軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変化のとき ⑫

すんなりと納得したルナリアと、何かを心配したらしいテレサと、肩を並べ、観客席の部屋を出る。

テレサの表情が気になったけど、王家の事情に関わることかも知れないから聞き辛いな。

騎士団長閣下とハロルド様を先頭にした私たちは、先導メイドさんの後ろに付いて長い廊下を歩く。

ちょっと前から気になっていたのは、私の中で“王女殿下親衛隊”の仮称が定着しつつある騎士団の騎士様たちが、観客席を出てからもテレサの後ろに付いて守っていたのに、今も、3階層まで来たらテレサに一礼して、残念そうな表情で訓練場へと戻る階段を降りていったことだ。

「・・・いつもの騎士さんたちは付いて来ないんだね?」

「彼らは王都騎士団の所属騎士で、王城の上層階は近衛騎士団の管轄なのです」

「・・・じゃあ、上層階に居るときは、テレサの護衛は居ないの?」

テレサは黙って頷く。

それ、困るんだけど。

ピーシーズから誰かを出さなきゃいけないプレッシャーが高まる中、交代要員が居ないとテレサの護衛に就く選抜者が苦労する。

テレサの安全も心配だけど、ピーシーズからの選抜者が苦労するのが分かっているなら看過できない。

「私の専属騎士として指名すれば、上層階へも入れるようになりますよ」

「・・・なんで指名しないの?」

だったら、指名しようよ。

仮称“親衛隊”の騎士様たちも、さっきの表情を見る限り、指名されることを望んでいると思う。

テレサと一緒にレティアで過ごしたあの人たちならピーシーズと面識が有るし、連携も取れるはず。

困った感じでテレサは微笑む。

「ただでさえお忙しい叔父様の部下ですから、なかなか言い出しにくいのですよ?」

「・・・テレサの部下になったところで、テレサは王様の娘なんだから、王様の部下じゃ無くなるってわけでも無いよね?」

粘るなあ。

私も粘るよ?

社員は社長が雇った部下だけど、部長の下に付けたからといって社長の部下じゃなくなるわけじゃない。

ピーシーズだって、そうだ。

ピーシーズの上司が私でも、雇い主で有る領主はお母様で、私は中間管理職のようなものだ。

私のツッコミにテレサが思案顔になる。

「それもそうですわね。お父様に相談してみます」

「・・・うん。そうしてみて」

ヨシ、テレサが折れた。

私の方からも王様に推してみよう。

ハロルド様やお母様なら、お婆様たちからセリーナ様の意向を聞いているだろうから、援護してくれるはず。

護衛と言えば、もう一つ気になることがあったな。

「・・・そう言えば、レーテさん、見ないよね」

「レーテは・・・。訓練だとかで、王都へ帰って直ぐに、お父様から命令が有ったそうですわ」

は? 侍女に何の訓練?

再教育ってことかな?

レーテさんは気絶も上手いし、王宮関係ではテレサが頼るぐらいには知識が豊富だし、それ以外の部分ではテレサの指示を待つまでも無く先回りしてテレサのお世話をしているから、侍女の仕事に不足があるようには見えなかったけど。

あれ? 気絶するから再教育?

しょっちゅう気絶して主の足を引っ張るのは問題が有ると思うけど。

でも、再教育で気絶しなくなるんだろうか?

「・・・テレサも、よく知らないの?」

「誰も教えてくださらないのです」

王女であるテレサの質問に、王城に勤める人が答えない?

社長命令の中身を社長令嬢の質問でも答えないってことは、業務に関わることだから、ってこと?

教えるな、という王様の命令が下っている?

それとも、何か他の事情が有って話さないとか?

何だ、その状態?

臭い! 臭すぎる!

「・・・訓練、ねえ・・・?」

ただの侍女に王命で、ってのが臭い。

直接の主で有るテレサにも詳細を明かさないで、ってのが特に臭い。

レーテさんって、貴族家の子女って聞いたけど。

それって、レーテさんの立場はルナリアや私と同じってことじゃないの?

親も了承済み?

そうじゃ無ければ、別の問題が起こらない?

抱いた腑に落ちない感覚は、テレサも私と同じなのだろう。

あの王様だからなあ。

宰相さんも曲者っぽいし、テレサに与えられる情報の少なさは、その辺りも関係しているんだろうなあ。

この辺りの不透明さが原因で、観客席の部屋を出るときからテレサの様子がおかしかったのか。

雑談しながら先導されて廊下を歩いていたら、王族居住区画の入口を守っている騎士様二人が見えてきた。

あの二人の手前の曲がり角でノーアとピーシーズは待機部屋へと案内されるから、一時のお別れだな。

お母様も同じことを考えた様子で、抱いているノーアをアリアナさんに手渡そうとした。

そのお母様を制したのは先導メイドさんだった。

「お待ちください。どうぞ、そのままで」

「フィオレの護衛騎士も、来いと?」

怪訝な表情になったお母様とハロルド様が首を傾げる。

騎士団長閣下は難しい顔だ。

「そのように聞いております」

「分かった」

深い溜息を吐き出したお母様が先導メイドさんに従い、口を開きかけたハロルド様が、そのまま口を閉じる。

つまり、ピーシーズにも用が有ると?

「・・・うわあ・・・」

「どうしたの?」

思わず心中が漏れた私の様子にルナリアが首を傾げる。

「・・・何やら揉め事の予感がするよ」

「奇遇ですね。私もです」

「むっ!」

難しい顔になったテレサの様子に、ルナリアも異変の発生に気付いて表情が引き締まる。

揉め事というか、波乱の予感しかしない。

王様の執務室に出頭を命じられたようなものだから、突然のことでピーシーズも顔色を悪くしている。

そりゃあ、ピーシーズも気付くよね。

呼び出したのは自国の最高権力者で、済し崩し的にでは有るけど、今までも最高権力者の娘を自分たちが護衛する結果になっている。

大きな失敗をした覚えは無くても呼び出される理由に心当たりが無いのだから、悪い方向での想像をしてしまうのも仕方ないだろう。

先導メイドさんは真面目にお仕事に励み、警備任務中の騎士様二人の間を抜けた私たちは、別の騎士様二人が両脇に立っている扉の前へと到着した。

前回、訪れたときには先導メイドさんと警備している騎士様たちの間で来客の到着を告げる遣り取りが有ったのに、今回は、私たちが扉の前で足を止めると同時に、騎士様の一人が扉をノックした。

室内から男声の返事が帰ると同時に観音開きの扉が静かに開かれる。

室内側から扉を開けたのは二人のメイドさんだ。

二枚の扉をそれぞれに開けたメイドさんたちが通り道を開けて両脇へと下がる。

先導メイドさんも脇に避けて「入室しろ」とばかりに手のひらで指し示す。

騎士団長閣下とハロルド様を先頭にした一団がぞろぞろと扉を潜り、最後尾に付いていたナンナちゃんとアイシアちゃんが入室すると背後で扉が閉められた。