作品タイトル不明
それぞれの対決 ①
「来たか」
すでにソファーセットに腰を下ろしていた王様が目線を上げた。
進み出てきた別のメイドさんがハロルド様とお母様を誘い、さらに別のメイドさんがテレサと騎士団長閣下を誘導していく。
私たちは、どうすれば良いのかと迷ったら、予想していなかった人から声を掛けられた。
「ルナリア様とフィオレ様は、こちらへ」
「・・・レーテさん!」
「レーテじゃない!」
私だけではなくルナリアも気になっていたみたいで、つい、大きな声を出してしまった。
少しだけ痩せて―――、訂正する。
“やつれて憔悴した感じ” のレーテさんが、儚げな笑みで立てた指先を唇に当てる。
「「あっ」」
ヤバっ! 子供のノリで騒ぐのが許される場じゃ無かった!
慌てて自分の口を塞いだルナリアと私は、レーテさんに三人掛けのソファーへと先導される。
生存確認はできたけど、テレサの侍女で、王命による“訓練”で行方不明になっていたレーテさんが、どうして、情報分野のボスと一緒に現れたのかが分からない。
今はレーテさんの口から聞けそうな状況では無いから、私たちも口をつぐむしかない。
先日、拝謁でお邪魔した際には一人掛けと三人掛けのソファーが2脚ずつ、ローテーブルを囲んでいた配置が、今日は、向かい合わせに置かれた一人掛けが2脚ずつの4脚と、向かい合わせに置かれた三人掛け2脚が、円を描くように配置されている。
人数に合わせて家具の数や配置を変えるのかな。
ローテーブルは無くて、無くなったローテーブルの代わりに、各ソファーの脇には小さなサイドテーブルが添えられている。
ルナリアと私が案内されたソファーの向かい側に位置する三人掛けソファーの前には、ハロルド様とお母様が腰を下ろさず立っていて、片側の一人掛けソファーの前にはテレサと騎士団長閣下が腰を下ろさず立っている。
その様子を見れば、挨拶が終わるまでは腰を下ろしてはいけないのだろうと想像が付く。
王様は兎も角、私たちが来るのを待ち構えていた”別の人”も腰を上げないのだから、騎士団長閣下よりも立場が上なのだと、嫌でも分かる。
ルナリアと私が配置についたと認めた騎士団長閣下が頭を下げる。
「久方ぶりだ。 祖母君(おばぎみ) 」
「 偶(たま) には顔を見せに来なさいな。ドネルク」
騎士団長閣下に応えたのは、王様と並んだ配置の一人掛けソファーで優雅に腰掛けている老婦人だ。
落ち着いていて張りのある女声に老いは感じられず、穏やかに微笑んでいるように見えて迫力のある目差しには、セリーナ様と相通ずる目力がある。
髪は真っ白だけど、重ねた年輪を感じさせる肌も、シワくちゃ、って感じでも無いし、若い頃は相当な美人だったのだろうと思わされる。
「なかなか時間が作れなかったものでな」
「そういうことに、しておいてあげるわ」
バツが悪そうにしているしている騎士団長閣下を放置した老婦人の目線が、テレサへと移る。
在り在りと緊張の色が見えるテレサが見事なカーテシーで一礼をする。
「お久しぶりにございます。 曾(ひい) お婆様」
「半年ぶりかしら。テレサ」
「はい」
テレサの挨拶に老婦人が目を細めて微笑み、テレサもふわりと笑みを返す。
この笑顔に関しては、老婦人もテレサも営業用スマイルでは無さそうだよね。
「治癒術式を修めたようですね。アマリリアのこと、よくやりました」
「お褒めに預かり、ありがとう存じます」
“祖母君”に“曾お婆様”か。
この方が、お母様たちの言う“あの方”。
聞いたことの有る範囲で、私の記憶に思い当たる方は、お一人しか居ない。
実のご兄妹である騎士団長閣下と王妃様の“ 祖母君(おばあさま) ”で、テレサの“曾お婆様”。
王様から見れば奥様のご実家、リヒテルダート公爵家の先々代ご当主の奥様だ。
また、セリーナ様にとっては“叔母様”で、ハロルド様の“大叔母様”。
セリーナ様の社交のお師匠様で、確か、お名前は、カレリーヌ・リヒテルダート様。
王妃様とミリア叔母様からすれば、お師匠様のお師匠様で、もしも、私の予想通り、ミリア叔母様たちが間諜を使った情報畑のお仕事をしているのなら、お母様が反抗しないほどの影響力を持つ“情報分野のボス”と言われても、しっくり来るね。
要するに、「怖い人」なわけだ。
「ご無沙汰いたしております。大叔母上」
「此度の兵役、ご苦労でしたね。ハロルド」
カレリーヌ様の深緑色の目がハロルド様を捉える。
「いいえ。ウォーレスの務めなれば」
騎士団式では無く、男性貴族式の挨拶で頭を下げるハロルド様に、カレリーヌ様が鷹揚に頷く。
ハロルド様に続いて、お母様も男性貴族式でスッと頭を下げた。
「お元気そうで何よりです」
「貴女は、もう。素っ気ないわねえ、フレイア」
「何分、武門の娘にて」
カレリーヌ様がそう言うのも仕方ない素っ気なさでお母様が応え、数瞬、目を伏せたカレリーヌ様が頷く。
「そう・・・。そうね。これまで、長きのお務め、ご苦労でしたね」
「いいえ。我らピーシスは王国の剣であり、ウォーレスの剣ですから」
最後まで素っ気ない口ぶりのお母様が挨拶を終え、カレリーヌ様の視線がルナリアと私の方へと向く。
見ていた限り、立場が上位の人から順番に挨拶をしていることが分かる。
だとしたら、次はルナリアの―――。
「・・・・・」
「・・・―――!」
宙に視線を漂わせて記憶を探っている様子のルナリアは、自分の順番が回ってきていることに気付いていない?