作品タイトル不明
変化のとき ⑤
改めて生み出した明るい“光”を宙に浮かべる。
「・・・お。見えた」
見えたけど、1枚目と2枚目の“回路”は重ねてもスッキリとした感じだけど、3枚目が他の“回路”と重複して「コレジャナイ感」を出している。
何でだ?
「・・・あ。そっか」
3枚目だけを裏返して重ねてみる。
メダルの裏面をそのまま書き写しているのだから、鏡に映したようになっているわけだ。
3枚目は反転させないと、“回路”を復元した形にはならないよね。
「・・・お母様。これ、見て」
「どれだ?」
お母様が私の隣にしゃがみ込んで目線の高さを合わせてくれる。
“光”に透かして見た“回路”は、綺麗な円形の内側に古代文字が規則正しく並んでいる。
円形の真下部分―――、時計の文字盤で言えば6時のところだけポッカリと、1文字分の空白が空いている。
「これは・・・。ここにも、もう1文字、何かが入るのか?」
「・・・たぶん?」
「少し、待て」
もう一度、魔石の魔力の“質”を意識したお母様がメダルを注視する。
「やはり、何も見当たらんな」
「・・・うーん」
何だろう? 何が足りない?
“回路”が有って、“電池”と言える魔石が有って、それでも動かない。
そこに空白が有って、何かが足りないことだけは分かる。
今、魔法道具は壊れておらず、停止状態だとしよう。
これを稼働状態に切り替えるには、どうすれば良い?
切り替える・・・?
スイッチかな?
「・・・お母様。ちょっと、ソレ、見せて」
「おう」
ポンと手渡されたメダルの、文字が抜けている部分を意識してみる。
この部分にスイッチが内蔵されているものと仮定して、どうすればスイッチを作動させられる?
これが家電製品のようなものだと仮定して、スイッチ以外の部分には、“電気”―――、“魔力”が通っているんだよね?
でも、ボタンのような機構は付いていない。
日本の家電製品に付いているスイッチだと、ボタンを押す圧力やトグルスイッチのように端子の位置を変えることで、 通電状態(オン) と 遮断状態(オフ) を切り替える。
端子が接触することでスイッチが回路を完成させて、連続性を持たせるってことだよね。
スイッチって、気温で変形する素材の特性を変数として利用するようなものや、”非接触型”という種類も有ったはず。
例えば、周りの明るさを感知して作動する”デイライトスイッチ”や、人体が発する赤外線を感知して作動する”人感センサースイッチ”みたいなものも有った。
もしかして、“物理”じゃないなら“魔力”だろうか?
“質”を似せていない私自身の魔力を、メダルの空白部分に流してみる。
何か有ったのか、王様たちが居る方向から響めきが上がった。
「ぅおっ! フィオレ! 無事か!?」
「・・・うん? 大丈夫だよ?」
珍しく、お母様が焦った声を上げて、私に対して目の焦点が合っていない感じで手を伸ばしてきた。
「どこだ!? お? ここか?」
「・・・うん。ここに居るよ」
お母様が伸ばした手が私の頭に触れる。
私に触れたら、お母様は安心した様子でぺたぺたと手探りする。
「何だ、コレは。不思議な感じだな」
「・・・あれ? お母様、私の姿が見えてない?」
いつものグリグリだと頭だけだけど、手探りで顔も触るものだから、お母様の親指の先が私の鼻の穴にまで入りそうになっている。
「おう。いきなり目の前で掻き消えたぞ」
「・・・おおっ。コレ、動いたんだ」
ヨシ。
だったら、魔力スイッチで確定だな。
「ふむ・・・? 私の腕も消えているな」
「・・・ほうほう。そうなんだ?」
私の目には、お母様の腕が消えているようには見えないけど、どうやら、お母様の目には自分の腕も消えているように見えているらしい。
何だろう? この差違は。
何に影響しているのかも気になるけど、先ずは、魔力だ。
大した量じゃないけど、体内魔力を消費している感覚が有る。
意識していないけど、魔力を消費しているってことは、魔法道具に魔力を吸われてるのだろうか。
だったら、見える?
見えるのなら、“回路”の写しを完成させられないかな。
「・・・お母様。私の魔力の質を意識して、空白部分に何か”刻印”は見えないかな」
「おう。ちょっと待て。―――、有るな」
お母様の手にメダルを握らせると、お母様が見えない自分の手を凝視するような仕草をした。
ペンを取ったお母様が数秒ほど意識を集中して、2枚目の“回路”に古代文字を1文字、書き足した。
「・・・もう、止めて良い?」
「いいぞ」
「・・・ヨシ。―――、むむっ?」
もう一度、空白部分を意識して魔力を流してみても、魔力を吸われている感じが止まらない。
流しちゃダメなのか?
流さないなら、魔力を止める?
止めるって、どうやって止めるの?
私の体の胴体にも、腕にも、足にも、体内魔力は常に流れている。
私の体内魔力を“回路”が勝手に吸い上げているのだとしたら、そんなもの、どうやって止めれば良いの?
魔法道具を右手から左手に持ち替えてみたりするけど、ずっと魔力を吸われ続けている。
「止まらんのか?」
「・・・と、止まらない」
うわー! 分かんないよ!
コレ、どうしたら良いの!?
「・・・あっ! そうだ!」
”蒼焔”の核だって魔力の手が届かない距離に離れれば、持ち上げていられなくなるよね?
手に持っていた魔法道具を作業台の上にコトンと置いて、作業台から離れてみた。
「おっ。止まったか」
「・・・止まった!? ちゃんと見えてる!?」
「おう。見えてるぞ」
お母様がニッと笑う。
「・・・よ、良かったぁ・・・」
ホッと息を吐き出す。
ちゃんと目線の焦点が私に合ったお母様が手を伸ばしてきて、ぐりぐりと撫でられた。
いつの通りのグリグリで安心感に満たされる。