軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変化のとき ⑩

「要望としては聞いておく。だが、何も約束できんぞ」

「お、おう。分かった。それで良い」

一歩引いたお母様に、ホッと胸を撫で下ろして騎士団長閣下も引く。

私もホッとした。

出来る出来ないは別として、騎士団からの要望は要望だし、お母様の前で、直接、無理難題を口に出来る人なんて、そうは居ないのだろうし。

矢面に立って代弁しなきゃいけない騎士団長閣下も苦労してるっぽいね。

努力義務の範囲で収めた目標合意なら、私も、おかしなプレッシャーを感じなくていいかな。

インターネット掲示板でよく書き込まれていた、「信用してはいけないもの」ってネタを不意に思い出した。

4000年の国の人が言う「出来ました!」と、真ん中に挟まれている国の人が言う「出来ます!」と、日本人が言う「出来ません!」ってヤツ。

そう揶揄される日本人ビジネスマンの気持ちが、よく分かってしまった。

仕事で何を重視するか、って理念の差違だから、何が正しいかを議論するつもりはないけどね。

もちろん、手を抜くつもりはないけど、安請け合いをして、後で期待を裏切って信用を落とすぐらいなら引き受けない方が良いと考えてしまう私も、思考回路が日本人なのだろう。

「済まんな。フィオレ嬢」

「・・・いいえ。出来るだけ頑張ります」

私の心情を分かってくれたらしい騎士団長閣下が頭を下げてきて、私も苦笑で返す。

丸く収まりそうな雰囲気になったところで、王様が声を潜める。

「ドネルク、フレイア。この後、時間は取れるか?」

「また何か起こったのか?」

騎士団のオジサンたちにも聞かせたくい話かな?

ただ事ではない雰囲気に騎士団長閣下が表情を引き締め直して、お母様も目付きを鋭くさせた。

「いや。事件の背景に付いてだ」

「分かった」

王様は新たな事件の発生を否定したけど、用件は気を緩められるものでは無かった。

バルトロイ様を狙った真犯人の何かが分かったのかな? なんて、他人事の気分で居たら、王様の目が私に向いていた。

「フィオレ。其方もだ」

「フィオレもだと?」

お母様が、さらに目付きを鋭くする。

「・・・私もですか?」

えっ! 何で!?

驚く私を置き去りにした王様は、平然とお母様の視線を受け止めた上で、さらに、さらに、爆弾を放り込む。

「フレイア。ハロルドとルナリアも連れて来てくれ」

「どういうつもりだ?」

「そんな顔をするな。交換条件なのだ」

睨み付けるお母様に溜息で返した王様の一言で、騎士団長閣下が天を仰ぐ。

「あー・・・」

「あの方か・・・」

頭痛を堪えるように、お母様も、こめかみを揉む。

用件を伝え終わった王様は、片手を軽く挙げると、背中を向けて行ってしまった。

状況を把握して気を取り直した騎士団長閣下が、騎士団のオジサンたちに撤収の指示を出して、効果を停止させられた魔法道具がオジサンたちの手から片付けに集まってきた騎士様の手に渡り、“回路”の写しと一緒に回収されていった。

騎士団長閣下もオジサンたちと一緒に撤収していく。

あの魔法道具も写しも王宮側で記録を残した上で、私たちがウォーレス領へ帰るまでには、私の手元へ戻ってくると聞いている。

作業台の方も別の騎士様たちがテキパキと片付けを始めている。

こりゃあ、このまま王様の執務室へ連行される流れだな。

聞くのが怖いけど、今のうちに聞いておいた方が良さそうだ。

「・・・お母様。”あの方”って?」

「この上なく面倒くさい方だ。だが、お前も一度、会っておいたほうが良い」

「・・・ええ・・・」

面倒くさい方、なんて言われたら会いたくなくなるよ!

「面倒くさくは有るが、伝手を持っておけるかどうかで社交の場で大きな差が生まれる」

「・・・社交の・・・?」

社交での大きな差?

国家レベルの政治を左右するのが社交の場で、大きな差―――、優位性を得られるかどうか、って意味かな。

社交の場は、情報と駆け引きで裏側から国の政策にまで影響力を行使する政治的交渉の場だよね?

もしかして、「あの方」って、情報―――、諜報関係の人?

「諜報」という単語で、ミリア叔母様とアレイオス叔父様の顔が思い浮かんだ。

あのお二人も間諜を使っていることには私も気付いていたし、お母様まで「伝手を持っておけ」と言うってことは、ミリア叔母様たちの親玉さん的な人なのかなあ・・・。

スパイ組織のボスからご指名とか、すっごく怖いんだけど、逃げて、どうなるものでも無いのだろうし、正々堂々と認めて貰って、味方に付けるのが最善策なのだろうね。

お母様が守ってくれているうちに、色々な人と接点を持っておくべきなのだろう。

ここは覚悟を決めて掛かるべきだ。

「交換条件」で王様さえ動かすほどの人なら、万一の際に、切り札になる可能性が有る。

「・・・うん。分かった」

「ヨシ」

気合いを入れて頷いたら、ぐりぐりが来た。

「取って食われるわけでは無いから、気負いすぎるな」

「・・・うんっ」

みんなが待つ観戦席の一角へ向かうのか、背中を向けたお母様の後を追い掛ける。

控え選手待機場所の出口まで迎えに来ていた先導メイドさんに、お母様がハロルド様たちと合流したい旨を伝えると、ニッコリと笑った先導メイドさんが背中を向ける。

また、ぐるぐると長い廊下を歩かされるのかと思ったら、騎士団の施設だからか、廊下へ出て直ぐの階段を上がると観客席の脇に出た。

まあ、普通は、こうだよね。

複雑怪奇な王城の構造を当たり前に考えてしまう私も、王城に毒されてきているのかも知れない。

お母様の後に付いて観客席の部屋へと足を踏み入れると、ピーシーズの隙間をスルリと抜けた小さな影が低軌道でジャンプした。