軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれの対決 ⑥

見届けるために静まり返っている室内に、お母様の静かな声が響く。

「もう、いい加減、お前には幸せになって貰いたい気持ちも有ってな。お前が完全に行き遅れては、レスリー殿とロアーナ殿に申し訳が立たん」

「それをフレイア様が言いますか」

柔らかい目で表情を緩めるお母様に、泣きそうな表情でエゼリアさんが憎まれ口を叩く。

「アンリカの件もカレリーヌ様が後押しすることになった。お前も考えておけ」

「私もアンリカも居なくなって、フレイア様はどうするんですか?」

「私はもう隠居の身だぞ? ルナリアとフィオレが成長すればするほど、ハロルドも私も前へ出る場面は減ってゆく。心配するな」

ズズッと洟を啜ったエゼリアさんは、騎士団長閣下へと視線を戻した。

「はあ・・・。ドネルク様は、私みたいな行き遅れが伴侶でよろしいのですか?」

「俺に、孫娘のような箱入りの御令嬢を娶れと? それに、君のように才色兼備で欠点を見つける方が難しい御令嬢など、なかなかお目に掛かれんと思うが」

「あらま。閣下もなかなか、お上手ですこと」

照れくさそうにガシガシと後頭部を掻く騎士団長閣下に、エゼリアさんはクスリと笑う。

若さと家柄しか取り柄が無い御令嬢との政略結婚は嫌だという意味かな?

オジ―――、ゲフンゲフン、大人の男性も世間知らずで会話が成り立たないお嬢様と、四六時中、一緒に居ると疲れるのだろうか。

私はムリだな。

「君が嫌でなければ、考えておいてくれ」

「先ほども申し上げましたが、閣下ほどのお相手が旦那様でしたら、何ひとつ不満は有りませんけれど」

飾らないストレートな言葉に、騎士団長閣下の人柄が表れている気がする。

エゼリアさんも、言葉通り、まんざらでも無さそうだよね。

何か、一瞬で上手く纏まっちゃった。

これがお見合いの成功例か。

いや、これも政略結婚だけどね。

アスクレーくんと私みたいな双方が良く分かっていない者同士の例とは全く違うものだよね。

「では、後日、正式に申し込ませて戴こう」

「あ。はい」

立ち上がった騎士団長閣下が右手でエゼリアさんの右手を取って、指先に軽く口づけた。

「「「おお~!」」」

嫌みの無い大人の作法って感じで、厳つい騎士団長閣下を見直してしまった。

エゼリアさんなら上手くやっていくだろうし、見ていて安心感がある。

不安にさせることばかりが起こる中でのことだから、素直に嬉しい。

「・・・おめでとう。エゼリアさん」

「おめでとうございます。エゼリアさん」

「おめでとう! エゼリア!」

何かもう、黙っていられなくなって祝辞を口にする。

「ああ、はい。ありがとうございます?」

乙女な感じで、はにかむエゼリアさんなんて、レアなんじゃない?

照れくさそうにしていることを誤魔化そうとしても、誤魔化せていない。

エゼリアさんとしても喜んでいるのが伝わってくる。

静かに溜息を吐いたカレリーヌ様がお母様に視線を移す。

ん? 何だろう? 空気が変わった?

緩みかけた空気をカレリーヌ様から放たれる圧力が断ち切った。

お母様の方は憂いのある溜息を吐き出した。

「これで、懸念の一つは片付いたわね。フレイア?」

「分かっている。南部が揺るぎないことを見せろと言うのだろう?」

カレリーヌ様の視線が、私へと移ってくる。

「ええ。安心させて欲しいわね」

「・・・んん?」

私? 南部? どういうこと?

「エゼリア。ソレをフィオレに渡してやってくれ」

「あ。はい。―――、どうぞ」

「・・・ありがとうございます?」

エゼリアさんに差し出されて、反射的に受け取ってしまった。

何だろう、コレ?

大きさの割に、非常に軽い。

フワッと柔らかい手触りの大きな布に包まれているものは、細い木枠のような触感がある。

重さは軽いのだけど、美術の授業で写生画を描かされたときの画板ぐらいの大きさが有って、5歳の体格に画板の大きさは、本当に大きい。

体と物の大きさの対比的に仕方ないんだけど、立てても横にしても前が見えないんだよ。

膝に置いたら引っ掛かりが浅くて、片手を離すと落っことしてしまいそうだ。

持て余していると、見かねたメイドさんがサイドテーブルを移動させて、私の正面に置いてくれた。

手に持ちっぱなしは邪魔なので、遠慮なく布包みを置かせて貰う。

首を傾げていたら、固い表情のお母様が、じっと私を見ている。

「開けてみろ」

「・・・はい」

はらりはらりと布を捲って包みを開いて行くと―――、絵? だろうか。

画布(キャンバス) だったのか、と、分かってしまえば、手触りに納得が行く。

「「「「「―――、!!」」」」」

赤いカーテンのような背景に、幼い女児を膝に座らせた若い女性が猫足の椅子に腰掛けている。

すっと背筋を伸ばして斜め向きに座り、お顔をこちらへ向けている女性の膝の、ドレス姿の女の子も、こちらへ顔を向けている。

髪の色も肌の色も同じで顔立ちもよく似ているから、二人が母娘で在ろうことは想像に難くない。

赤ワインのような深い赤色の背景に銀髪が映えて際立っている。

高級そうな薄手のドレスも淡い色合いで、優しそうに微笑む細面が加わると、妖精みたいな雰囲気を持つ大人しそうな美人に見える。

問題は、女児の方だ。

・・・コレ、―――私かな?

「叔母様! これって!」

声を上げたルナリアを、お母様が手で制する。

驚いているのは、騎士団長閣下とテレサとエゼリアさんとルナリアと私の5人。

「謁見の後に預かったものだが、配下の者を通じて、カレリーヌ様がエクラーダ王国で手に入れてくださった」

「・・・エクラーダ王国で・・・?」

どうしてそんなところへ間諜を? なんて思わないよ。

カレリーヌ様は私を疑っていた、というか、私の背景に何かの裏が有ると疑ったのだろうね。

「その肖像画に描かれている女性の名は、エクラーダ王国第3王妃、オルレーシア・エクラーダ。オルレーシア妃が膝に抱いている娘は、フレーリア・エクラーダという名らしい」

なるほど?

お母様の静かな声に、私は手元に目を向け直す。

純血、純血、って、何度も言われてきたからね。

まさかなぁ、とは思いつつも、心の端には引っ掛かり続けて居たのだろうね。

私の心中は予想以上に凪いでいる。