾げる。

「そんなことが出来るのかしら?」

「・・・まだ分かりません。でも、やってみないと分かりません」

始める前から否定されて魔法道具を取り上げられては堪らない。

難しいだろう現状を認めつつも私は可能性を訴える。

酸いも甘いも経験し尽くして舌が麻痺したご老体とは、得てして始める前から「無理だ」と諦めて可能性の芽を摘み取ってしまうものだ。知らんけど。

積極的に企画書を提出する社員では無かった私は体験したことが無かったけど、OL時代に営業職の男性先輩社員が上司を評して、そう言っていたから、そんなことも有るのだろう。

「フィオレの言う通り、今はまだ、可能性の段階だ」

「前向きなのね」

お母様の追認に、カレリーヌ様の目線がハロルド様へと移った。

おかしいな。

お母様がナイスフォローをしてくれたのに、カレリーヌ様の声に呆れのような色を感じる。

「この子、いつも、こうなのかしら?」

「大体、こうですね」

「そうなのね。あのセリーナでも振り回されるわけだわ」

あっさりとノータイムで認めたハロルド様が頷くのを見て、カレリーヌ様も納得したように頷いた。

セリーナ様が私に振り回される?

ちょっと待って。何、その冗談。

セリーナ様と私は、猫とネズミの関係な気がするけど。

「しかし、まあ。エクラーダからの流出民に対応できるのなら、悪くは無いな。カリークの馬鹿者どもに対する牽制にもなる」

「エクラーダ王国の騎士は、良い騎士だぞ。騎士団でも取り込めるなら取り込んでおきたいものだ」

ハロルド様の感想に、騎士団長閣下が目を輝かせて食い付いた。

「盾の使い方が独特だったな」

「おお。大盾の後ろに隠れたままで、どれだけ打ち込んでも一歩も退かずにジリジリと前へ出て来るんだ」

この脳筋具合はエゼリアさんとの親和性が極めて高いと確信した。

身振りを加えようとした騎士団長閣下に向かって、お母様が挑発的にニヤリと笑う。

「強力な術式を頭の上へ落としてやれば、それまでだがな」

「何でお前が対抗意識を燃やすんだ?」

「いや。何となく」

呆れた声を漏らす騎士団長閣下からお母様が顔を逸らした。

「この子の存在で流入した異国人を抑え込めるのなら、それほど警戒する必要は無いのかしらね」

脳筋の村の住民たちに首を振ったカレリーヌ様が溜息を吐く。

概ね、流出民の受け入れは容認する雰囲気かな?

大人たちの表情を見回してみても否定的な空気は無いね。

「どうだ? 新領地は無駄にならないだろう?」

「分かった、分かった。有りがたく受け取っておこう」

王様のドヤ顔にお母様は嫌そうな顔で返す。

ああ、そうか。

王様から貰った新領地があるから、エクラーダからの難民をウォーレス領で受け入れる必要は無いのか。

良い結果ばかりに繋がるわけじゃ無いだろうし、一旦、レティアの外に置いておければ、レティアへの影響は最小限に抑えられるかも。

地球の例だと、移民の流入数が総人口の10%を超えると、”仲間が増えた安心感からか自分たちの文化を主張し始めて移住先の文化に馴染もうとしなくなる”なんて研究データが有った気がする。

文化の違いは双方にストレスを抱えさせて対立を生む。

移住先の文化に馴染もうとしないなら、それは、ただの外来種による侵略に過ぎないんだよ。

移民による暴動なんて事態が起こったとしても、そんなものにウォーレス領の領民が屈するわけは無いだろうけど、家畜の繁殖だって徐々に距離を縮めさせて馴らしていかないと、テリトリーに入り込んできた余所者を攻撃し始めて繁殖が上手く行かないって聞くしね。

居住地を別々に分けた上で同じ職場で働かせるとか、交流させつつ同化させても良いんじゃないかな。

異なる文化を一気に混ぜると、軋轢が発生する危険性が高くなるのは理解できるもの。

本当に来るかどうかも分からない流出民に気を揉むのも、気が早いんじゃないかと思う部分は有るけど、隔離場所を用意して備えておくに越したことは無いな。

やるじゃん、王様。

初めて心から感謝したかも。

いや、魔法道具研究の許可をくれたのも感謝してるよ?

そっかあ。新領地かあ。

だったら、スライム畑の実験を新領地でやれば、失敗してもウォーレス領に影響は無いな。

まあ、失敗したいわけじゃ無いし、失敗しないように全力は尽くすんだけどね。

治癒魔法術師量産計画の拠点も、レティアの町だって無限に広いわけじゃ無いし、どこに置くべきか相談する必要が有るんだよ。

ああ、そうだ。

もちろん、流出民には神教会への信仰を捨てて貰わないと。

ヒト族至上主義もね。

捨てられないなら、「お帰りはアチラ」だ。

抵抗するなら肉体言語での対話も辞さないよ。

王国内で神教会に根を張らせるつもりは無いもの。

踏み絵でも用意する? 隠れキリシタン狩りみたいなやつ。

神教会の教義なんてものと治癒魔法には何の関連性も無く、信じる意味も無いと教え込んで、精霊信仰に戻させるロジックも考えておいた方が良いかな。

治癒魔法術師量産計画には王妃様やテレサが絡む可能性が高いから、神教会に影響された連中を近付けたくない。

他国からも治癒魔法術師の卵を受け入れるなら、神教会の手の者が入り込む確率が高くなるからね。

採掘場と行き来しやすい場所じゃないと不便だし、同時に、隔離しやすくて、万一の際に対処しやすい場所に計画の拠点を置くのが望ましい。

レティアとコーニッツの間は原野の方が多いぐらいだし、あの辺りなら邪魔にならないかな?

すでに住んでいる人が居る場所を地上げするのは手間が掛かるし反発も生むだろう、何も無い場所に新たな施設を作った方が安く上がると思う。

夢が広がるなあ。