作品タイトル不明
それぞれの対決 ②
スウッと血の気が引いた。
ちょっ! もしかして、ルナリア、直系では無くとも尊属なのに、相手が誰だか分かってない!?
これは拙い!
お母様が一目置くほどの人のご機嫌を損ねたら、どんな不都合に見舞われるか分からないよ!
ご婦人の目がルナリアを見定めるように留まっている。
これは本当に拙い!
情報に携わる方だからこそ、評価が辛口である可能性が高い!
この方がセリーナ様と同じ感性の方だとしたら、間違いなく評価を下げられて、勉強不足だと各方面からお叱りを受ける!
仕方ない! ここは勝負だ!
一歩、前へ出て、バルトロイ様を真似て、右手を胸の下へ。
左手を後ろ腰へ回して、30度ほどの確度で優雅さを意識して、ゆったりとした動きで頭を下げる。
お母様たちと同じく、男性貴族式の礼だ。
「・・・恐縮ながら、失礼いたします。カレリーヌ・リヒテルダート様」
「あっ」
出来るだけ聞き取りやすく口に出したご婦人のフルネームを聞いて、ルナリアが小さく声を上げた。
思い出してくれたか。
良かったよ。
後は、どうやって私がご機嫌を損ねずに逃げ切るかだな。
「・・・フレイア・ピーシスが養女、フィオレ・ピーシスにございます。お許しもなく、ご挨拶をさせて戴きますこと、先ずは、お詫びさせてくださいませ」
「―――ふむ・・・。ギリギリ、及第点ね」
見定めるような目が私へと向いている。
「・・・はい。申しわけ―――、ん? 及第点、ですか?」
「まあ、良いわ。ルナリア」
私の疑問は、耳に入っても居ないように流されて、カレリーヌ様は、再びルナリアをロックオンしている。
「は、はい! お初にお目に掛かります! ハロルドの娘、ルナリアにございます!」
「この子のこと、大切になさいな」
「はい!」
直立不動で応えたルナリアに一つ頷いたカレリーヌ様は、スッと王様へと視線を移す。
あれ? それで終わり?
お叱りが無かったのは良かったけど、何とも消化不良な終わり方でスッキリしない。
怖いから追い掛けて確認したりはしないけどね。
黙って成り行きを見守っていたらしい王様が、カレリーヌ様から視線を向けられたことに気付いた。
カレリーヌ様から視線を切った王様が、低く手のひらで示す。
「皆、掛けてくれ」
「それで、祖母君? 騎士団で身柄を押さえた襲撃犯どもは、まだ口を割っていないが、バルトロイの件で何か情報が有ったのか?」
腰を下ろした騎士団長閣下がカレリーヌ様に視線を戻す。
「忌々しいことにね。暗殺者は西方諸国で雇われた者よ」
「やはり西方の者だったか」
ご機嫌の悪さを如実に表すカレリーヌ様の目差しを受け止めて、騎士団長閣下は動じる様子も無く肩を竦めて返した。
そりゃあ、犯人が持っていた武器や魔法道具から、西方諸国との繋がりに疑う余地はなかったからね。
でも、それだけでは、バルトロイ様と西方出身の暗殺者との関係性が分からない。
騎士団長閣下の反応を置き去りに、カレリーヌ様が言葉を繋ぐ。
「通り名は“隠者”ですって。それなりに名の通った暗殺者だったことを、ミリアの手の者が掴んだわ」
「忌々しい、とは?」
その言い方だとフリーランスの暗殺者だったのか。
ハロルド様が気に掛かっていたらしいカレリーヌ様の言葉の意味を問う。
「セリーナがアレイオスに、エンツェンス家の領地替えを、させに掛からせたでしょう。抵抗を試みたエンツェンス家に、クローゼリス家の傍系が引っ掛かったのよ」
「エンツェンス子爵家? エンツェンスというと、東部の“融和派”だな」
フリーランス暗殺者を雇ったのは、バルトロイ様の家の傍系ってことだろうか?
「事件はクローゼリス家の内輪揉めだと?」
ハロルド様が首を傾げる。
アレイオス叔父様が“魔の森”利権から“融和派”を弾き出すために、領地替え工作を仕掛けたと。
セリーナ様とミリア叔母様がヤル気になってたからね。
でも、んん?
仕掛けられた“融和派”がバルトロイ様の親戚に泣き付いた、ってこと?
バルトロイ様の家って“保守派”って聞いた気がするけど。
私と同じ理解に至ったらしいハロルド様の首の角度が更に傾ぐ。
「“融和派”が“保守派”の傍系を唆して暗殺者を雇わせたと?」
「利害の一致でしょうね。それに手を貸したのがロンドベールなのよ」
ロンドベール家って、冒険者ギルドの話で名前が出て来る家だよね。
ハロルド様が怪訝そうに眉根を寄せた。
「クローゼリス家の傍系とロンドベールに何の利益が?」
「バルトロイの従弟は中立的―――、いいえ、融和的と言った方が良いわね。そして、その従弟はクローゼリス家の次男と同年で仲が良いのよ」
うーん・・・?
バルトロイ様の弟さんが、仲の良いリベラルっぽい従兄弟に流されて、“融和派”の居座りに協力しそうだ、と。
で、その従弟はバルトロイ様が邪魔だから暗殺して、バルトロイ様の弟を次期当主にしようとした、と?
立場が変わったことを報告するために家へ帰ったバルトロイ様は、家に帰ったら修羅場が待ってるのか。
戦争から開放されたばかりで、暗殺されそうになったばかりなのに、可哀想に。
しかも、お母様の後の特務魔法術師まで押し付けられたなんて、心の中でバルトロイ様の成仏を願って手を合わさざるを得ない。
「目的は“保守派”の突き崩しか?」
「バルトロイが居なくなればクローゼリス家が“中立派”―――、“融和派”に転ぶ可能性が有るのか?」
ハロルド様は情報を整理するように視線を宙へ泳がせる。
んーっと・・・。
ロンドベール家って、“中立派”じゃ無かったかな。
確か、お母様たちが戦争で、真っ先に攻撃した公爵家って聞いたはず。
バルトロイ様の家が“中立派”もしくは“融和派”に変わったとして・・・。
そもそも、何で、”融和派”が”保守派”を調略することに”中立派”が手を貸すの?
ハロルド様の疑問にカレリーヌ様は答えていないよね。
ロンドベール家への敵意を煽るために名前を出したような雰囲気では無いし、ロンドベール家の意図をカレリーヌ様も掴めていない?
情報が事実だとして、ロンドベール家の利益は、どこに有るんだろう?
お母様に攻撃されたことで”保守派”に敵意を持った、とか?
怨恨が理性を失わせる、ってのは有りそうな話では有るけど、それだけだろうか?
イマイチ、納得が行かないな。
騎士団長閣下とハロルド様も腑に落ちていない感じか。