作品タイトル不明
変化のとき ⑪
反射的に体内魔力を活性化させて身体強化魔法の発動に備える。猫耳ミサイルの着弾で、ズズッとブーツの底が数センチメートル後退した。
「ねえさま」
パタパタと猫耳を動かしたノーアが私のお腹に抱き付いて見上げている。
「・・・おおっと。ノーア、狭い場所でドーンは危ないよ?」
「にゃふ」
横合いから弾丸みたいに飛んできたノーアの、耳の後ろにぐりぐりと頬ずりしたら、くすぐったそうにノーアが身を捩る。
ここ数日、次から次へと何かが起こるものだから、あんまりノーアと一緒に居られる時間を取れて居なかったからなあ。
ずっと一緒に居たピーシーズから遊びの延長線上で効率的な身体強化魔法のコツを教わっていたみたいで、ここ数日、ノーアの体当たりが鋭く速くなりつつ有る。
マーミナさん、マーリカさんの例から、獣人族はフィジカル寄りが得意分野だということは、私もよく理解している。
ノーアもそうなりそうな気配がひしひしと伝わってくるので、先ずは、得意分野を伸ばしてあげる方がノーアのためになると信じて、口出ししないようにしていた。
「こぉら、ノーア。そういうことは、広い場所でやれ」
「にゃはははは!」
私に抱き付いているノーアの脇の下に指先を立ててガッシリと掴まえたお母様が、くすぐったさに悶えて笑い声を上げるノーアをヒョイと持ち上げて攫っていく。
肩に担がれていく姿は完全に玩具だけど、ノーアが喜んでいるからOKだな。
「お帰り! フィオレ!」
「実験は上手く行ったようですね」
宙を飛んで行ったノーアに代わって飛び付いてきたのはルナリアだ。
明るい表情で軽く片手を挙げたテレサも一緒にやって来る。
「・・・ただいま。お母様が一緒だったからね」
「あの魔法道具、凄いわよね!」
ぴょんこぴょんこと跳ねるルナリアの様子に私も笑みが浮かぶ。
「ここから見ていても、消えたり出て来たりと不思議でしたわ」
「・・・すぐ傍で見ても全く見えなくなるからね」
ああいうの、わくわくするよね。
目を輝かせて居るルナリアも、わくわくする気持ちを抑え切れていない。
「わたしも消えてみたいわ!」
「・・・ふっふっふ。研究資料で借りられるから、レティアへ帰ったら試してみれば良いよ」
「そうね! 楽しみにしておくわ!」
ルナリアの喜色と正反対に、憂いの気持ちを隠し切れていない表情を浮かべるのはテレサだ。
「結局、あれって“遺物”でしたの?」
「・・・そうだろうね。同じ魔法道具を持った敵が来ることは無いと思うよ」
「それなら、安心ですわね」
ターゲットにされる側のテレサたちは、そりゃあ、次の暗殺計画を心配するよね。
そんなものの量産を、騎士団から要望されているわけだけど。
でも、私は簡単に量産できる魔法道具では無いと感じている。
地球の技術でも、鋳造であれ、鍛造であれ、一枚の金属塊の中に絶縁素材も無い別の金属で回路を構築するなんて、簡単なことでは無いと思うからだ。
「・・・騎士団の人たちから、複製してくれって頼まれたんだけどね」
「騎士団が、欲しがるの?」
不思議そうにルナリアが首を傾げる。
「・・・見えない兵士が、そうっと後ろから近付いてきてたら防げる?」
「あっ。そっか」
騎士団のオジサンが提案した使い方を説明すると、ルナリアの頭上の裸電球にパッと明かりが点ったのを幻視した。
「欲しがる気持ちは分からなくもないですけれど、出来ますの?」
「・・・無理じゃない? 正直、出来る気がしないし」
懐疑的に言うテレサの意見に同意する。
「“刻印術式”が、ですか?」
「・・・それも有るけど、鍛冶技術が、たぶん無理だと思う」
テレサの口から”刻印術式”の名前が出たのは、お母様たちが”刻印術式”の話をしているからだろうか。
正直な私の所見で答える。
「鍛冶が、ですか?」
「なんで、鍛冶?」
テレサとルナリアから、二人そっくりに首を傾げて同じ質問が返ってきた。
この仲良しさんめ。
「・・・あれって、1枚の大きな硬貨というか、金属の塊みたいな形なんだけどね。金属の中に金属の仕掛けが有って、どうやって作ったのかが分からないんだよ」
「金属の塊の中に金属? んん?」
「私たちには分からなくても、ドワーフ族の鍛冶技術なら? ですか」
今、口に出した通り、どうやって作ったものなのか私にはサッパリ分からない。
同様の魔法道具で在るはずの、お母様の剣の複製が、王国の鍛冶師では出来なかった実例が有るのだ。
その製法が分かる可能性が有るとすれば、優れた鍛冶技術を持つというドワーフ族ぐらいでは無いかと私は考えている。
「・・・おかしなことは考えるな、って、お母様に叱られたんだけどね」
「考えたくなりますけれど、仕方ないですわね」
だよね。
ここは同志と握手でも交わしておくべきだろうか?
「・・・うん。別の方法は考えるけどね」
口には出さない分別が有っても私と同じことを考えたらしいテレサと、苦笑を交わす。
そうは言っても、ドワーフ族の調達を諦めるだけだ。
魔法道具の製造方法―――、“刻印術式”の解析と複製を諦めるつもりは無い。
ずっと先延ばしになっていたピーシス領へ行く良い機会だしね。
お母様が集めさせた“エルフ族の文献”を見るのが楽しみで仕方がない。
ウォーレス領へ帰ったら計画を練らないとなあ。
諦めていないことが顔に出ていたのか、くすくすとテレサが笑う。
「フィオレの、そういうところ、好きですわよ」
「わたしも!」
「・・・ありがと。頑張ってみるよ」
三人で笑い合って居たら、ハロルド様たちとの情報共有が終わったらしい。
ノーアを抱き上げたままのお母様がハロルド様たちと一緒に戻って来た。
「そろそろ行くぞ」
「・・・うん」
私が気を引き締め直していたら、ルナリアが首を傾げた。
「どこへ行くの?」
「たぶん、王様の執務室? ルナリアも一緒に、だよ」
「わたしも?」
何やら怪しい気配を察知したのか、ルナリアの表情が怪訝なものになる。
「・・・王様に呼ばれてるんだよ」
「私もご一緒しますわ」
執務室と聞いた途端、深刻な表情になったテレサが声を上げた。