作品タイトル不明
変化のとき ⑧
魔法道具を弄くり回しながらお二人の遣り取りを聞いていた王様が、お母様へと目を向ける。
「それで、量産品の可能性は有ると思うか?」
「いや。“遺物”だろう」
即答したお母様へと一同の視線が集まる。
「これはフィオレも同じ意見だ」
「ふむ。フィオレもか」
王様の目線が私へ飛んできたので、コクコクと頷いておく。
私の反応を確かめた王様が、お母様へと目線を戻す。
「根拠は?」
「これを見ろ。魔法道具の“中”に刻まれた“刻印術式”だ」
お母様が示したのは、“回路”を写し取った3枚の紙。
「”刻印術式”・・・」
「これが、か・・・」
写しを手渡された王様を囲んで、ごくりと息を呑んだ一同が手元の紙を覗き込んでいる。
良く分からない図形が描かれた紙にしか見えない写しが、王様の手から騎士団長閣下たちの手に渡る。
みんな、初めて見るんだね。
どれだけ珍しい物なのかが、王様たちの反応から察せられる。
”遺物”と呼ばれる”本物”の魔法道具そのものが王国では稀少だし、表面を見ても目にすることが出来ない、その中枢の秘匿技術ともなれば、そりゃあ珍しいか。
「ううむ・・・。“中”、か」
王様が手にした魔法道具を指の甲でコンコンとノックするけど、中身の詰まった硬い音がする。
改めて、王様はメダルを矯めつ眇めつする。
「本当に、“表”側と“中”と“裏”側の三重になっているのか?」
「間違いない」
お母様の断言に、一同から小さく抑えた響めきが上がる。
「どう見ても、“中”に、そんなものが刻まれているようには見えんのう」
「問題は、これほど複雑な刻印を“中”に残したまま金属を打つ鍛冶技術を、神教会が持っているか、どうかだな」
王様たちと頭を突き合わせているお母様に声が掛けられる。
「フレイア卿」
「何だ?」
予想していたように、お母様は声の主へと目を向けた。
声の主は学術研究院の偉い人。
お母様に「黙っていろ」と言われていた、あのオジサンだ。
“回路”の写しの一枚を手にしたオジサンが、難しい顔をしている。
「こんなものを、どうやって読み取ったのだ?」
「魔力の違いを読み取ったのさ。発案者は、この、私の娘だ」
「“魔力の違い”だと?」
お母様にポンと、頭の上に手を置かれた私を、オジサンが見下ろしてきたので、お母様を見上げると、お母様は私に向かって頷いた。
首を傾げるオジサンに「教えてやれ」ってことかな?
このオジサンも魔法研究者なら、手取り足取りで教える必要は無いのだろうね。
難しそうな顔をしているけど、オジサンの目からは悪意や嫌悪感のようなものは感じられない。
お母様と仲が悪かった人、と思うと、ちょっと、身構えちゃうな。
この人も魔法オタクだとしたら、自分の信じる”信仰”と違う論理に反発する恐れが有る。
魔石使用法の情報は伏せておきたいし、ヒントぐらいで良いかな?
オジサンの目を、じっと見上げる。
「・・・自分の魔力と、他人の魔力って、違いますよね?」
「そうだな」
オジサンはコクリと頷く。
「・・・だったら、別の誰かに魔力を流して貰うなり、魔石の魔力を使うなり、魔法道具の中に流れている魔力を感じ取れば、魔法道具の“中”に刻まれている魔力の通り道は、感覚的に読み取れますよね?」
ハッと目を瞠ったオジサンは、一転、腕組みで思案顔になる。
「なるほど。本当に“魔力の違いを読み取った”わけか」
「・・・まだ、魔力の通り道を描き写しただけですから、この“刻印術式が、どういう理屈で働くものなのか、同じ物を複製できるかなどは、全く分かりませんけれど」
「確かにな。だが、簡単に複製できるものでは無いことは間違いなかろう」
「・・・はい。私も、そう思います」
オジサンが出した結論に、私も頷く。
なんだ。このオジサン、普通に会話が成立するじゃん。
でも、たぶん、私が頷き返したことも目に入って無さそうだよね。
目を伏せてブツブツと口の中で呟き始めたオジサンは思考に没頭しているらしい。
やっぱり、ただの魔法オタクっぽい?
お母様と衝突したのも、自分の信念に忠実だったから、かな?
自分の中で整合性が取れたのか、大きく頷いたオジサンは王様へと向き直った。
「陛下。私も、こちらの御令嬢と同じ意見です」
「この魔法道具は“遺物”なのだな。眠りを脅かされる心配が無さそうで、安心したぞ」
人畜無害そうな顔で表情を緩めた王様が、鷹揚に頷いて見せる。
そりゃあ、暗殺の可能性が下がるのだから本心では有るのだろうけど、騙されないよ。
この王様のことだから、何か別の思惑も有るんじゃないかな。
王様が魔法道具の評価を結論づけたことで、騎士団長閣下の視線が私へと移動してきた。
「ヨシ。では、殿下とクローゼリス卿が襲われたときの状況を検証してみるとしよう。フィオレ嬢、魔法道具の起動の方法と、停止の方法を教えてくれ」
騎士団長閣下が差し出してきたメダルの「空白部分」を指し示す。
「・・・この辺りの“中”に、この魔法道具を起動するための刻印が有ります。その刻印に魔力を流せば起動します」
「魔力を? ―――こう、か?」
指先に魔力を流したらしい騎士団長閣下の姿が、景色の中へ溶けるようにスッと消失する。
「「「「「おおっ! 閣下の姿が消えたぞ!」」」」」
「本当に消えているのか? 俺には分からんな」
声だけが聞こえる騎士団長閣下に向かって、私は腕を前へ真っ直ぐに伸ばすポーズを取って見せる。
「・・・こう、魔法道具を持った腕を伸ばしてみてください」
「ふむ?」
水面のように揺らいだ景色の中から、騎士団長閣下がニュッと現れた。
間近に不可思議な光景を目の当たりにした騎士団のオジサンたちが響めく。
「今度は閣下の腕だけが消えているぞ」
「か、閣下。 この辺りから閣下の腕が消えて見えるのですが、痛くは無いのですか?」
オジサンの一人が、騎士団長閣下の腕が消失している境目あたりを指さす。
「痛みは無いな。俺には、ちゃんと自分の腕が有るように見えているぞ?」
「ううむ・・・。何とも面妖な」
「何が、どうなって、こうなっているのか、サッパリ分からんな」
私たちが言っていたことと全く同じことを言っているのを見て、クスッと来る。