作品タイトル不明
それぞれの対決 ④
騎士団長閣下の目が王様へと向く。
「やれることが有るとすれば、エンツェンスの取り潰しとクローゼリス家の次男の処罰、流通経路と思われる貴族家を領地替えするぐらいか?」
「襲撃犯の生き残りが吐けばエンツェンス家は潰せるが、現時点では想像の域を出ない以上、流通経路になる領地の領地替えも理由付けが難しいな」
王様が首を振って答えるのを見届けたカレリーヌ様が、控えているメイドさんたちへと目線を移した。
「レーテ。ハリエット男爵家はどうなったの?」
「は、はい。エンツェンス家の後に領地替えを頂けるので有れば、父は“保守派”へ鞍替えすると。確約を取ったとファーレンガルド卿から聞いております」
話を振られたレーテさんが、肩身が狭そうに体を縮こめて答える。
レーテさんの実家は”融和派”だったよね。
アレイオス叔父様は”融和派”の後に”融和派”を据えた上で、派閥を乗り換えさせたってことか。
何かの思惑が有ってのことだろうけど、何で、そんな回りくどいことを?
「では、エンツェンス家とクローゼリス家の傍系を廃して、ハリエット家をクローゼリス家の下に付ければ、最低限の防衛体制は構築できそうだな」
「冒険者ギルドの支部をハリエット領に置いてやれば、それなりの利益を落としてやると同時にハリエット家の監視も出来るだろう」
騎士団長閣下に王様が同意する。
冒険者ギルドの支部?
王様は騎士団長閣下が冒険者ギルドを掌握する案を前提にしてるよね。
騎士団長閣下も否定しないってことは、内諾しているか、覚悟が出来ているか、だよね。
それに、監視ってことは、鞍替えするレーテさんの実家を信用してはいないのか。
鞍替えさせることが目的? ”融和派”の分断と勢力切り崩しかな?
レーテさんの実家がバルトロイ様の監督下に入れば、テレサの側近としてレーテさんの立場は安定するかもだけど、騎士団長閣下は防衛態勢って言ってたよね。
記憶の中から、お婆様の授業で習った王国東部地域の地図を引っ張り出してみる。
ウォーレス領の北隣が旧コーニッツ領で、その北隣が旧ムーア領。
その北隣に、何とか言う”中立派”領地が有って、その領地はお母様たちが出兵したときに犯罪者を見せつけつつ通ったら、”融和派”寄りだった先代が隠居させられて“保守派”寄りの領主に代替わりしたとか。
その”中立派”領地の北隣に有るのがミリア叔母様夫妻のファーレンガルド領だったはず。
ファーレンガルド領の北隣には、また何とか言う”中立派”の領地が有って、そのまた北隣に”融和派”の領地が有って、そのさらに北隣にバルトロイ様の実家のクローゼリス領が有るんだよね?
クローゼリス領の北側は、ずっと”保守派”と“保守派”寄りの”中立派”領地ばかりが続いたはずだから、レーテさんの実家が領地替えになる予定のエンツェンス領っていうのが、バルトロイ様んちの南隣の”融和派”領地で確定だろう。
王国東部地域の”魔の森”に面した領地は、“保守派”と“保守派”寄りの”中立派”しか居なくなるのか。
派閥の分布って地図で見る限り、強い領地に近隣の領地が引き摺られる傾向が有るように思う。
“保守派”と”中立派”に囲まれた中にエンツェンス領という”融和派”領地がポツンと一つだけ。
バルトロイ様んちとミリア叔母様んちの間に挟まれて、よくも”融和派”に属していられたものだと思うけど、主義信条は周囲の傾向だけに引き摺られるものでは無いから、そんなことも有り得るのかな。
いや、逆か。アレイオス叔父様とミリア叔母様のお二人でファーレンガルド家を“保守派”寄りに引き寄せたから孤立した?
反対側の領主が変わった”中立派”の領地は、お母様が脅すまでは”融和派”寄りだったわけだしね。
リバーシみたいな陣取りゲームだな。
お母様とミリア叔母様たちがファーレンガルド領周辺の”中立派”を”保守派”寄りに変えて、残った”融和派”領地を、“保守派”に乗り換えたレーテさんちと入れ替えてバルトロイ様んちの配下に置く。
リバーシで言えば、盤面の端っこ一列を全て同色で塗り揃えるのに成功したわけだ。
盤面が有利に進んだのに、カレリーヌ様はお気に召さないっぽい?
「クローゼリス家の方は、クレアに差配させるつもりだったけれど、今ひとつ弱いわね」
「クレアなら傍系の始末ぐらいは付けるだろう」
クレア様って人がどういう人なのかは分からないけど、王様の意見に、渋い表情のカレリーヌ様が首を振る。
「バルトロイが今ひとつ抜けてるのよ。あの子は魔法術式以外のことには興味が薄いから、社交も苦手だし。クレアももう歳だから、家中の引き締めぐらいしか期待できないわ」
「「「ああ・・・」」」
王様と騎士団長閣下とハロルド様の声がダブった。
「あれは、あれで、優秀な男なのだがなあ」
「ただの魔法術式バカでは東部地域を纏め切れないわ。クレアも困り果てていたけれど、優秀な伴侶にバルトロイの手綱を握らせる必要が有るわね」
聞いた感じ、クレア様という方はバルトロイ様の家の人で、もしかすると、バルトロイ様のお母様か何かかな?
「ううむ。まあ、そうだなあ」
「フレイア。アンリカを出しなさいな」
唸る王様から視線を移してきたカレリーヌ様の一言に、ノーアを撫で回して無関係を装おうとしていたお母様が、目元に手を当てて溜息を吐く。
ハロルド様も諦めた感じで目を閉じる。
普段、見られない感じのお母様の反応に、王様と騎士団長閣下が首を傾げた。
「アンリカ? フレイアの側近のアンリカ嬢のことか?」
「バルトロイがアンリカに求婚したのよ」
「「はあ・・・」」
カレリーヌ様による暴露に、「またか」と言いたそうな表情で、王様と騎士団長閣下が脱力する。
いくらか精神的に立て直したらしいお母様が、呆れた目でカレリーヌ様を見る。
「今日の今日で、何で知ってるんだ・・・」
「王城の中で起こったことが、私の耳に入らないわけが無いでしょう」
「まだアンリカ自身の意志を聞いていない」
お母様の回答に、カレリーヌ様が目元を厳しくした。
「悪い話では無いでしょうに。あれほどの子を安物の家に出すなんて許さないわよ」
「分かった。アンリカと話すから時間をくれ」
白旗を揚げたお母様にカレリーヌ様が追撃を加える。
「交換条件の方は、どうなっているの?」
「エゼリアとも、まだ何も話していない」
「・・・エゼリアさん? 交換条件?」
また、思ってもみなかった人の名前が出たな。
何の条件だろう?
ポーカーフェイスを装うとしているけど、放っている空気から、お母様が困っていることは分かる。
助けに入りたいけど、何の話なのかが分からないから切り込みようが無い。
お母様が困っているのを分かった上でか、溜息雑じりにカレリーヌ様が首を振る。
「全く・・・。暢気に構えていられる状況では無いのよ?」
「分かった。分かっている。―――レーテ、エゼリアを呼んできてくれ。それと、エゼリアに“アレを持ってくるように”と伝えてくれ」
観念したようにお母様が溜息を落とし、控えているメイドさんたちの中で、名前を把握していることがご指名の理由だろうレーテさんに、苛立ちが混じった声を掛けた。
「アレ、ですか?」
「そう伝えれば分かる」
「しょ、承知しました」
よせば良いのに余計な質問を加えたことで、お母様の声に苛立ちの色が濃くなって、藪蛇に気付いたレーテさんが慌てて執務室を出て行った。
レーテさんの後ろ姿を見送って、軽く首を振ったカレリーヌ様が目線を巡らせる。
「さて。ドネルク」
「な、何だ?」
さらに目力を増したカレリーヌ様に、騎士団長閣下がタジタジで返事をする。
「貴方の伴侶を決めるわよ」
「おいおい。今は、そんな状況では―――」
「こんな状況だからです」
ピシャリと断じられて騎士団長閣下が封殺されたところに、王様が乗っかりに行った。
「ドネルク。其方に冒険者ギルドの掌握を任せる」
「騎士団長の任を離れると同時に侯爵家を興しなさい。家人は私が用意します」
「決定事項、というわけか」
王様の後を受けたカレリーヌ様が畳み掛けて、諦観を滲ませた騎士団長閣下が天を仰いだ。