軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれの対決 ⑦

報伝達手段が無い世界なのに、他国の情報が出て来たことで私は驚いたけど、みんなは私の出自に驚いているのか。

「・・・オルレーシア様に、フレーリア・・・」

口の中で、名前を反芻してみる。

名前を知れば、私の中に眠っている本当の体の持ち主が目を覚ましたりするのかと思っていたけど、何も起こる様子は無いね。

この子、やっぱり死んじゃったのか・・・。

情報は頭に入ってくるけど、心に響いてくる感じは無いな。

「情報によると、オルレーシア妃とフレーリア王女は、1年と少し前に暗殺されたことになっている」

「・・・暗殺、ですか」

感情を抑えたお母様の言葉を、私も口の中で転がしてみる。

「ことになっている」というのは、フレーリアと私が同一人物と仮定―――、いや、ほぼ断定した言い方だよね。

私も、その点に疑念を挟む余地が有るとは思っていない。

「勇王国による、エクラーダ王国に対する浸透工作が露見する切っ掛けとなった事件よ。オルレーシア妃は事件現場で死亡が確認され、遺体も見つからず行方不明で死亡扱いとされたフレーリアは、暗殺事件当時、4歳になったばかりだったそうよ」

補足情報をくれたカレリーヌ様の声が私の頭に染み込んでくる。

事件は1年と少し前って言ったよね。

1年半未満と仮定して、今、生きていれば5歳半。

年齢的に私とのズレは大きく無さそうだ。

カレリーヌ様は、他人の空似ではなく、フレーリアと私が同一人物だと確信しているように見えるね。

齟齬が見当たらない以上、私にも否定する材料は無いな。

私自身も同一人物なのだろうと思っているし、そこは良いや。

現時点の情報では否定する理由も無いけど、カレリーヌ様は「安心させろ」とお母様に言った。

お母様の様子を見る限り、気が進まないものを、あるいは、お母様がまだ迷っているものを、カレリーヌ様が強引に推し進めさせたように見えた。

王国の首脳陣とも言える面々の前で、こんな話をお母様に強要してまで、カレリーヌ様は、私を見極めようとしている?

だとしたら、カレリーヌ様は、私の何を見ようとしているのだろう?

お母様を苛めたことには、ちょっと、ムカッとくるけど、ここは自分を抑えよう。

「フィオレ。―――いいえ、フレーリアと呼んだ方が良いのかしら? 貴女、覚えていることは有る?」

「・・・覚えていません。ご存じの方もこの場におられますが、私には、今から9ヶ月ほど前までの記憶しか有りません。それ以前のことは何も記憶に有りませんので、フレーリア、でしたか? そう呼ばれても実感が有りません」

カレリーヌ様の疑念が何なのかが分からないからこそ、素直に答える。

事実、フレーリアの名前を、私は今、初めて知ったのだ。

「そう。―――これは、その肖像画と共に届けられた情報なのだけれど、エクラーダ王国が滅びたそうよ」

「「―――、!」」

「何だと?」

顔色を変えたのはテレサとエゼリアさんと、騎士団長閣下だ。

驚かなかった王様とハロルド様とお母様は先に聞いていたのだろうし、ルナリアは、遠くの国のことだからピンと来ていない感じかな?

テレサと初めて会った日の時点で、ベルーサー様が「だめぽ」ってニュアンスのことは言ってたよね。

西方からの圧迫で小国連合諸国は近隣同士で小競り合いを続けていたみたいだし、彼の国の滅亡と聞いても、私には、そのニュース自体への驚きや感想と言うほどのものは無かった。

カレリーヌ様が発する次の言葉を聞くまでは。

「浸透されて勇王国に靡いた国内貴族の内通が、暗殺事件を切っ掛けとして露見してね。一斉蜂起で、王家と傍系も、近しい貴族家に至るまで、瞬く間に根絶やしにされたらしいわ」

「彼の国の国内貴族の大半が勇王国に調略されたとは聞いていたが、そこまでとは」

カレリーヌ様の情報に、首を振りながら追加情報をくれたのは騎士団長閣下だ。

うわぁ・・・。

聞き覚えが有る国名と、やらかしたことに頭痛を覚える。

あの連中・・・。

西部国境地域の騒動でお母様たちが辛い目に遭わされたばかりなのに、こんなに直ぐに聞かされるとは思わなかった。

私の胸の中に、ムカムカがさらに堆積する。

「・・・また勇王国ですか。本当にロクな国では有りませんね」

「それだけなの?」

うんざりした気分をそのままに、私が口にした率直な感想に、カレリーヌ様が首を傾げた。

「・・・それだけ、と、仰いますと?」

「貴女の母国が滅ぼされたのだけれど、何も思うところは無いのかしら?」

ああ、そういうことか。

カレリーヌ様は、異国人の私をお母様が後継に選んだことで、南部国境の守りが―――、王国の安全が脅かされないかを心配しているのか。

だったら、私がどう考えているのかを明確にしておくのが正解だな。

疑う余地を残して粘着されるよりも、スッパリと分からせてやる。

「・・・母国、と言われましても、先ほども申し上げました通り、私には、その国や肉親の記憶が何ひとつ有りません。私にとって家族と呼べる人たちはウォーレス家とピーシス家の皆で、母国がどこかと聞かれれば、答えはリテルダニア王国しか有り得ません」

お母様を見ると、お母様の目が真っ直ぐに私へと向けられている。

だからこそ、お母様から目線を切って、カレリーヌ様を真っ直ぐに見据える。

「・・・リテルダニア王国と家族を守るために勇王国や神教会と戦う意志は有りますが、そのエクラーダ王国のために戦えと言われれば、お断りします、としか言えませんね」

「―――本気で言っているのね・・・」

数秒間、見つめ合った末に、カレリーヌ様が小さく息を吐いた。

「・・・はい。私の母は、フレイア・ピーシス、ただ一人ですから」

黙って聞いていたお母様が、静かに目を閉じた。

その様子を目にして、肖像画を私に渡す前のお母様の迷いの意味が、私にも理解できた。

ごめんなさい、お母様。

私、家族というものがよく分かっていないから、お母様に気持ちに気が付いていなかったよ。

もっと、ハッキリと言葉に出して伝えるべきだった。

私自身の素性は話したけど、私の体はフレーリアのもので、本来、私のものでは無い。

私が、私の中のフレーリアが目を覚ますことが有るんじゃないかと思っていたように、お母様も「もしかすると」って不安を抱いてたんだね。

ゴメンね、フレーリア。

どこの誰が何と言おうとも、私の心は揺るがない。

どこの誰が現れようとも、私はお母様の娘で居たい。

他の誰の娘にもならないよ。

「貴女の存在を知った旧エクラーダ王国からの流出民が、ウォーレス領へ押し掛けて来た場合は、どうするのかしら?」

「・・・それは、エクラーダ王国の再興であるとか、そういう意味で、でしょうか?」

なるほど? それは確かに有りそうだ。

「そうね。そう求められたとき、貴女はどうするのかしら」

セリーナ様に似たカレリーヌ様の見定める目を、真正面から受け止める。

どう、って。

そんなの、考えるまでも無いよ。

「・・・絶対にお断りです。その人たちには申しわけ有りませんが、自分たちが潰して無くなった国を再興したいなら、私たちとは関係の無い、どこか遠くでやってください、としか―――」

そこまで答えて、はたと思い付いた。

「・・・ああ。でも、労働力としてなら流出民を受け入れるのも吝かでは有りませんね。領内の農地を開拓したいので、移民としてなら、どんどん来て貰って構わないかと」

労働力なら欲しいよ。

お肉も魔石も、もっと欲しいし、スライム畑の実験も進めたい。

農地が広がって食料生産量が増えれば、輸出量を増やして貿易で領の収益が増やせる。

おカネが有れば領軍の予算が増やせて人も増やせる。

ウォーレス領が強大になれば、余裕を持ってカリーク公王国の侵攻を弾き返せるし、将来的な勇王国の侵攻にも備えられるよ。

折角、本音で話したのに、微妙そうな表情になったカレリーヌ様は首を傾げた。