作品タイトル不明
変化のとき ⑨
「・・・魔法道具を停止させたいときには、効果範囲から出て魔法道具から離れれば、勝手に止まります」
「離れるのか?」
説明が雑で意味が伝わらなかったか、訝しげな騎士団長閣下の声が聞こえる。
「・・・使用者の魔力を魔法道具が吸い上げるんです。今のところ、他に止める方法が分かりません」
「魔力の供給が切れれば止まるのか。分かりやすくて良いな」
私の補足説明に、納得した雰囲気の騎士団長閣下の声が返ってきた。
「「「おお~!」」」
どうやら、騎士団長閣下が手近なオジサンの一人の手にメダルを握らせたようで、別のオジサンも消えたと思ったら、そのオジサンが消えた場所から少しだけ横へズレた場所に騎士団長閣下の姿が現れた。
お母様と私は試していなかったけど、使用者のバトンタッチが出来るのか。
魔法道具を起動した人の魔力を吸い上げているのではなく、効果範囲内で吸い上げられる一定量以上の魔力が無いと起動状態を維持できずに停止する、って感じかな?
「これは一体、どんな理屈で起こっている効果なのだ?」
「分からん。それが“遺物”というものだし、分からんから研究するんだ」
魔法道具を手渡し合って楽しそうに代わる代わる消えている騎士団のオジサンたちを眺めながら、騎士団長閣下に問われたお母様が肩を竦める。
一方で、オジサンたちは大盛り上がりだ。
「間諜に持たせれば、いくらでも敵の情報を抜くことが出来よう」
「いやいや、斥候に持たせて偵察に使わせるのが良いだろう」
「伏兵に持たせれば奇襲し放題だぞ。何せ,、防御のしようが無い」
「量産できれば要人暗殺部隊が作れるな。勇王国にでも送り込むか」
・・・さすが軍隊。
怖い使い方がポンポンと出て来るところが怖いなあ。
腕組みの難しい思案顔で顎先を撫でていた学術研究院のオジサンが、意を決したように王様へと向き直る。
「陛下。お願いがございます」
「申してみよ」
神妙な表情のオジサンに、王様がウソ臭―――、人の良さそうな顔を向ける。
この王様の表情・・・、ターゲットはこのオジサン?
「王宮に保管されている魔法道具を、改めて、調べ直させて見とう、ございます」
「良かろう。ワイス、其方には魔法術士団を率いて貰わねばならぬが、アカデミーと上手く連携せよ」
「はっ。御意に」
鷹揚に許可を出した王様に頭を下げたオジサンが、私へと振り返る。
「フィオレ嬢、だったな」
「・・・はい」
んん? お母様じゃなく、私?
「良い刺激になった。今後の君の活躍にも期待している」
「・・・ありがとうございます。ご期待に添えるよう頑張ります」
おや? 何やら好意的な反応?
オジサンの様子を見守っている王様が「仕方ないなあ」って目をしてる気がする。
「うむ。ではな」
私に向かってフッと笑みを浮かべたオジサンがお母様にも軽く手を挙げ、クルリと背を向けて去って行く。
その背中を見送ったお母様が目を丸くしている。
「アイツ・・・。少し変わったか?」
「・・・学術研究院の院長さん、だっけ?」
本当に驚いて居るみたいで、呆然と言うお母様の声が、いつもより少し高い。
一緒に見送る私の目には、去って行くオジサンの背中が、スキップでも始めそうなぐらいご機嫌に見える。
もしかして、王様、オジサンとお母様を仲直りさせようとしてた?
「アイツは、ワイス・ハーヴェリク、だ。バルトロイの後任で魔法術士団の団長を押し付けられるそうだから、今後、お前とも接点が有るかも知れん。頭が固くて面倒くさいヤツだし相手をする必要は無いが、名前と肩書きぐらいは覚えておけ」
「・・・わ、分かった」
私に目を戻してきたお母様に頷いて返す。
本人が居なくなってから紹介されるとは。
お母様、どれだけオジサンのこと毛嫌いしてたんだよ。
でも、覚えきれるかなあ?
最近、会う人が増えたから、あまり接点が無い人の名前は覚えているかどうか、自分でも怪しいんだよね。
お母様と私の遣り取りを見ていた王様が、お母様へとジト目を向ける。
「フレイア。お前なあ・・・」
「何か問題があるか?」
ありありと呆れを含んだ声で言われたお母様は、堂々と大きな胸を張っている。
「もう少し、マシな説明は、してやれんのか」
「事実だろうが。魔力制御技術は私よりも僅かに上だが、アイツは頭が固すぎて腕が上がらん」
首を振る王様に、お母様は不満そうにフンッと鼻息で返す。
「お前とバルトロイが飛び抜けて強力なだけで、ワイスも十分に強力な魔法術師ぞ?」
諭すように王様が言った。
王様の味方をするつもりは無いけど、聞き捨てならない一言が。
「・・・お母様よりも魔力制御が上手いって、それ、凄いことなんじゃ?」
「ん。まあ・・・、アイツから学び取れるものも、多少は有るかも知れんな」
私の視線にお母様は片眉を上げる。
「・・・機会が有ったら、ワイスさんに魔力制御のコツを聞いてみて良い?」
「好きにしろ」
ワイスさんか。ちゃんと覚えとこ。
ぐりぐりしているお母様と、ぐりぐりと撫でられている私のところへと、騎士団長閣下が戻ってくる。
「フレイア。フィオレ嬢」
「何だ?」
む? また私も?
今度は騎士団長閣下だ。
「あの魔法道具の研究をするのだったな?」
「コイツがな。言っておくが、これは報奨としての許可だ」
ポンと私の頭の天辺に手を置いたお母様の目が、スッと細められた。
バツが悪そうな騎士団長閣下が首の後ろを掻く。
「う、ううむ。そうか」
「で? 予想は付くが、聞くだけは聞いてやろう」
しっかりと釘を刺した上で向けられたお母様の目に、諦めた空気を纏いながらも騎士団長閣下は口を開く。
「騎士団からの要望でな。あの魔法道具の複製―――、量産品が欲しい」
「・・・ええ?」
さっき、騎士団のオジサンたちが列挙していた使用方法候補を耳にしていた私からしても、予想通りでは有ったけど、本当に予想通りの要望で、思わず声が出た。
期待されているのは分かるけど、古代文字の解析と回路の解析の両方をしなくちゃいけないのに。
どこまで解析できるかも分からないものを、複製して量産しろと言われても安請け合いできないよ。
私は言語学者でも無いし、専門知識を持つエンジニアでも無い。
素材の知識も無いから模倣できるかどうかも全くの未知数だからね。
無い無い尽くしなのに、勝手に期待値を積み上げられて、プレッシャーを掛けられても困る。
お母様も私と同じように思ったみたいで、スゥッと、さらに目を細めた。
一気に機嫌を急降下させたお母様が、一段と低い声を出す。
「“遺物”というものが、どんなものか分かった上での“要望”なのだろうな?」
「悪かった! 分かっている! 分かっているとも!」
無茶振りを指摘された騎士団長閣下が早々に白旗を揚げた。
騎士団長閣下に言わせた騎士団のオジサンたちも背筋が伸びている。