軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変化のとき ⑦

私は、といえば、理不尽への怒りと共に”不合理”を感じてしまっている。

世界に誇る日本文化―――、”勿体ない精神”だ。

今の私たちは”持たざる者”だからこそ、強く思う。

要らないのなら、くれれば良いじゃん、と。

「・・・何て酷いことを。ドワーフ族が居れば色々と作れそうなのに。王国へ持って来られないかなあ」

「お前。おかしなことを考えるなよ? 侵略戦争なんぞ許さんからな」

願望をそのまま口に出したら、お母様にジロリと睨み据えられた。

「・・・し、しません! こっちに来てくれるのを待ちます!」

「そうしろ。守る側よりも攻める側の方が多くの兵力が要るものだ。攻め込めば兵の損耗も増える。味方がバタバタと倒れても平静を保てるか? お前には向かん」

「・・・あう」

お母様の指に、ツンと額を突かれる。

「・・・それは、私にはムリ。確かに向かない」

「お前の“蒼焔”なら敵の防御術式ごと吹き飛ばせそうだが、戦争において魔法術式も万能では無いからな。この魔法道具でバルトロイが襲われたときにも、魔法術式では対応出来なかっただろう?」

おでこを押さえる私に、穏やかな声でお母様が指摘する。

「・・・うん。あ、そう言えば、私、ちゃんと防御術式って見たこと無い気が」

「お前の前でも何度か使っているぞ? お前が第1城門で“蒼焔”を使ったときにも使ったからな」

「・・・やっぱり・・・。迷惑掛けて、ごめんなさい」

お母様が何かをしてくれていたことには、何となく気が付いていた。

事件中、“恒星”―――、“蒼焔”を遠ざけたときに、退避距離が取れていなかったのに被害が小さかった気がしてたんだ。

あの切迫した状況でも、お母様は咄嗟の判断で防御術式を使っていてくれたんだね。

そのお陰で、私は無関係な人たちに大きな被害を出さずに済んだんだ。

また私は、知らない内にお母様に守って貰っていた。

考えていることが顔に出ていたのか、手を伸ばしてきたお母様にぐりぐりと撫でられる。

「誰にでも“初めて”は有る。身近な者が倒れることもな。慣れろ、とは言わんが、備えておく必要は有る。完全に防げるものでも無いが、防御術式も覚えておけ」

「・・・防御術式ってどういうイメージ? 盾みたいなものかな」

達観したように言うお母様の目には悲しみのようなものが含まれているように思う。

お母様も、誰か、身近な人を失った経験が有るんじゃないだろうか。

お母様の言葉に頷きつつも、話の腰を折らないように質問を返す。

「盾―――、というよりも、障害物かもな。近接距離なら盾で良いかも知れんが、術式の発現位置が術者から離れれば離れるほど、制御が甘くなるのは体感で分かるだろう?」

「・・・うん。感触が無くて距離感が掴みにくいから、目視できなくなると、もうムリ」

ちゃんと制御出来るものなら、毎回、ポロリしていない。

「その体感で離れた場所に盾を作ったとしよう。強固な盾になると思うか?」

「・・・たぶん、ムリかなあ。制御が甘くなるか、時間が掛かりそう」

イメージが出来ないな。

「私でも、そうだ。労力の割に1本矢が当たっても貫かれるような盾なら置く意味が無い。そうすると、何でも良いから固くて分厚くて早く作れるもの―――、単なる障害物になってくるんだ」

「・・・あ~。分かる気がする」

防御ってことは、一刻を争う状況で展開しなきゃいけない場面が多いはずだ。

想定される状況と出来ることを天秤に掛ければ、暢気に詠唱したりイメージを固めている余裕なんて無いんじゃないかな。

それじゃあ役に立ちそうに無い。

緊急性に対応するなら、魔力消費量を気にする余裕も無いはず。

咄嗟に出来ることと言えば、一気に体内魔力を放出して、お母様が言うように「固くて分厚いもの」ぐらいのイメージを、迫ってくる脅威と自分の間に置くぐらいしか出来ないだろう。

それなら脊椎反射で発動させられるぐらいに練習を重ねれば、出来そうな気がする。

魔力の手で物を掴めるのだから、”硬い手”なら盾になりそうだし。

「防御術式と言っても、攻撃の方向をいくらか逸らすか、弱めるだけだな。だから、完全に防ぎきることは出来ないし、多少の影響は残る。それでも、何も無いよりはマシだがな」

「・・・分かった。練習しておくよ」

納得しか無い。

自分の身を守るだけで無く、お母様が観衆や味方を守ったように、少しでも被害を減らすためなら優先度は高い。

ルナリアの剣の訓練で標的役でもやれば練習の機会は日常的に作れるだろう。

テレサにも覚えさせる意味は有るだろうから、王都を離れる前に誘ってみるかなあ。

危険すぎて叱られそう?

魔法道具の位置を持ち替えたのか、姿が見えなくなったお母様の声が何も無いはずの場所から降ってくる。

「で。どうだ?」

「・・・予想通り、効果範囲は垂直な円柱状みたい。効果が及ぶ距離は、魔法道具を中心とした半径50センチメテルぐらい。魔力消費は、どう?」

傾斜計の機能も有るのか、魔法道具の角度が変わっても効果範囲が垂直を保っているのも謎だよね。

「継続的に消費されているから、体内魔力保有量が少ない者にはキツいかも知れんな」

「・・・だよね。取りあえずの危険性は無いと思うけど、まだ続ける?」

魔法道具から離れて魔力の接続が切れるまで、延々と魔力を吸い出し続けられるのは、人によっては負担が大きいんじゃないかな。

「いや。この魔法道具に、これ以上の効果は無さそうだ」

「・・・私も、そう思う」

消えて見える効果は抜群だけど、効果は姿を隠すだけ、か。

1点豪華主義だな。

「ヨシ。切り上げて、陛下へ報告しに行くか」

「・・・うん」

メダルを作業台に置いたらしいお母様が効果範囲から出て来ると、魔力の接続が途切れたらしいメダルが、スゥッと姿を現す。

ONのスイッチは付いていてもOFFのスイッチが付いていないなんて不親切設計だけど、魔法道具に持たせる効果しか見ていないなら、設計思想としては無駄を省いたことになるのだろうか。

お母様が、もう一度、メダルを手にする。

私たちが戻ってきたことで王様たちは危険が無さそうだと察したらしい。

「問題は無さそうだな?」

「ああ。危険な機能は無さそうだ」

お母様から手渡されたメダルを王様が矯めつ眇めつし始めて、騎士団長閣下が王様の手元を覗き込む。

「起動に成功していたことは見ていたが、魔法道具の効果は分かったのか?」

「理屈は分からんが、魔法道具を中心とした半径50センチメテル範囲内のものを、人間、物を問わず、見えなくさせる効果が有るようだ」

王様や騎士団長閣下だけでなく、騎士団の幹部らしきオジサンたちも、揃って唸る。

「音も消せるのか?」

「いいや。作動中でも普通に会話が出来た」

騎士団長閣下の問いにお母様が首を振り、お母様の答えに了解の意味でか騎士団長閣下が頷く。

「だとしたら、気配での察知は出来そうだな」

「気配を消す訓練を受けた者だと察知は難しいんじゃないか?」

騎士団長閣下の反応にお母様が首を傾げる。

お母様の念頭に有るのはヘイナーさんたちのことだろうか。

「まさに、暗殺者向きの魔法道具、か」

騎士団長閣下がポーションを味見したような表情になる。

ヘイナーさんたちに与えたら、手が付けられなくなりそう。

ウォーレス領的には、それも有りかな?